1月号
都市の規模を追い求めるのではなく神戸ブランドにどう磨きをかけるか
神戸市長 久元 喜造 さん
震災から21年目、新たな一歩を踏み出す2016年が始まった。
「輝きのある神戸を目指す」という久元喜造市長に、どんな街づくりが始まるのかをお聞きした。
住んで、働き、子育てして、楽しく暮らす街づくり
―新しい年を迎えました。今年の抱負をお聞かせください。
久元 昨年は阪神・淡路大震災から20年という節目の年、今年はポスト震災20年です。震災後、矢田市長の下、進めてきた街の再生と財政再建が成果を上げてきました。今年度中に残された問題に区切りをつけ、次のステージを目指して新たな輝きのある神戸を創っていきたいと思っています。
―都心部の再生に力を入れておられますが、どんな街づくりを目指していますか。
久元 マンションを林立させて人口を増やし、住宅都市として神戸をつくるという考え方がありますが、これはいわば大阪のベッドタウンになるということです。しかしながら、多くの市民は神戸で仕事をして、ショッピングやグルメ、アートなどを楽しむことを望んでいると思います。ですから、市民が望む商業・業務都市、アミューズメント都市を目指しています。
―三宮駅周辺の再開発については。
久元 三宮とその周辺、新神戸駅からウォーターフロント、西はハーバーランドまでのエリアは神戸の玄関口です。都心居住のニーズに応える開発は必要です。しかし、駅周辺は商業・業務エリアを計画しています。今後、二つをどうバランスよく配置して造り上げていくかが大きなテーマです。
―交通の要所としての三宮は。
久元 乗り換えがしやすい利便性と、街中に出やすい回遊性をいかにつくっていくかです。駅前に公共交通と歩行者を重視したクロススクエアを置きます。歩いて移動しやすく、公共交通を使いやすく、さらに神戸らしいゆったりとした雰囲気も味わえる空間です。難しい問題もありますが、時間をかけてぜひ実現したいと思っています。ミント神戸東側にバスターミナルを集約し、JR三ノ宮駅東口と直結できるようにするところから取り掛かる予定です。
―神戸には特色ある9区があります。それぞれについては。
久元 もちろん都心部だけでなく、市内には魅力あるスポットがたくさんあります。例えば兵庫区や長田区には大変賑わいのある商店街があり、須磨区・垂水区もとても魅力があります。東灘・灘区は阪神間の魅力あるスポット、西区・北区には里山や田園風景が広がっています。有馬温泉も賑わっています。それぞれを輝かせ、多くの人に訪れてもらえる街にしたいですね。
トータル的な対策で人口減少に歯止めをかける
―2012年から3年連続で人口が減少していますが、その理由についてはどうお考えですか。
久元 自然動態でいうと出生数が死亡数を下回っていることです。合計特殊出生率(一人の女性が一生に産む子供の平均数を示す人口統計上の指標)全国平均1・39人を神戸は下回り1・29人、残念ながら子どもの生まれる数が非常に少ないのが現状です。結婚、出産は女性一人ひとりの判断ですが、持続可能な社会であるためには、全体として合計特殊出生率を上げるという目標に向かっていかなくてはいけません。社会動態から見ると、約10年前には周辺都市から神戸に転入してくる数が転出を上回っていましたが、今は逆転していることです。兵庫県内や西日本の都市からの転入はあるのですが、東京への流出が拡大しています。この現実を真正面から見つめなくてはいけないと思っています。
―人口減少に歯止めはかけられるのでしょうか。
久元 神戸が置かれている客観的条件を考えると、人口減少は避けられないと思っています。しかし最小限に抑える努力は必要です。まずは子どもを生んで育てやすい環境づくりです。1世帯当たりの家族数が減り、多世代同居ではない環境では、若い世代が育児や子育ての情報を得たり、相談ができたりする体制が必要です。そこで昨年10月から、登録いただいた方に毎日メールを送信し、疑問点があればお答えする体制を整えました。また子どもさんが病気になったとき、急患に対応していただく病院を増やしていけるように、医師会とも相談しながら進めているところです。
―一人でも多くの人に移り住んでもらうためには。
