5月号

兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第164回
川西市医師会市民医療フォーラム
「どうする認知症~知って得するつながりノート~」について
一昨年の川西医師会市民医療フォーラムは中止でしたが、昨年は開催されましたか。
元木 はい。一昨年の第21回市民フォーラムは会場の設備トラブルで急遽取りやめとなりましたが、昨年は会場をキセラホールに変更して11月14日に第22回市民フォーラムとして開催し、475名のみなさまにご来場いただきました。
今回はどんなテーマでしたか。
元木 中止となった第21回と同じ企画で、「どうする認知症~知って得するつながりノート~」がテーマとなりました。川西市医師会では県内各市町の医師会に先駆けて平成15年から市民フォーラムを開催していますが、川西市や猪名川町は阪神間でも高齢化率が高いこともあり、これまでも高齢者の医療や健康、介護に関する話題を多く採り上げてきました。認知症をテーマにするのは2011年第9回市民フォーラム「だいじょうぶ?そのもの忘れ」以来ですが、この間に治療法の進化や新たな取り組みの開始など状況も変わってきていますので、新しい情報を紹介しつつ市民のみなさまと一緒に認知症について考える機会となりました。

昨年の第22回川西医師会市民医療フォーラムは、「どうする認知症~知って得するつながりノート~」をテーマに開催。
市民のみなさまと一緒に認知症について考える機会となった
基調講演の講師はどなたでしたか。
元木 大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室准教授の吉山顕次先生をお招きし、「認知症とその最新治療」を演題に語っていただきました。吉山先生は、そもそも認知症とは脳の障害のために正常なレベルにまで発達した精神機能が低下した状態のことで、認知機能障害といった中核症状をはじめ、行動面や心理面でもさまざまな症状があらわれると解説されていました。また、認知症にはいくつか種類があり、疾患によって症状、治療や対応も異なってくるということです。今回は主に認知症の約6割を占めるアルツハイマー型認知症についてお話しいただきました。
アルツハイマー型認知症とはどんな認知症ですか。
元木 脳の中に異常な物質がたまり神経細胞が減少する病気で、覚える能力や位置を知る能力が落ち、ゆっくり進行するという特徴があるということです。具体的には時間や場所などがわからなくなる、要領よく話せなくなるなどの症状がみられますが、古い記憶は失われず、楽器の演奏など習熟した技術は特に問題ないそうです。
どのような状態だとアルツハイマー型認知症が疑われますか。
元木 初発症状はもの忘れですが、単に忘れるだけでなく、もの忘れをしているという認識が乏しかったり、取り繕い行動がみられたりしたらアルツハイマー型認知症の疑いがあるそうです。症状は不可逆ですが、いまはお薬で進行を遅らせることが可能ということでした。
新しいお薬についてのお話もありましたか。
元木 はい。それまでのお薬は神経細胞間の伝達を促進するものでしたが、新しいお薬は原因となる異常物質の合成阻害や除去に効果があるそうです。いずれにせよ症状が進んでからでは効果が見込めないので、認知症が疑われたら早期受診を勧めておられました。また、現時点では治療薬は十分とは言いがたいが、ケアの方法を考えることで改善する点は多く、そのためにも介護負担の軽減やいろいろな社会資源の活用を促すべきと指針を示され、専門医が監修したケア体験共有サイト「認知症ちえのわnet」も紹介されていました。
パネルディスカッションはどんな内容でしたか。
元木 吉山先生がコメンテーター、川西市医師会の藤末洋先生、川西市・猪名川町在宅医療・介護連携支援センター相談員の森上淑美さんがコーディネーターを務め、3人のパネリストのうち特に認知症患者ご本人に重点的にお話をうかがいました。

パネルディスカッションでは、基調講演の講師を務めた大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室准教授の吉山先生が
コメンテーターを、川西市医師会の藤末洋先生、川西市・猪名川町在宅医療・介護連携支援センター相談員の森上淑美さんが
コーディネーターを務めた
患者さんの体験談を聞ける貴重な機会でしたね。
元木 お話ししてくれたのは川西市在住の井上重實さんで、会社勤めをしていた50代の頃から若年性認知症を発症し、定年直前に退職して奥さんと二人三脚で少しずつ自信と意欲を回復して、現在は就労支援施設に通っておられます。
ご本人からどのようなアドバイスがありましたか。
元木 患者のご家族へは、受診しないといけないことは本人が一番わかっているので強引に医療機関に連れて行くような対応はだめで、心配のあまり行動制限をすることもかえって良くないということです。患者さんへは「認知症になってもいきなり何もできなくなる訳ではなく落ち込んでいる時間はもったいない。考え方を変え、早く元気と自分を取り戻しましょう」というメッセージがありました。また、認知症と認知症本人を正しく理解することの重要性や、認知症本人同士のコミュニケーションの大切さについても、患者本人だけがわかる気持ちや経験を交え語っていただきました。
ほかのパネリストからはどのような話題がありましたか。
元木 川西市福祉部副部長の田中英之さんからは、必要な医療や介護が切れ目なく提供されるための情報共有ツール「つながりノート」の紹介や、川西市独自の認知症対策アクションプランの説明がありました。川西市では認知症患者が引き起こした損害の賠償をサポートする保険事業もおこなっているそうです。川西市医師会理事の木村紀久先生は、認知症患者を医療や介護へ繋ぐ川西市の認知症初期集中支援チームを紹介し、軽度認知障害や認知症を疑う症状がみられる場合はなるべく早くかかりつけ医に、かかりつけ医がいない場合は医師会や地域包括支援センターに相談しましょうとお話されました。

3人のパネリストの一人、川西市在住の井上重實さんは、認知症を正しく理解することやコミュニケーションの大切さについても、患者本人だけがわかる気持ちや経験を交えて語った
今年も市民フォーラムを開催する予定ですか。
元木 11月に開催予定です。詳細は決まり次第、川西市医師会ホームページなどでお伝えしますので、ぜひご来場ください。
認知症ちえのわネット