7月号

ものづくりの現場に潜入
開工神戸が面白い!
5月16日・17日、長田区を中心に地域一体型オープンファクトリーイベント、開工神戸が開催され、多くの人たちが参加した。
今回は33の企業・団体がエントリー。工場の自由見学やツアー形式による公開、製品紹介やワークショップなどさまざまなメニューでものづくりの街、神戸の魅力を再発見する機会となった。
その様子を少しご紹介しよう。
結局はハンドメイド
長田の地場産業と言えば靴づくり。今回も多くの製靴関連企業がエントリーしている。
「BARCLAY」などのブランドで全国の百貨店にも展開するカワノへ。長田を代表するメーカーゆえオートメーションで靴がボンボンとできるのかと思いきや、ロボットはおろかコンベアすらなく、20数名の職人が分業制で黙々と作業をしている。皮をあてがうのも糊を塗るのも指先の緻密な動きによるもので、圧着などに機械は使うものの、そのオペレーションは人の感覚に頼っている。
靴づくり一筋40年の三福も同じく手作業で生産。こちらも同様に分業制で、実に丁寧な仕事をしている印象。「AREZZO」など自社ブランドも展開しショールームも併設しているが、ほとんどがアパレルメーカーのOEMゆえに何しろそのアイテム数が多く〝何でもできる〟体制を整えているとか。しかも靴はデザインやカラーのみならずサイズも小刻みなので、製品の管理が煩雑きわまりないようだ。技術があって生産できればそれで事が済む訳じゃないことは、現場を覗いてみないとわからない。
そんな靴づくりに欠かせないのがラスト(靴型)。その製造を手がける大山へもお邪魔してみた。靴メーカーのオーダーを受け、CADデータからマシンで木を削りさらに人の手で微調整、それをまたスキャンしてCADデータにして微修正…という感じで、最終的にはプラスチックのラストをサイズごとに生産していくが、デザインを左右するなめらかな曲線は繊細な手仕事ならではだ。
このような靴メーカーを支えるさまざまな業種が街のあちこちにあり、まさに長田は街ごと靴のファクトリーなのだ。
ミシンの音が街の音
靴だけではない。ファッション都市、神戸は、長田のものづくりの実力なくして成り立たない。
神戸ザックIMOCのアトリエでは、古いミシンからモダンなリュックやバッグが生み出されている。1971年から山男たちに愛用されているザックメーカーを、5年ほど前に登山家でもある創業者から事業継承。思いもミシンも受け継ぎつつ、ファッションを学んだ若い女性の感性も生かしながら、アウトドアのみならず街や旅先でも気軽に使えるようにデザインを進化させている。そして作業はほぼすべて手作業。心を込めて操るミシンが、伝統と未来を縫い合わせているようだ。
一方、1933年創業で製品を皇室にも納めている老舗刺繍メーカー、金川刺繍では、日本に3台しかない最新のミシンがデータから完全に自動で刺繍している。ところがこれはデジタル制御ゆえどうしても0.1ミリマスになってしまうとか。そこで活躍するのが、前後左右に自由に縫える100年ほど前の特殊なミシン。これでアナログに刺繍した商品はもはや芸術だ。スマホでデータを読み取れる独自技術のワッペン「こねっくと」も面白い。服のタグなど気にも留めないような小さな刺繍にも、この街で培われてきた高い技術と、三代にわたり継承してきた職人の魂が煌めいている。
カタカタと鳴るミシンの音は、この街の心地良いサウンドスケープなのだ。
開工神戸は〝邂逅神戸〟
長田や兵庫では家具など木材加工も盛んだ。MAR_Uは六甲山をはじめとする神戸の山林で伐採された木を、若いクリエイターが設計から製造まで一貫して手がけるラボラトリー的なファクトリー。神戸にはもともと林業がないため除伐や間伐などで発生した樹木の流通チャネルに窮していたが、それを引き受けて家具や器などに加工している。かつて船大工の仕事場だったという港の工場が森とつながり、山の保全にも貢献しているのだ。
木工では切る、削る、磨くなどの作業にさまざまな機械を使うが、これらが壊れたら生産が止まってしまうのでいち早い復旧が必要となる。こういう時に頼りになるのが近くの修理業者だ。エフマシンは木材加工機械の〝お医者さん〟、健康診断(=点検)から救急(=突然の修理)にも対応する敏腕エンジニアの工房も今回開放しているが、修繕業ゆえ工場見学ではなくワークショップを開催。つくっているのはなんと時限爆弾!のようなキッチンタイマー。みんな和気藹々と楽しそう。その存在すら一般的には知られていない仕事ゆえ、木工機械をデザインしたTシャツやオリジナルのスツールを販売するなど、街の人とのコミュニケーションに熱心だ。
ユニークなワークショップはほかにも。新長田のうなぎの名店、西村川魚店では、うなぎ捌き体験を実施。職人が涼しい顔で簡単にやることも、素人さんにはかなり難しいようで大苦戦。このような企画はさまざまな出会いの機会を創出、開工神戸は〝邂逅神戸〟でもあるのだ。
震災の惨劇から甦った長田や兵庫に、生産の鼓動がこだまする。その現場に足を踏み入れると、そのモノに込められた「モノがたり」に感動すること数知れず。特にモノを生み出す職人の動きの正確さを目の当たりにすると、神が創造主なのではなく、創造主が神なのだと感じる。そしてこの街の作業場では多くの女性が活躍していることを実感。無機質な空間で額に汗しながらもどこかオシャレな工場女子たちが、神戸のものづくりを日々支えている。
企業と市民が交流し、地域の絆を深める開工神戸。今回で4回目だが、以前このイベントのボランティアスタッフだった大学生が参加企業に就職するなど、さまざまな効果が現れてきている。実行委員会プロデューサーの岩本順平さんはこう語る。「企業、街、人のつながりが、メッシュのように広がっていく。それが〝長田や兵庫って面白い〟という評価に繋がれば。今後も継続して開催し、その輪を拡げていきたいですね」。

