5月号

大阪アジアン映画祭特別企画 ① スペシャル・インタビュー
日韓合作映画『6時間後に君は死ぬ』
映画監督 イ・ユンソクさん(右)
作家 高野和明さん(左)
日本ミステリー界の重鎮作家のヒット小説を原作に、韓国映画界の気鋭監督が映画化した話題作「6時間後に君は死ぬ」が5月16日封切られる。「監督に俳優、スタッフ。韓国映画の想像を超えた高い力量に改めて驚かされました」と同名小説の原作者、高野和明さんは称え、「日本の小説、映画ファンが、どう評価してくれるか楽しみです」と、日本で映画製作を学んだイ・ユンソク監督は流暢な日本語で期待を込めた。
日韓のメディア・ミックス
今作は、昨年10月、韓国で劇場公開されるや5万人以上を動員するヒットを記録。また、タイやカンボジア、ラオスなどアジア圏でも次々と公開され、「インドネシアでは韓国を上回る10万人を動員したんですよ」とイ監督は胸を張った。
日本では今年3月、大阪市で開催された「大阪アジアン映画祭」で初お披露目され、イ監督も来阪。高野さんと久々に再会し、共に舞台挨拶に立ち、日本の映画ファンの熱い声援を浴びた。
この舞台挨拶前、映画祭会場の楽屋で二人を取材した。
「昨年7月にイ監督と初めてお会いしました。場所は韓国のプチョン国際ファンタスティック映画祭の会場です。舞台挨拶では映画好きが多い韓国のファンの温かい拍手、大きな声援に感動しました」と高野さんは振り返る。
《アルバイトを掛け持ちしながら日々暮らす女性、ジョンユン(パク・ジュヒョン)は30歳の誕生日の前日。道ですれ違った男に声を掛けられる。「君は6時間後に殺される」と。男の名前はジュヌ(ジェヒョン)。「自分には予知能力がある」と、ジュヌに告げられるが、ジョンユンは半信半疑だった…》
同映画祭で今作は観客賞を受賞。ヒロインを演じたパク・ジュヒョンが、最優秀賞にあたる俳優賞を受賞し、話題をさらった。
原作となった同名のミステリー小説『6時間後に君は死ぬ』(講談社文庫)は、2007年に日本で刊行され、翌年、WOWOWのドラマWで映像化された。脚本は高野さんが担当している。

パク・ジュヒョン(左)演じる主人公ジョンユンは、チョン・ジェヒョン(NCT)演じるジュヌから突然、死を予告される

〝映画熱〟で結ばれた絆
韓国での映画化は6年ほど前から企画が上がったものの、なかなか進捗せず、コロナ禍などを経て、2023年、ようやく動き始める。
「2023年5月、オーディションなどでキャスティングを行い、7月7日にクランクイン(撮影開始)しました」と語るイ監督にとって今作は、劇場公開される長編商業映画のデビュー作だった。
7月下旬にクランクアップ(撮影終了)。
「ジェヒョンにとっても映画デビュー作でしたが、彼は日韓で人気のK-POPグループ『NCT』のメンバー。厳しいアイドル界でダンスや歌などで鍛え上げ、トップスターとなっただけに、映画デビューとは思えない演技力を見せてくれた。安心して彼にこの難役を任せることができました」と語る。
「元々、韓国映画のレベルの高さは理解していましたが、この映画を見て、監督の演出力もですが、ジェヒョンさん、パク・ジュヒョンさん、刑事役のクァク・シヤンさんたち俳優陣の演技力の高さに圧倒されました」と語る高野さんは、実は映画とは〝深い関係〟を持つ。作家デビュー前、日本映画界の重鎮、岡本喜八監督に師事し、米ロサンゼルスの大学で映画を学んだ後、脚本家などとして映画現場で〝修業〟を積んだキャリアを持つ。
「小学2年の頃、母に連れられ、映画館で見たスティーブン・スピルバーグ監督の『激突』に衝撃を受け、小学5年のときに同じくスピルバーグ監督の『ジョーズ』を見て、映画監督になろうと決意しました」
そう高野さんが明かすと、隣でイ監督が、「私は小学生の頃、スピルバーグ監督の『E.T.』を見て以来、映画に興味を持ったんですよ」と笑いながら打ち明けた。
日本での映画修業の成果
こう振り返るイ監督の経歴も異色だ。
韓国の大学を卒業後、出版社で勤務後、日本で映画を学ぶために、今村昌平監督が創設した日本映画大学(元日本映画学校)に留学。今村監督や天願大介監督(今村昌平の長男)など日本の名匠たちから映画製作の技術を習得した。
「韓国の出版社にいた頃、日本の映画雑誌『キネマ旬報』との共同企画があり、そのときに石井聰互監督(現・石井岳龍)と知り合い、日本映画大学を紹介してもらったんです」
日本で〝映画修業〟したイ監督は、卒業後、日本の映画現場で働く。ハリウッドの重鎮、マイケル・マン監督による東京を舞台にした世界配信の日米共同制作ドラマ『TOKYO VICE』(2022~2024年)のロケーション・プロデューサーや、三池崇史監督による韓国ドラマ『コネクト』(2022年)では助監督を務めた。また、中山美穂の久々の主演映画として話題を呼んだ日韓合作の映画『蝶の眠り』(2018年)ではライン・プロデューサーを務めるなど長年、日韓映画界の懸け橋的存在として活動してきた。
新作の予定を聞くと、「まだ、詳しくは言えませんが、初めてホラー映画に挑戦します」とイ監督は教えてくれ、こう続けた。
「日本と同様、韓国も少子化が進んでいます。将来は、日韓が協力しあいながら共同で映画を製作する機会は必ず増えてくると思います。今回の映画が、そのいいきっかけとなれば」
両国の映画製作現場を知るイ監督へかかる期待は大きい。
高野さんは「実は、昨年のプチョンでの映画祭に、韓国の出版社の方が私に会いに来てくれて、『韓国で新刊を出しませんか?』と依頼されたんです。今年6月、韓国で初の短編集を刊行することが決まりました」と声を弾ませ〝ビッグ・ニュース〟を教えてくれた。
日韓の才能がタッグを組んで生み出す〝メディア・ミックス〟の新たな潮流が、未来の文化・芸術の国際交流の可能性の広がりを予感させる。

イ監督(左)と入念な打ち合わせをするジェヒョン。
日韓で人気のアイドルだが今作が映画初主演
文=戸津井康之

映画監督 イ・ユンソクさん(右)
作家 高野和明さん(左)
原作:高野和明『6 時間後に君は死ぬ』(講談社文庫)
監督:イ・ユンソク
出演:チョン・ジェヒョン(NCT)、パク・ジュヒョン、クァク・シヤン
原題 :6 시간 후 너는 죽는다
英題:YOU WILL DIE IN 6 HOURS
字幕翻訳:石井絹香
配給:クロックワークス
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公式サイト:https://klockworx.com/die6hours
5月16日(金)テアトル梅田、シネ・リーブル神戸ほか
全国ロードショー!