7月号

【スペシャルインタビュー】ディズニー映画の人気は普遍…
〝ヒットの仕掛け人〟が語る映画ビジネス最前線
現在、日本で公開中のマーベル・スタジオ最新作『サンダーボルツ*』や人気アニメーションを完全実写映画化した『リロ&スティッチ』など、今年もディズニーの大作映画が順調に興行成績を伸ばしている。その陰に〝ヒットの仕掛人〟がいる。日本マーケットの配給・劇場宣伝などで総指揮を執るウォルト・ディズニー・ジャパンの佐藤英之ゼネラル・マネージャー(GM)だ。
映画ビジネス最前線について佐藤GMに聞いた。
〝洋画の巻き返し〟を牽引
2023年に公開された洋画で、興行収入が10億円を超えた作品は15本。昨年は10本にまで減った。これに対し、佐藤GMは、「ハリウッド業界のストライキで大作の公開が延期され、日本にも影響が出ましたが、今年は間違いなくヒット作は増えるでしょう」と自信を見せる。
この言葉通り、今年始めから洋画のヒット作は相次ぎ、洋画業界全体を牽引しているのがディズニー作品だ。
今年の後半戦も今月25日から公開される『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』やディズニー&ピクサー最新作『星つなぎのエリオ』など、期待作が目白押しだ。
この〝ディズニー映画の強さ〟を支える要因について、佐藤GMは、「3つの大きな柱があります」と語る。
一つ目は、「テーマが普遍的であること。その普遍性は、どの世代、どんな国や人種にもあてはまる」と説明する。
二つ目は、「映画の登場人物たちが、長く愛されるキャラクターであること」と言い、「『アナと雪の女王』などに代表される〝ディズニー・プリンセス〟は、いつの時代も、ずっと幅広い世代に支持される高い人気を誇っています」と続けた。
そして三つ目に、「音楽性の高さ」を挙げて、こう説明する。
「『アナと雪の女王』の主題歌『レット・イット・ゴー』や、『アラジン』の主題歌『ホール・ニュー・ワールド』など誰もが聞いたことのある、また、多くの人が大好きな曲が劇中で使われていること。映画にとって音楽はとても重要な要素。そこにディズニーは力を入れてきました。この3つは、ディズニー映画の最大の強味なんです」
これまで、ディズニーが築き上げてきた〝ヒットの方程式〟のカギ、そのヒントを分かりやすく分析して見せてくれた。
ヒットの陰の苦労
佐藤GMのこれまでのキャリアをたどっていくと、〝エンターテインメントの申し子〟が、どうやって誕生するのか、その過程を見るようで興味深い。
「実は最初から映画ビジネスに興味があったわけではなくて、大学卒業後、地元のテレビ局に就職し、番組制作に携わっていました」と語る。
ところが、5年2か月後にテレビ局を退職し、米国のビジネススクールへの留学を決意する。
理由は、「新しいことに挑戦したくなったから」だ。
「テレビ局では番組制作のほか、報道なども担当し、やりたかったことは一通り、もうやり終えたかな、という思いもあったんです」
米国でビジネスについて学び、帰国後、2005年、ウォルト・ディズニー・テレビジョン・インターナショナル・ジャパンに入社。翌年、20世紀フォックス映画へ入社する。
ここで、日本を始め世界で大ヒットしたハリウッドの重鎮、ジェームズ・キャメロン監督のSF大作『アバター』の興行を手掛けたのだが、こんな秘話を明かしてくれた。
2009年10月17日、東京国際映画祭初日。『アバター』の特別映像が日本で初お披露目された。
「当時、『アバター』は画期的な最新技術を駆使した3D大作として、製作途中からすでに話題になっていました。それが肝心の日本初上映のときに…」
上映後、すぐのことだった。
「突然、スクリーンの映像が消え、劇場が真っ暗になってしまったんです」
プレミア上映のため、当時の首相など多くの来賓も会場を訪れていた。
「圧倒的な3D映像のデータを処理しきれずに映写の機材が不具合を起こして止まってしまったんです。何とか復旧でき、事なきを得ましたが、とんでもないことになってしまったと思いました」と苦笑しながら振り返る。
こんなトラブルを経ながら、『アバター』を興収156億円という大ヒット作につなげたのだ。
心躍らせる新作は尽きない
また、2018年のヒット作『ボヘミアン・ラプソディ』にまつわるこんな秘話も…。
「製作中のラフ編集版を観た時にこう思いました。正直、ヒットは難しいかな…と」
