5月号

6通のブルックリンからの手紙|大江千里|
3通目|アメリカの観客について
3つほどあります。
まず1つ目、ノリがいい。登場から「わー」ってなってて、「元気?」と煽ると「バリバリだよ」と大声が返ってきます。今日は楽しむぞって気合い満タンなのが伝わります。
2つ目「衒いがない」。例えばジャズも「私はあまり詳しくないから」ってのがないんです。「私好きだから」ってニコニコ楽しむ気満タン。
3つ目、ノルのも早いが、冷めるのも早い。ジャズフェスでバラードをしんみりやると、席を立ってバイバイってにこやかに手を振るお客さんがいます。「まじ?Rainやってんのに?」ってこっちは度肝抜きます。でも相手にしてみれば曲の背景を知らないわけだし、ジャズはノリで楽しみたいって感じだと、退屈なんでしょうかね。以来フェスではバラード、特に難解なコード進行のものは避けるようになりました。
蛇足ですが、『秋唄』のようにオリエンタルな音階がメロディに入って、ハーモニーがモーダルなものは、結構好まれるようです。エキゾチックなんでしょうね。
MCに関しては僕はアメリカでは受けます。もしかしたらアメリカ人は「オチ」のはっきりした話が好きなんじゃないかと思われる節がある。僕のジャズデビューアルバムの『Boys Mature Slow(男子、成熟するに時間を要す)』の話をするとき、47歳で、ジャズが好きで全てを捨ててNYにきた話を割合とシリアスに淡々と続けて「じゃあここで、ジャズデビューアルバムから表題曲、Boys Mature(ここでためまんねん)、Slow!(ここ大声で!)」とやるとドッときます。その力を借り、カウントオフして曲に入るようにしてます。これは盛り上がります。
英語に関しては、僕がネイティブじゃないのはみんな知ってるし、ジャズを遅くから始めたってのも知っているから、耳の穴を全開にして「注意深く」聴いてくれる。そして「おお、ジャズになってるじゃないか?」とみんなで一緒に拍手ができる楽しさがあるんです。英語もゆっくり話します。
終演後CDを売ったりすると長い列になり、個別にお話しすると、曲の内容を詳しく質問してくる猛者も結構います。にわかワークショップ状態。
アメリカと日本の観客の違いは?なんて昔よく考え込んだこともあるにはあったのですが、だんだん、「楽しむ根っこの気持ちは同じ」で、楽しみ方が違うってのが逆に、やりがいがあって面白くなりました。トリオも聴き応えはもちろんですが、僕がライフワークで追求しているソロピアノは、ささやきのようなピアニシモからビッグバンドの如き世界観まで表現できて格別。お客さんとの一体感は自由自在です。
7月には、そのソロピアノのツアーがあります。今ずっと次への曲を書いてますので、その中からほかほかなアイデアを披露するかもしれません。『Rain』や『夏の決心』だけじゃなくツアータイトルの『君と生きたい』も、ドキッとするようなコラボでお送りします。お楽しみに。
大江 千里

クリスマスツリーの点灯式

NY証券取引所のクリスマスツリーの点灯式LIVE

Birdland_NY
大江千里 profile
1960年生まれ。1983年にシンガーソングライターとしてデビュー。2008年、ジャズピアニストを目指し渡米、THE NEW SCHOOL FOR JAZZ AND CONTEMPORARY MUSICに入学。2012年、自身のレーベル「PND Records」を設立しデビュー。現在、アメリカ、南米、ヨーロッパでライブを行なっている。NYブルックリン在住。