KOBE OPEN FACTORY実行委員会プロデューサーの
岩本順平さん

カワノ株式会社
約100年にわたり婦人靴を作り続ける。主力ブランド「BARCLAY」をはじめ、ハンドメイドにこだわり、各種製品、裁断・縫製・成型・仕上げという工程を職人さんが丁寧に仕上げていく。
株式会社三福
神戸で靴づくりを続け40年。アパレルメーカーのOEM事業に加え、オリジナルブランドの開発にも力を入れている。アイテム数の多さに加え、繊細で緻密な作業が履き心地の良さを生み出す。

株式会社三福
代表取締役社長 水谷義人さん
有限会社大山
靴づくりに欠かせないラスト(靴型)の企画開発、製造販売を行う。CADデータから機械で木を削り、さらに職人さんが熟練の技でなめらかなラインを手作業で仕上げていく工程を見学。
熾リ株式会社(神戸ザックイモック)
半世紀の歴史をもつオリジナルデザインのザックを事業承継。若きクリエイターたちが、伝統と技術を守りながら型紙、断裁、縫製全ての工程を行う。アウトドアや気軽に使えるデザイン性の高い商品を生み出す。

熾リ株式会社
代表取締役 前川 拓史さん
金川刺繍株式会社
1933年の創業から伝統を守りながら、常に新しい取り組みに挑戦を続ける。スマホでSNSなどのデータを読み取れる独自技術のワッペン「こねっくと」などアイデア商品にあふれる。

金川刺繍株式会社
代表取締役 金川誠司さん 早苗さん ご夫妻
MAR_U
六甲山をはじめ神戸の山林で伐採された木を若いクリエイターが製造から一貫して手がけるクリエイターチーム。
兵庫区にある工房を訪問し、モノづくりの現場を体感。

MAR_U
代表 山崎正夫さん
株式会社エフマシン
主に神戸を中心とした木工所にある木工機械の突然のトラブルに対応し、現地に行って修理を行う、いわば材加工機械の“お医者さん”。ワークショップでは時限爆弾!のようなキッチンタイマーを製作!

株式会社エフマシン
代表取締役 淵上俊介さん
株式会社西村川魚店
鮮度にこだわり、その日の朝に捌いた鰻を焼き上げる創業63年の鰻専門店では、鰻捌きを体験できるワークショップを開催。素人には想像以上に難しく参加者も悪戦苦闘!