後の空前のヒット作と初遭遇したプロのヒットメーカーが、こんな意外な感想を持ったというのだ。
その理由は、「まだCG処理が不完全な状態のままで映像を観せられたこと」にあった。
7万人を超える観客で埋め尽くされたスタジアム・コンサートでの伝説的なシーンの映像は感動的だった…。
だが、佐藤GMは言う。
「私が初めて試写で見た映像とは、まったく違いました。写っていたのは駐車場のような場所で観客はわずか10人ぐらいしかいない映像でしたからね」と明かし、苦笑した。
取材中、佐藤GMが何度も強調した、「映画のヒットのための重要な要素は音楽」という言葉を証明するように、完成版の『ボヘミアン・ラプソディ』でのコンサートシーンの迫力あふれるCG、そして臨場感豊かな音楽は公開ぎりぎりまで作り込まれていたのだ。
また、「『クイーン』のコアなファン層は年代が高く、当初は観客動員を心配したのですが、50、60代の世代から口コミで徐々に若い年齢層へと広がりヒットにつながったのです。これは予想できなかったことですね」と振り返った。
近年、ネット配信の普及などで映画を鑑賞する形態は多様化し、劇場で大勢の観客と一緒に観るのが映画…という概念は年々、薄れつつある。
しかし、佐藤GMはこの状況を否定的にはとらえていなかった。
「一人でPCやスマホの画面などで配信映像を観たり、家族や知人が集まって鑑賞するホーム・シアターなど、それぞれ補完しあえる映画の鑑賞スタイルが増えるのは、むしろ映画にとって望ましいことだと思います」と話す。
さらに〝若者の映画離れ〟が叫ばれて久しい現状についても、「心配はしていません。魅力的なディズニーの新作映画は、続々と日本へやって来ますから。あの『アバター』の3作目となる続編も、ラインナップに予定されていますよ。期待していてください」と語った。
(文=戸津井康之)
『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』
世界中を熱狂させるマーベルのヒーローたちの原点にして、その礎を築いた、ヒーローチームを描く最新作。
ついに始動!
2025年7月25日(金)日米同時公開
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
© 2025 20th Century Studios / © and ™ 2025 MARVEL.
公式ホームページ
『星つなぎのエリオ』
ディズニー&ピクサー史上、最も“やさしい”物語。宇宙が大好きなひとりぼっちの少年・エリオが夢見ていた、本当の居場所とは…。
2025年8月1日(金)全国劇場公開
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2025 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
公式ホームページ

ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社
ゼネラルマネージャー佐藤 英之さん
佐藤 英之(さとう ひでゆき)
ウォルト・ディズニー・カンパニー傘下のディズニー、ピクサー、マーベル、ルーカスフィルム、20世紀スタジオ、サーチライトのスタジオから生み出される作品群を有する映画事業の責任者として日本における配給・劇場の宣伝戦略を統括。2005年にウォルト・ディズニー・テレビジョン・インターナショナル ジャパン入社、2006年に20世紀フォックス映画にストラテジックプランニング&オペレーション入社し、2009年には『アバター』の配給戦略を立案、日本での最終興行収入156億円の大ヒットに寄与。その後、営業部の統括責任者として『X-MEN』『デッドプール』シリーズなどのヒット作を牽引、2018年には営業本部長として『グレイテスト・ショーマン』や『ボヘミアン・ラプソディ』の配給・劇場宣伝を指揮し、現在の観客一体型の上映の先駆けとなる「応援上映」を確立。2020年のディズニーとFOXの合併に伴い、ウォルト・ディズニー・ジャパンに再び入社。2023年公開『ウィッシュ』はインターナショナル マーケットにおいてトップの成績を残す。2024年公開『デッドプール&ウルヴァリン』が2024年洋画実写トップ、シリーズ最高記録を達成し、8月公開『インサイド・ヘッド2』も2024年公開の洋画作品において最速で興行収入を突破、50億円も達成。