5月号

神大病院の魅力はココだ!Vol.42 神戸大学医学部附属病院 消化器内科・光学医療診療部長 増田 充弘先生に聞きました。
検査では馴染みのある内視鏡ですが、消化器内科ではがんをはじめいろいろな疾患の診断・治療でも活躍しています。神大病院消化器内科のこと、最先端の機器と技術を用いて行われている内視鏡診療について増田充弘先生にお話を伺いました。
―消化器内科の診療範囲は?
食道から胃、大腸、十二指腸のほか、消化に関わる肝臓、膵臓、胆嚢・胆管までを含み、神大病院では、がん患者さんの診断・治療を多く扱っています。早期に発見できれば内視鏡を用いて治療まで完結できますし、手術が必要な場合は消化器外科へとつなぎ、進行している場合は抗がん剤を使う化学療法も併用します。また、放射線科と連携した治療を取り入れるケースもあります。また、がん以外にも各臓器の良性疾患についても取り扱っています。
―内視鏡だけで治療も可能なのですか。
胃や大腸、食道にできたポリープやがんを内視鏡で取り除く治療が可能です。以前は病変の周りに「スネア」という金属の輪を置き、高周波電流で切り取るような方法でしたので大きさに限界がありました。近年、導入されているESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)では、病変の外周に水を入れて病変周囲に切開を入れてから、病変全体を浮かせながら剝ぎ取っていくイメージですので、外科手術で切除する方法しかなかった広い範囲のがんも内視鏡治療で完結することが可能になっています。
―がんの場合、内視鏡での治療をするのか、外科手術など他の方法を取るのかの判断基準はどこにあるのですか。
病変が深くまでおよびリンパや血液にのって転移しているケースや周りの臓器にまで及んでいる浸潤性のがんは除き、粘膜に留まっているがんを対象の基本としています。内視鏡で病変の状態を観察すると専門医としての経験から治療まで可能かを判断できます。さらに最近では、カメラの先端に付いたズーム機能で拡大観察が可能になり、表面や血管の構造を詳細に見てがんの深さ(深達度)を推定することもできます。また「超音波プローブ」と呼ばれる棒状の細いエコープローベを消化管の内腔におくことで、粘膜や筋肉の層のどこまでがんが及んでいるのかを見ることで内視鏡治療の可能性を判断できます。
―膵臓がんでも診断や治療に内視鏡が使われるのですか。
早期発見が難しい膵臓がんは、診断時には進行していることが多い予後の悪いがんです。家族に膵臓がんの患者さんがおられたり、膵臓に嚢胞が見つかったりしてリスクの高い方に対する検査での早期発見と正確な診断に力を入れています。CTやMRIなど画像診断でがんの疑いがあると診断されたら、先端にエコー検査機能を装備したEUS(超音波内視鏡)を使い胃壁や十二指腸壁から膵臓内にできているがんを観察し、がんに細い針を刺すこと(EUS|TA:超音波内視鏡下組織採取術)で組織を切り取ってきて詳しく検査をして診断します。エコーではがんそのものが描出されない早期のがん(上皮のみにがんが留まる場合、Stage0膵がん)は、十二指腸まで内視鏡を入れて、膵管の中に「カニューレ」という細いチューブを入れることで、膵臓の細胞を取ってくる方法を取ります。治療は主に腹腔鏡による外科手術が行われています。
―膵臓疾患では内視鏡での治療は行われていないのですか。
膵臓に関する内視鏡治療としては例えば、慢性膵炎が進行して膵管にできた膵石が消化液の流れを阻害し激しい痛みが出ている場合や、重度の急性膵炎の後に形成される壊死物質が多量に溜まった嚢胞状の構造がある場合などで、膵臓疾患で特に難易度の高い治療を神大病院では多く扱っています。
―内視鏡は膵臓まで直接届き、治療ができるものなのですか。
食道や胃の検査と同じように喉から内視鏡を入れ、十二指腸へと進み、膵臓や肝臓で作られた消化液が流れ込む「十二指腸乳頭」という部分から膵管に向けて細い管を通します。さらに膵管の中に細いカメラを入れて先へと進み映し出し、膵石があれば割ったり取り除いたりして治療を完結することも可能です。急性膵炎でできた壊死物質を含む嚢胞の治療では、胃壁から膵臓に向けて内視鏡を使って特殊な金属のステントを入れ、道筋を作りどろどろとした壊死物質を胃の中へ掻き出します。自己免疫性膵炎などの免疫疾患では膵臓が腫れますが、前述のEUS|TAという手法で診断をして、ステロイドなど内服薬による治療をします。
―胆嚢・胆管については?
