7月号

HYOGO×台湾実践大学 | ひょうご国×台湾
台湾と日本、島国の共鳴を発想の起点に
台湾実践大学ファッションデザイン学科の副教授・董雅卉(Masa Tung)さんが「播州織」の産元と協力し、生地の魅力を最大限に引き出した3つのスタイルを完成させた。公益財団法人神戸ファッション協会が播州織PR活動の一環として企画。コラボレーションのオファーを受けた董さんは2024年11月、播州織の産地、兵庫県北播磨地域(西脇市・多可町)を訪問。その繊細な織り目や美しい色彩に感動し、播州織が地場産業として発展してきた歴史や環境、文化的な背景も含めて表現したいと考えたそう。
デザインのアイデアを練るなか、自身が影響を受けた兵庫県出身の哲学者・和辻哲郎の著書「風土」を思い出す。「文化や価値観は土地特有の自然や気候による“風土〟と密接に関係するという彼の思想を主軸にしてはどうか?台湾も日本同様、季節性の風土に影響を受ける島国。同じ島国に生きる者として対話を重ね、デザインに落とし込もう」と考えたのだ。
そうして「島国の共鳴」を発想の起点に、「無常」「間柄」「風土」という3つのテーマを決定。播州織産元商社の「桑村繊維」「内外織物」「丸萬」が提供した既存の生地を活用するとともに、丸萬の協力を得て、兵庫の海や山を彷彿させるオリジナル生地も制作。わずか3ヵ月で、作品を完成させた。
4月26日から開催した大阪・関西万博会場での「ひょうご国」の展示では、華やかで軽やかな播州織ファッションが来場者を魅了。董さんは「今回、創作のコアとなったのが温故知新の考え方。伝統の知恵を大事にしつつ、斬新なアイデアと融合させることで、文化や風土を次のステップとなる未来へ繋いでいける。約250年の歴史を誇る播州織の自然な風合い、細い糸が織りなす繊細な肌触りを通じて、北播磨の自然や文化の繊細さ、人と人、人と自然の繋がりを大事にする丁寧さ、変化のなかにある永劫などを感じてもらえれば」とデザインに込めた思いを語った。
和辻哲郎の「風土論」を起点に
播州織×台湾の服飾デザイナー
桑村繊維×丸萬×董雅卉さん
間柄(Aida-gara):人と人、人と自然の繋がり
「間柄」は和辻哲郎の倫理学の核であり、人間関係や社会性の密接な繋がりを主張するもの。デザインにはパッチワークとドローストリングのディテールを組み合わせ、人間関係のネットワークと自然との関係の紡ぎを表現。着物の帯締めなど、東方文明の服飾によく見られる伝統的な要素を採用しながら、若者層も意識して、ワンピース×アウターのレイヤードなど、現代的なスタイリングを採用。

青色の幾何学模様が印象的な生地

ギャザーを寄せるデザインで、人間関係のネットワークや自然との共存を表現

播州織=シャツ生地のイメージから脱却したいとの想いからハットやポシェットなど小物もデザイン

アウターの下はツートンカラーの切り替えが鮮やかなキャミソールワンピース。裾に向かって広がるフレアデザインで播州織の軽やかさを強調
内外織物×董雅卉さん
無常(Mujō): 変化の中にある永劫
「無常」の哲学は自然と生命の流動性にファーカスし、“海”を変化の象徴に。軽く揺らめく素材のグラデーションによる染色と波紋のようなラインを組み合わせ、潮の満ち引きや光と影の変化を表現。アシンメトリーのカッティング及び透明な材質を使用し、海の目まぐるしい変化や神秘的な特徴を表し、時間と生命の流転を視覚的に感じさせるファッションに仕上げた。

シフォンとオーガンジーのような軽く揺らめく素材を採用

波立つ海の流動を感じる曲線、ドレープが美しいシルエット

染め上げた糸を織る、先染めを特徴とする播州織の生地本来の風合いがそのまま残る
丸萬×桑村繊維×董雅卉さん
風土(Fūdo):自然と文化の対話
「風土」は地理環境だけでなく、文化の根源と言えるもの。空、海岸線、島の隆起など、島国の自然の景色をデザインのインスピレーションとして活用し、上下のセットアップを完成させた。ウェーブ式のカッティングを活用して海の流動を、グラデーションの色彩、海と空に光が差すような色調に加えて、棚田や稲穂など農の要素もプラスして、自然と文化の融合を表現している。

今回のコラボのために丸萬と共創したオリジナル生地。兵庫の海や山、和辻の論述から着想を得た人類や自然、社会の深い繋がりを表現

差し色のオレンジは太陽をイメージ

大胆なインナーの波のような生地もポイント
About 董雅卉さん
2004年第一回日本高島屋国際奨学金人材育成プログラムで奨学金を獲得し、4年間日本に留学。その後、東京の文化服装学院に進学、卒業後は日本企業に勤務。高島屋の支援を受け、自身のブランド「PUREDESIGN」を東京で設立。台湾帰国後は日台のデザイン交流を推進。2012年より実践大学にて教鞭をとり、現在に至る。実践大学教学イノベーション教材・カリキュラム奨励特優賞(2025年)など、受賞歴多数

董雅卉さん
(大阪・関西万博の展示会場にて)