2016年
1月号

神戸鉄人伝 第73回 詩人・エッセイスト・美術家 三浦 照子(みうら てるこ)さん

カテゴリ:文化人, 絵画


詩人・エッセイスト・美術家
三浦 照子(みうら てるこ)さん

 今や西宮市大谷記念美術館の事業として定着した「イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」。一九七八年に同展を日本で初めて開催したのは、当時企画を担当していた三浦照子さん。その後もサンパル市民ギャラリーの基礎を創り、ギャラリーエンバ、アートホールを運営するなど、神戸のアートシーンに直接関わって来られました。詩人や画家の顔も持つ三浦さんの人脈は多岐に渡り、そのエッセイ集の表紙絵は小磯良平、題字は岡本太郎によるもの。恐いもの知らずと噂される三浦さんに、ちょっと緊張しながらお話をうかがいました。

―ご職業をなんとしたらよいのか、過去の新聞記事に「マルチ才女」とありましたが…。
 マルチ才女?とんでもない、私は凡女。才能ある人は一芸に打ち込んで大成するけど、私は多芸で何もモノになっていません。文章も書くし、絵画も手掛けるし、執筆したものを出版してもいるけど、その道一筋の人から見れば、私なんか浅いものだと思うわ。

―美術館の運営で、赤字の館を黒字にした話は有名です。
 一九八〇年前後の美術館は、高額で買い取った巡回展を入れるハコでした。西宮市大谷記念美術館も来館者は少なく、それでも「文化事業は赤字で当然」というのが当時の常識。そこで名だたる美術館や著名人と直談判して、小磯良平展、高山辰夫展、黒田清輝展、そして日本初の岡本太郎展などを、自主企画展として実施したの。子どものための「絵本原画展」、さらに「イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」も始めた。それはもう大忙しの日々でしたけど、反響もすごくて。来館者も増えて、赤字どころか黒字になる快挙でした。でも、これは私だけの手柄じゃなくて、大勢の方に助けていただいてのことです。

―美術館が軌道に乗った途端、ご自身はあっさり退職されたとか。
 安定した仕事を投げ打つのは、さすがに勇気が要りましたよ。でも詩を書き、絵を描く者として、常にクリエイティブでありたいという気持ちの方が勝ってね。創造活動のために自分が勉強する時間も欲しかったし、マンネリに陥るのが嫌だった。それに生来好奇心が強いものだから、新しい分野に挑戦したい気持ちもあって。

―そして様々な画廊・ギャラリーの立ち上げや運営などにも関わってこられました。
 私はただ、置かれたところで精一杯働いただけ。安住せず、知らないことはとにかく勉強した。そうやって必要に迫られて研究したことの蓄積が、年齢とともに様々な仕事に展開していったんだと思うの。ギャラリー運営は特徴のある企画、他所ではできないことを心掛けましたよ。

―障害児のための絵本作り企画も、長く開催されていましたね。
 「手づくりの絵本展」には25年間、自ら積極的に関わって幕引きまできちんと面倒を見ました。教員時代に特別支援学級を担当していたこともあって、スウェーデンの遊具としての絵本、ボタンやファスナーの付いた布製の絵本に感銘を受けたのが始まり。障害の程度に合わせて遊べるし機能訓練にもなる、これはぜひ日本でも取り組もうと。手づくりの絵本を公募して、作品を養護学校に寄贈したり、海外でも展示をしたり。私の最も誇らしい仕事と言えるかしら。

―最後に、後続の者たちに一言お願いします。
 若い頃に身に付けたことは、50歳を過ぎて開花する。自分の中にいろいろな知識や経験を蓄積する時間は、とても重要です。人生、無駄なことなんてひとつも無い。レールの上を歩くのではなく、クリエィティブに考え、アクティブに行動して、自分の人生を展開してください。 (2015年11月16日取材)

 しなやかに、したたかに。チャーミングに、パワフルに。型にはまらずに生きる三浦さんの笑顔に、達成感と誇り、そして今なお健在な好奇心が垣間見えました。

「人と人の間に居て、いいものが動いていく潤滑油になりたい」と三浦さん。「それがお世話になった人たち、育ててくれた社会への恩返しになればと思うの」

とみさわ かよの

神戸のまちとそこに生きる人々を剪画(切り絵)で描き続けている。平成25年度神戸市文化奨励賞、平成25年度半どんの会及川記念芸術文化奨励賞受賞。神戸市出身・在住。日本剪画協会会員・認定講師、神戸芸術文化会議会員、神戸新聞文化センター講師。

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〈2016年1月号〉
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