7月号

兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」第166回
世界腎臓デー2025
CKDイベントinあかしについて
─腎臓とはどのような臓器ですか。
米倉 腎臓はだいたい腰の高さの背中側に左右1つずつある、成人の握りこぶしくらいの大きさの臓器ですが、「肝腎要」といわれるように大切な器官です。腎臓には心臓から送りだされる血液の20%以上が流れてきて、1日200Lもの血液をろ過して老廃物を取り出しています。また、体液の量、酸性度(pH)や血圧を調整したり、ナトリウムやカルシウムなど電解質のバランスを保ったり、造血を司るホルモンの分泌や骨を強くするビタミンの活性化など多くの重要な機能を担っています。
─CKDとはどのような病気ですか。
米倉 CKDとはChronic Kidney Disease、つまり慢性腎臓病のことです。その定義は①尿検査の異常や画像診断や病理診断などから明らかに腎障害があること、②推算GFR(糸球体濾過量)が60㎖/分/1.73㎡未満と腎臓機能の低下がみられることの、①と②のいずれかまたは両方の状態が3か月を超えて続いている状態です。日本では約2千万人、成人の5人に1人がCKDと推定されています。(日本腎臓学会, CKD診療ガイド2024)
─CKDは放置するとどうなりますか。
米倉 慢性腎不全から末期腎不全状態(生きていくためには透析が必要な状態)になるということが問題です。さらに、末期腎不全になるよりもずっと前から心臓や血管の重篤な疾患を発症しやすくなる、その結果寿命も健康寿命も短くなり得る、ということが大きな問題です。以前は慢性腎不全になってはじめて気付いて、病院を受診したら早々に透析せざるを得ない、という患者さんも多かったのです。近年はCKDという概念が浸透して透析しかできないくらいに悪化する前に病状の発見が可能になり、早期に気付くことで原因の検査や治療、根本的な治療ができない場合にも腎臓のはたらきの低下を遅らせるための治療に繋げることができるようになりました。
─世界腎臓デーについて教えてください。
米倉 CKDやその他の腎臓病の早期発見・早期治療の重要性を啓発し、腎臓の役割の大切さを広く知ってもらうための国際的な取り組みで、2006年に国際腎臓学会と腎臓財団国際連合により毎年3月の第2木曜日が世界腎臓デーと設定されました。この日を中心にして世界中でさまざまな啓発イベントが開催されています。兵庫県では兵庫CKD対策・連絡協議会(2011年発足の非営利団体)が主体となり、2013年より県内各地持ち回りで世界腎臓デーのイベントを開催してきました。新型コロナウイルス感染拡大の影響で2020年からしばらく中断しましたが、昨年姫路で再開し、今年は明石で3月23日におこないました。

あかし市民広場での街頭キャンペーン

あかし市民広場での街頭キャンペーン
─イベントを通じ、市民にどのようなことを伝えたいですか。
米倉 まず、CKDであっても自覚症状を感じないことが多いので、腎臓が発信するサインを見逃さないでほしいということです。サインが出るのは血液検査や尿検査ですので、そのことを知っていただいて健康診断や人間ドックを受けていただきたいです。特に若い働き盛りの世代や出産後の女性には、ご自身の身体よりも気になることがあっても、元気だから、若いから大丈夫だろうと思っても、ぜひ健診を受けていただきたいです。腎疾患の患者のみなさまへは、日々の生活での工夫や自己管理、透析などの治療は大変な負担ですが、自分らしい生活を実現できるように取り組んでほしいという思いがあります。社会全体として、腎臓や腎臓の病気のことを正しく理解してほしいですね。慢性腎臓病患者、特に透析治療を受けておられる方に対しては、「自業自得」や「不摂生」というレッテルを貼られがちです。確かにバランスの悪い食生活や肥満、喫煙や過度な飲酒は腎臓病のリスク因子ですが、これらだけが原因ではないのです。誰もが経験する加齢現象として腎機能は低下しますし、遺伝性・先天性の腎疾患も少なくなく、全く日常生活に原因なく発症する腎炎も多くあります。また、外傷や手術、感染症、薬剤の影響などにより腎機能が影響を受けることもあるなど、腎臓病の要因はさまざまです。偏見により患者さんが大きな負担を抱えていることを理解し、腎臓と真摯に向き合っている患者さんをサポートする社会であってほしいですね。

市民公開講座も開催
─今回のイベントはどんな内容でしたか。
米倉 明石駅前のあかし市民広場では血圧測定コーナーや相談コーナーの設置、CKDの情報提供などの街頭キャンペーンをおこないました。また、ウィズ明石では、「じん臓と健康について、一緒に考えてみませんか?」をテーマとした市民公開講座を開催しました。
─市民公開講座ではどのようなお話がありましたか。
米倉 冒頭に神戸大学大学院医学研究科腎臓内科准教授の藤井秀毅先生より腎臓やCKDについての解説があり、これを受けて「腎臓を守ろう」を主題にそれぞれの専門職の視点から4人の講師にお話いただきました。まず、神戸市立医療センター西市民病院管理栄養士の赤沢尚美さんが「元気に過ごすために食事からできること」を演題に、食事のバランスや減塩のための調理のポイントをわかりやすく解説しました。続いて兵庫県立西宮病院透析室看護師の小谷亜由美さんは、「看護師の立場から伝えたいこと」と題して早期発見治療の大切さを訴え、西宮市独自のCKD予防連携事業も紹介しました。明石医療センター薬剤師の岩崎克也さんは「お薬と健康食品・サプリメント」をテーマに腎臓とお薬の関係について解説し、腎機能が低下している場合には市販薬はもちろん、健康食品やサプリメントを摂取する際にも必ず医師や薬剤師に相談しましょうと注意を促していました。最後に兵庫県立はりま姫路総合医療センター腎臓内科診療科長の中西昌平先生が「検診と生活習慣のポイント」を演題に、健診やCKDの診断と治療、腎臓が悪くなった際の生活習慣の注意点などのお話をされました。

管理栄養士の赤沢尚美さん

看護師の小谷亜由美さん

薬剤師の岩崎克也さん

医師の中西昌平先生
─イベントの感想を。
米倉 公開講座の参加者のみなさんは真剣かつ熱心で、その熱意に我々医療関係者は大きな勇気をいただきました。その思いを受けて、より腎臓の病気の啓発を推進していきたいですね。また、イベントを一緒に創り上げていった医療関係者のみなさまの力を感じました。いろいろな専門職が力を合わせて腎臓を支えているのだなとあらためて実感し、今回のイベントを通じその絆が強くなったのではないかと思います。
─今後も世界腎臓デーのイベントを開催する予定ですか。
米倉 はい、開催場所や内容は変わりますが、今後も継続していきます。来年も今年と同様、世界腎臓デーの前後に開催予定で、場所や企画は現在検討中です。今後もイベントを通じて腎臓病への正しい理解と向き合い方をみなさんと一緒に考えて、多くの方々の健診に結びつけば嬉しいですね。読者のみなさまもぜひ健診を受けて、生活習慣を見直しましょう。