7月号

近代建築の巨匠、フランク・ロイド・ライトを学ぶ|Chapter 14 ヒューマンスケール |平尾工務店
平尾工務店がお届けする「オーガニックハウス」の基本的な理念や意匠を編み出した世界的建築家、フランク・ロイド・ライトについて、キーワードごとに綴っていきます。
旧山邑家住宅や自由学園明日館など、日本にはフランク・ロイド・ライトの作品が現存していますが、これらの内部に身を置くとどこかしっくりとくる感覚を覚えます。
その秘密の1つとして考えられるのが、ヒューマンスケールです。これは、人間の身体のサイズを建築の基準にするという考え方です。
室内空間のスケール感が人体をベースにしたものであれば、ちょうどサイズの合う服を着るのと同じで、違和感なく快適に過ごせます。しかもライトは「内部空間が外にあふれ、大地のつながりと共調する」ことをひとつの理想としていましたので、ヒューマンスケールの影響は内部のみならず外部にも波及し、これが建物のデザインへと有機的に結びつく訳です。
ライトは身長が5フィート8インチ半=約174cmでしたが、この寸法を設計の標準値としており、「もしわたしが3インチ高かったならば、わたしの建てたすべての建物は、全く異なったプロポーションを持っていただろうと言われている。多分、そうだろう」と著書で述べています。ただし、帝国ホテルではテーブルの高さを抑えるなど日本人の体格に合わせており、調度品などはユーザーに応じて使い勝手を考えつつ適切に調整していたようです。
なお、近代建築の三大巨匠としてライトと並び称されるル・コルビュジエも、フランス人男性の平均身長で自身の背丈でもある約183cmを基に「人間が最も美しいと感じる」黄金比を応用した「モデュロール」を提唱、「ロンシャンの礼拝堂」などで実践しています。
ライトは人体に準拠した建築というコンセプトを発想する一方で、畳のサイズが日本建築の規格になっていることを見出しています。起きて半畳寝て一畳、これはまさに日本人の身体的尺度と言えるでしょう。わが国の先人たちはライトやコルビュジエに先んじて、ヒューマンスケールの心地よさを知っていたのかもしれませんね。

自由学園明日館(イメージ)
FRANK LLOYD WRIGHT
フランク・ロイド・ライト
1867年にアメリカで生まれたフランク・ロイド・ライトは、91歳で亡くなるまでの約70年間、精力的に数々の建築を手がけてきました。日本における彼の作品としては、帝国ホテルやヨドコウ迎賓館、自由学園明日館が有名です。彼が設計した住宅のすばらしさは、建築後100年経っても人が住み続けていることからわかります。
これは、彼が生涯をかけて唱え続けてきた「有機的建築」が、長年を経ても色褪せないことの証明でしょう。フランク・ロイド・ライトが提唱する「有機的建築」は、無機質になりがちな現代において、より人間的な豊かさを提供してくれる建築思想なのです。