5月号

わたせせいぞう作品に、アトムが登場! 「夢のようなコラボレーションができました」
漫画家・イラストレーター
わたせせいぞうさん
漫画家・イラストレーターのわたせせいぞうさんの企画展『わたせせいぞうの世界展~手塚ワールドとの出会い~』が、手塚治虫記念館で開催されています。
神戸市出身のわたせさん。宝塚市での思い出、手塚治虫作品との出会いは少年時代にまでさかのぼります。手塚治虫さんとのご縁、展覧会開催にあたり描き下ろした作品『アトムのロマン』へ込めた想いをわたせさんにうかがいました。
憧れの人、手塚治虫
「手塚漫画を読まずに大人になった人はいないんじゃないかな。とにかく少年時代は夢中になりました。そんな憧れの手塚先生の記念館で展覧会ができたことにびっくりです。漫画雑誌を抱えたあの頃のボクは、今の状況をどんな思いで見るだろう。そんな想像をすると、大変うれしく、大変しあわせです」。
そう話すとわたせさんは会場を見渡した。館内には手塚作品の人気キャラクターがあちこちにディスプレイされている。
「手塚先生の作品、キャラクターを見ると、今でも子どもの頃の気持ちに戻って、自分の基本に立ち返ることができます」。
影響を受けた作品としてはじめに挙げたのは『新寳島』。戦後の日本漫画の出発点とされている、手塚さんの単行本デビュー作だ。
「この漫画を読んだ多くの少年たちと同じように、この冒険物語には大きな衝撃を受けました。とにかく漫画として新しかったんです。リズムのよさ、洋風の雰囲気、こんな表現があったのか!と、すべてにワクワクしました」。
そして、現在も変わらず人気を誇る『鉄腕アトム』が登場。さらに夢中になった。
「アトムが発表されると、これも多くの少年がそうだったと思いますが、真似して描いてみるようになりました。漫画家を目指すとか、そんな気持ちが芽生えるずっとずっと前のことです。描いてみると、いろいろなことがわかってきました。なかなか描けない。アトムって難しいんです」。
手塚治虫のキャラクターを描く
そう話すアトムを、わたせさんはこの度、新作『アトムのロマン』の中に登場させた。作品として描いたのは初めてのこと。ウラン、ブラック・ジャック、レオ…。手塚治虫記念館に集うキャラクターたちは、後ろを向いていたり、姿を変えていたり、かくれんぼしていたり。「手塚先生のキャラクターをボクの絵の中に描く日が来るなんて夢のようだ!と思いました。うれしいけれど恐れ多くて、少し控えめに…。キャラクターの正面の顔は手塚先生が描くものだという思いもあって、控えめに描きました。それでも、本当に描いてよかったのかな…と今も思っています」。
今作でわたせさんが描いたカップルは、バラの咲く季節、白馬に乗って記念館を訪れる。
「手塚先生が描く動物が大好きなんです。しなやかで柔らかな動きとか、飛んだり跳ねたりする躍動感とか。子どもの頃、ウエスタンものの『サボテン君』に登場する馬に魅せられてから、特に馬はどうしたらこんなふうに描けるんだろうと、ずっと考えていました」。長いあいだ特別に思ってきた手塚さんの「馬」を、わたせさんはこの度、作品の中に描いた。カップルを乗せた白馬。『リボンの騎士』サファイアの愛馬オパールだった。
手塚治虫との不思議な縁
宝塚市育ちの手塚さんと神戸市出身のわたせさん。2人には共通点がある。「子どもの頃、六甲山で昆虫採集をしていたこと。ボクはよくカマキリを捕まえていました」。手塚さんの昆虫好きは作品でも知られているが、わたせさんも実は昆虫好き。画業をスタートしたきっかけは漫画雑誌に投稿した『新漫画昆虫記』(1974年)。昆虫を主人公としたギャグ漫画だった。今展では原画を展示している。わたせさんの初期の漫画、しかも原画を目にする機会はそう多くはない。「本当はあまり見せたくないんです。なんだか恥ずかしくて(笑)」。
2人の「昆虫記」の原点となる六甲山は、神戸市と宝塚市を繋ぐように位置する山塊。「神戸の風景は、手塚先生も作品の中で描いているし、ボクも描いています。同じ景色を見ていたんだなと感じています」。
手塚さんに会う機会はあったのかを聞くと、「デビューしてからある出版社のパーティーでお会いして、ごあいさつしたことがありました。その一度きりですが、舞い上がってしまっていたのでしょうね、どんな言葉を交わしたかまでは覚えていない。残念です」。
一緒に創作する機会はなかったが、2015年に阪急電車で、2人は“共演”を果たしている。「このあたりに住んでいる方はご覧になっているかもしれません。神戸線ではボクのイラスト、宝塚線では手塚さんのキャラクターをデザインしたラッピングトレインが、同じタイミングで線路を走りました。この時も感激しました。素敵な共演でしたね」。
走り続ける2人
わたせさんの代表作『ハートカクテル』は、週刊誌に初めてオールカラーで掲載され、カラー漫画の先駆けとなった。「日本の漫画が空を青色だけで表現していた頃、フランスの雑誌では、ピンクや黄色も使って空を自由に表現していました。自然の中にある色は、空も海もひとつではない。ボクは刺激を受けて、それから自由な色彩を意識するようになりました」。その日からわたせさんの色彩への探求は続き、作品は今日も見る人のイマジネーションを刺激し続けている。
時代に合わせて創作を続けた手塚さんとの共通点でもある。
今月16日(土)は、宝塚市でトークショーが行われる。話の続きを聞きに行こう。
text.田中奈都子

「アトムのロマン」
©SEIZO WATASE / APPLE FARM INC.・©Tezuka Productions

「春は幸せのYellowから」
©SEIZO WATASE / APPLE FARM INC.

「風が連れてきた人」
©SEIZO WATASE / APPLE FARM INC.

わたせせいぞう
1945年兵庫県神戸市生まれ、北九州小倉育ち。小倉高校卒業。早稲田大学法学部卒業後、サラリーマン生活を送りながら漫画の制作を始める。1974年『ビッグコミック』の第13回コミック賞入選を皮切りに1983年より『ハートカクテル』など大人のラブストーリーを描き続けている。また、官公庁広報用ポスターおよび企業広告用イラストを数多く制作、イラストレーターとして国内外において展覧会を開催している。北九州市漫画ミュージアム名誉館長。
《展覧会情報》
「わたせせいぞうの世界展
~手塚ワールドとの出会い~」
会期:2026年6月7日(金)まで
会場:宝塚市立手塚治虫記念館
《わたせせいぞうトークショーのお知らせ》
日時:2026年5月16日(土) 13:30~15:30
会場:宝塚文化創造館1階講堂
募集定員:100名(先着順)