膵臓と同じく、がんについては内視鏡による検査と診断が主です。総胆管結石や肝内結石では膵石と同じ手法を使って可能な限り内視鏡による低侵襲の治療を行っています。
―肝臓については?
基本的に肝臓内で直接内視鏡治療を行うことはありませんが、肝臓関連としては、肝硬変に伴う静脈瘤の治療があります。門脈を通って血液は肝臓に戻ってきますが、肝硬変が原因で肝臓が弱り、肝臓へ血流が戻りにくくなると周囲の静脈に逃げ道を作ります。その結果、食道や胃に静脈瘤ができ、最悪の場合は破裂して命にも関わります。そこで、内視鏡を用いて静脈瘤に針を刺し、薬で静脈瘤を固める処置をします。
―患者さんにとって体にやさしい治療法ですね。治療前、治療後に入院などの必要はないのですか。
内視鏡を用いた治療は外科手術に比べると体に負担の少ない治療になりますが、一定の合併症が起こり得る可能性がありますので、一定期間入院を要するものが多いです。
―大学病院だから受けられる治療ですか。
決してそういうわけではなく、どのように内視鏡治療をするのかは、ある程度、標準化されていますので病院によって治療に差はありません。ただし、病変が非常に大きな場合や非常に稀なケースで難易度が高いと予想される場合には、内視鏡を扱うにあたって特殊な技術や機器が必要ですので、大学病院に来ていただいたほうがよいケースはあります。
―神大病院消化器内科の特徴は?
兵庫県内では最も先進的な医療を提供し、特に消化管の早期がんや胆膵疾患の内視鏡治療において安定した治療成績をあげ、他の医療施設から治療難易度が高い患者さんの受け入れが可能です。さらに、様々な研究で国内外から高い評価を受けるだけでなく、例えば兵庫県下の関連病院のデータを集め検証して患者さんの治療に役立てているのも神大病院の大きな特徴といえます。
増田先生にしつもん
Q.増田先生はなぜ医学の道を志されたのですか。
A.きっかけになった美談があるわけではなく(笑)、なぜかと聞かれれば、やはり人の役に立ちたいと思っていたからでしょうか。高校生の頃は「学校の先生になろうかなあ」などとも考えていました。今となっては、大学で学生さんに教える先生の仕事をして、病院では患者さんのお役にも立てている。どちらもできているかなと思っています。
Q.病院で患者さんと接するにあたって心掛けておられることは?
A.まず、患者さんに寄り添うことです。そして、患者さん一人一人に合わせて、絵に描いたり、図を示したりしながら、ご自身の状況をできるだけ分かりやすく説明し理解していただき、一緒に考えながら治療を進めていけるように心掛けています。
Q.消化器内科、中でも胆膵疾患を専門にされた理由は?
A.いろいろなことができる胃カメラに興味を持ったところから始まっています。小さながんでも早く見つける能力が求められますが、やり始めた頃に小さながんを見つけることが多かったので自分に向いているんじゃないかなと思い、診断から治療まで自分で完結することも可能な〝外科寄りの内科〟だというところに魅力を感じていました。早期発見、早期治療で回復した患者さんに「良かったですね」と言うときなどは、とてもやりがいを感じます。胆膵疾患は、特に治すのが難しい膵臓がんの診断・治療に興味を持っておりまして、まだまだ未知なことも多く、日々の診療、研究とやりがいを感じています。
Q.大学で学生さんを指導するにあたって心掛けておられることは?
A.消化器内科の魅力を伝えられたらいいなと思っています。消化管や胆膵疾患などの内視鏡治療を実際に見て「ここまでできるのか!」と内視鏡にも興味を持ってくれて、消化器内科を志望する学生も増えてきているようです。
Q.ご自身の健康法やリフレッシュ法があれば教えてください。
A.旅行が好きなので、たまには普段と違う場所に行ってリフレッシュしています。大学では、消化器内科や胆膵疾患グループのメンバーはみんな仲がいいので、ちょっと疲れてきたら食事に行ったり、飲みに行ったりしています。私は、お酒は飲めないのですが雰囲気が好きで、一緒に楽しい時間を過ごしています。