久元 神戸に移り住んで神戸で働く環境、神戸で学び卒業後も住み続ける環境をどうつくっていくのかが課題です。個別の対策も重要ですが、結婚、出産、乳幼児の育児、小・中学校、高校・大学進学という一連の成長過程に応じた行政の支援をトータルで講じていくことが有効な手段だと考えています。
―教育水準を高めることも必要ですね。
久元 神戸市が担っている小中学校教育のレベルアップは、市民に対しての義務であると同時に、神戸に住み子どもに教育を受けさせたいと思っていただくためにも必要なことです。市内小学校の学力テストの結果を都道府県レベルの順位に当て嵌めてみると決して満足できる状況ではありません。教育の成果は学力テストだけで測れるものではありませんが、これも一つの指標です。
―学校の現状に問題があるのでしょうか。
久元 教員が多忙を極めています。なぜかというと、さまざまな事務仕事、例えば報告作業やメールのやり取りなどに追われているからです。そこで、ITを活用し、事務作業を簡略化する、事務連絡を減らす、資料の配布依頼を極力減らすなど地道に改善を進めています。
都心の賑わいと食都神戸構想
―昨年初夏と秋、東遊園地でアーバンピクニックが開催され好評だったようですね。
久元 都心再生の賑わいづくりを一つのキーワードに開催されました。三宮周辺で駅から南への人の流れを見ると、神戸国際会館で止まっています。ウォーターフロントへ向けての人の流れを考えたとき、東遊園地はまだ十分に魅力が引き出し切れていないエリアです。芝生化することで賑わいを出せないかと、実験的にアーバンピクニックを開催しました。大勢の方に来ていただき成功だったと思っています。芝生化を含め本格的に取り組み、市民自らがルールを作り、自らが管理するという市民参加型で活性化を目指していく予定です。
―ファーマーズマーケットも盛況でしたね。
久元 もう一つ推進しているのが食都神戸構想です。神戸にはいろいろなグルメなお店があり、また西区・北区の野菜やくだもの、瀬戸内海でとれる魚介類など食材に恵まれています。それらの生産者や飲食店、流通に関わる人たち、パンやスイーツのお店、食品メーカーなどいろいろな分野がネットワークを結び、食都としてのトータルな魅力を国内外に発信しようとしています。神戸にはそのポテンシャルが十分にあります。行政が自ら担っていくといってもリアリティーを持たせなくてはいけません。その方法の一つとして東遊園地でファーマーズマーケットを開催しました。市民の皆さんや神戸を訪れる方々にも実感していただけたのではないかと思っています。
ハイカラだけじゃない。
多彩な〝神戸ブランド〟に磨きをかける
―神戸に世界から注目が集まる機会が増えますね。
久元 この先5年にわたり特に大きなチャンスがあります。医療産業都市として、今年はサミットに合わせてG7神戸保健大臣会合が開催されます。昨年は、医療に限らず健康の有り方を世界に向けて発信しようという、文科省が推進するリサーチ・コンプレックスの拠点に神戸が国内で唯一認定され、国の補助を受けながら今後、健康に関する研究開発や人材育成をさらに進めていきます。2017年は神戸港開港150年記念事業があり、また同年開催予定の国際フルートコンクールに関連して、神戸市としてコンサートや楽器展、フォーラムなどを実施して国際音楽祭という位置づけができないかと検討しています。そして2019年のラグビーワールドカップ開催。楽しくわくわくするイベントも続きますね。
―久元市長が描く「神戸の将来像」は。
久元 都市の規模を追い求める時代ではなく、確立されている神戸ブランドにどう磨きをかけるのか、街のグレードをどう維持し、高めていくのかを追求する時代だと思っています。ハイカラだけではなく、例えば下町の賑わいに磨きをかける、北区に日本一たくさんあるといわれる伝統遺産・茅葺を再生する等々、どれも神戸ブランドの維持向上につながります。生活に密着した観点からいうと、犯罪発生率を減らし、防災はもちろん、治安の面でも安全で安心な街づくりを進めていきたいと思っています。
久元 喜造(ひさもと きぞう)
1954年、神戸市兵庫区生まれ。
1976年、東京大学法学部を卒業し、旧自治省入省。札幌市財政局長、総務省自治行政局行政課長、同省大臣官房審議官(地方行政・地方公務員制度、選挙担当)、同省自治行政局選挙部長などを歴任。2008年、同省自治行政局長。2012年、神戸市副市長。2013年11月に第16代神戸市長に就任