5月号
神大病院の魅力はココだ!Vol.54 神戸大学医学部附属病院 乳腺内分泌外科 三木 万由子先生に聞きました。
女性にとっては心配な乳がんについて、その治療法や検診、日頃から気を付けることなど、三木万由子先生に伺いました。
―乳がんはどこで発生するのですか。
乳房は、母乳を作る臓器で、乳腺と脂肪でできています。乳腺内には、乳汁を分泌する小葉と、乳汁を小葉から乳頭まで運ぶ乳管があります。乳がんはほとんどのケースでこの乳管内で発生し、初期の段階では乳管や小葉内に留まっています。時間が経って周囲に広がり始めると周りの血管やリンパ管に入り込み、リンパ節や骨、肺、肝臓などの臓器へと転移するリスクが高まります。
―なぜ乳管内にがんが発生するのですか。
原因はひとつに限定できません。遺伝的要素で乳がんになりやすい体質の方もいますし、出産や授乳の経験がないと幾分リスクが高くなる傾向はあります。しかし、それだけが絶対的な原因ではなく、生活習慣や環境など、いろいろな要素が重なって起きると言われています。
―遺伝的に乳がんになりやすい方は予防的に乳房を切除することもあるのですか。
乳がん患者さん全体の5~10パーセント程度が遺伝性の乳がんであるといわれています。遺伝性の乳がんのうちの半数を占める遺伝性乳癌卵巣癌症候群の方はBRCA1/2という遺伝子の変異(遺伝子は体を作る設計図のようなもので、変異とはその設計図にちょっとした違いがあること)があり、乳がんや卵巣癌になりやすい体質です。この遺伝子変異を持っていると必ず乳がんになるというわけではありませんが、変異がない方よりは乳がんになる確率が高いです。がんになる前に予防的に乳房や卵巣を切除する手術を受ける方もおられます。
―乳がんの手術方法はどこまで進歩しているのですか。
何十年も前は手術でがんの周囲を大きめに切除するのが良いとされ、周りのリンパ節だけでなく胸筋も切除する手術が行われていたこともありました。近年、がんの研究が進んで、薬物療法や放射線療法の併用により、乳房を残して手術ができるケースも増えました。リンパ節に関しても、広く切除する手術から、数個のリンパ節のみを摘出する手術(センチネルリンパ節生検)が増えてきました。
―乳房全摘というケースもあるのですか。
乳房を残す手術ができるかどうかは、乳がんの大きさや広がり、乳房の大きさなど様々な情報によって判断します。また、患者さんによっては、むしろ全摘してしまいたいという方や、変形した乳房を残すより、全摘して乳房再建したい、という方もいらっしゃいます。
―乳房再建手術はがんの摘出と同時に行えるのですか。どういった方法があるのですか。
同時も可能ですし、改めて再建手術だけを行うことも可能で、乳がんの再建手術は保険が適用されます。人工物(シリコンインプラント)を入れる方法と自家組織(自分のおなかの脂肪や背中の筋肉など)を用いる方法があります。乳房の大きさやご本人の意向などを考慮して選択します。
―切らずにがんを取る方法もあるのですか。
乳がんではラジオ波焼灼術が保険適用されています。しこりの中に針を刺して焼く方法です。ただし、がんが小さい、一つだけであるなど、細かく条件が設定されています。また、術後には再発予防のため放射線治療を受ける必要があります。その後乳がんがあった部分を再度生検し、万が一がんが残っていれば乳房部分切除が必要です。これらを了承していただける場合にのみ行うことができます。
―若い世代で乳がんが増えているのはなぜでしょうか。
一般的には食生活の欧米化などが理由だと言われていますが、出産回数が減り、授乳の経験がない女性が増えているということも理由の一つに考えられます。また、検診が普及して早期発見の件数が増えていることも患者さんの数が増加している理由の一つと言えます。
―どれくらいの頻度で、どのような検診を受けるとよいのでしょうか。
乳がんについては、2年に1回のマンモグラフィ検診が推奨されています。マンモグラフィでは、乳腺もしこりも白く映ります。そのため、特に若い方で乳腺が厚い場合はしこりが見つかりにくいこともあります(高濃度乳房)。こういった場合は超音波検査を受けることをお勧めしています。ただし、ご自身で気になる症状があれば、検診ではなく、必ず専門医を受診してください。
―自分でしこりに気づくころには、かなり進行している状態なのですか。
ご自身でしこりに気づく場合、1~2cm以上の大きさで見つかることが多いです。1~2cm程度であれば早期の乳がんであることがほとんどで、適切な治療によって完治を目指すことができます。その方にとってより良い治療が選択できるように一緒に考えていきますので、怖がらずに受診していただきたいと思います。
―男性にも乳がんはあるのですか。検診がないので発見が遅れるのでは?
乳房に厚みがない男性はご自身でしこりに気づきやすく、しこりを自覚して受診される方のほとんどは、ホルモンのバランスや薬剤などが原因で乳腺が腫れる女性化乳房症という良性の疾患です。診察の結果、がんの疑いがあれば生検し、その結果、ごくわずかですが乳がんの方もおられます。先ほど述べた遺伝性乳癌卵巣癌症候群は、1/2の確率で性別に関係なく遺伝するため、男性でも血縁に乳がんが多い方は少し意識されておいたら良いと思います。遺伝性乳癌卵巣癌症候群の場合、男性は乳がんだけでなく、前立腺がんのリスクも高まります。男性の乳がんは多くありませんが、「自分も少し気を付けておこう」という意識を持つことが大事だと思います。
―乳がんの予防法はありますか。
飲酒や喫煙など、がんのリスクになることを避けるということはありますが、これをやれば乳がんになりにくいという予防法はありません。普段から早期発見を意識して、早期治療につなげることが最も大切なことです。

三木先生にしつもん
Q.三木先生はなぜ医学の道を志されたのですか。
A.小さいころ通っていた小児科の先生を見ていて、「人の役に立てるお医者さんっていいな」と思うようになり、小学生のころにはお医者さんになろうと決め、そのまま医学の道へ進みました。
Q.乳腺外科を選ばれた理由は?
A.学生時代に実際に各科を実習してみて、私は手術が好きだったので外科に進もうと決めました。その中でも乳腺外科はほとんどの患者さんが女性ですから、女性医師が活躍できる領域だと知り、研修医になるときには乳腺外科医になると決めていました。
Q.患者さんに接するにあたって心掛けておられることは?
A.乳房に対して思っておられることは患者さん一人ひとりで違います。患者さんの立場に立って考え、時には一緒に悩み、できるだけ患者さんの希望に沿える治療法を提案し、納得して治療を進めていけるように心掛けています。
Q.学生さんや後進の先生方に接するにあたって心掛けておられることは?
A.若い先生方とはジェネレーションギャップを感じています(笑)。ですが、自分が若い医師だったころとは働き方などもずいぶん変わってきていますので、今の若い先生たちの価値観を否定しないようにしています。まずは自分自身が楽しく仕事をして、何でも気軽に相談してもらえる先輩になれるように心掛けています。
Q.ご自身の健康法やリフレッシュ法があれば教えてください。
A.睡眠不足になるとしんどいので、夜更かしはせずに早く寝て、睡眠を十分に取るようにしています。リフレッシュ法は、いろいろなスーパー銭湯へ行ってゆったり過ごすことです。












