12月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第160回
西宮市医師会市民フォーラム
「大人のための排尿トラブル相談室」について
─西宮市医師会市民フォーラムは、今年で何回目でしたか。
寺尾 西宮市医師会では医療を通じ、市民のみなさまの健康と安心のお手伝いをさせていただいていますが、市民フォーラムはその大切な活動のひとつです。第23回となる今年は、9月7日に西宮市フレンテホールで開催し、250名ほどのご来場がありました。
─今回のテーマは何でしたか。
寺尾 フォーラムでは毎回、市民のみなさまにとって身近な病気や医療の話題をピックアップしています。前回は子育て世代を対象とした発達障害についての内容でしたが、今回は主に高齢者を対象として「大人のための排尿トラブル相談室~おしっこの悩みスッキリしませんか~」をテーマに、頻尿や尿漏れなどよくあるおしっこについての症状や、その治療や対策などについての講演を2部制でおこないました。
─なぜ2部制にしたのですか
寺尾 頻尿は男女共通ですが、頻尿の原因やそれ以外の排尿トラブルに関しては男女で大きな違いがありますので、第1部は女性、第2部は男性という構成にしました。
─第1部はどのようなお話でしたか。
寺尾 私のクリニックに勤務する女性医師、新開裕佳子先生に「あきらめていませんか?女性の排尿トラブル~女性泌尿器科医からのメッセージ~」と題して、尿漏れ(尿失禁)や過活動膀胱を中心に、その原因や治療について話してもらいました。
─尿漏れは女性に多いのですか。
寺尾 新開先生の報告では40~70代の女性の47%に尿漏れの経験があり、そのうち約8割が誰にも相談したことがなく、医療機関に相談したのはわずか3%だったそうです。尿失禁のタイプには主に4つありますが、今回は特に女性に多い腹圧性尿失禁のお話が中心でした。
─腹圧性尿失禁の症状や原因、診断について教えてください。
寺尾 腹圧性尿失禁は、重い荷物を持ったり咳やくしゃみをしたりしてお腹に強い力が入ると漏れる症状があります。骨盤底筋群の緩みが主な原因ですが、その背景には妊娠・出産、加齢、肥満などがあります。検査は問診や視診のほか、尿検査や超音波検査、排尿日誌の確認などを必要に応じておこないます。
─腹圧性尿失禁の治療について教えてください。
寺尾 お薬や手術も選択肢ですが、程度が軽い場合、日常生活の中でできる行動療法も有効です。行動療法は減量などの生活指導、膀胱の訓練、そして骨盤底筋のトレーニングがあります。会場では新開先生から骨盤底筋訓練の方法が紹介されました(図1)。
─過活動膀胱についてはどのようなお話でしたか。
寺尾 新開先生からはまず、過活動膀胱は8人に1人が悩む病気で、受診率が男性36%に対し女性が7%と極端に低いという報告がありました。また、症状や原因、リスクなどを解説の上、QOL(生活の質)に関わる病気と話していました。
─過活動膀胱はどのようにして治すのですか。
寺尾 病状に合わせて行動療法、お薬、手術のほか、神経に電気や磁気で刺激を与える神経変調療法という方法もあります。いずれにせよ医師の診察を受けることが大切です。新開先生は最後に、「『恥ずかしくない』、『痛くない』検査でほとんど診断がつきますよ。『周りと比べて』ではなく、ご自身がどう感じているかが一番大切なポイントです。『いつもと違う』『ちょっと気になる』 を一つずつ解決し、充実した毎日を送りましょう」とメッセージを送っていました。
─第2部はどんなお話でしたか。
寺尾 たきうちクリニック泌尿器科院長の瀧内秀和先生に、「前立腺肥大症に起因する排尿トラブル」をテーマにお話いただきました。男性と女性の大きな違いは前立腺があるかないかですが、講演は前立腺とは何かというところからスタートし、前立腺肥大症の症状、診断、治療について順番にわかりやすく解説してくださいました。また、最後に過活動膀胱についてもお話されました。
─前立腺肥大症とはどのような病気ですか。
寺尾 前立腺が大きくなることで残尿や頻尿、排尿の勢いが弱い、尿が出にくいなどの症状がおこるもので、組織学的には50代の4割、60代の7割、70代以上の8割ほどと罹患率の高い病気です。治療は通常、お薬を使いますが、瀧内先生はよく使用されるお薬についてその効果や効くメカニズムなど詳しく解説されていました。病状によっては手術治療も必要ですが、最新の内視鏡手術についても画像を交えながら紹介されていました。ほかに、温熱・高温度治療や水蒸気治療などの低侵襲治療についても解説されました。
─高齢になると多くの男性が悩まされるようなので、注意が必要ですね。
寺尾 お薬で改善するケースも多いので、気になったら泌尿器科の診察を受けましょう。瀧内先生もおっしゃっていましたが、まさに「悩むより受診を」です。
─講演の後に質疑応答はありましたか。
寺尾 今回はテーマに「相談室」とありますので、質疑応答にも力を入れました。事前に質問を受け付けてそれに答えるスタイルでおこない、たくさんの質問が寄せられました。時間の都合でほんの一部の質問にしか答えられなかったのですが、せっかく寄せていただきましたので、会場でお答えできなかった質問に関しては、西宮市医師会のホームページで回答を掲載しています。
─来年もフォーラムを開催しますか。
寺尾 もちろん開催する予定です。テーマについては今回の会場でいただいたアンケートを参考に検討していきます。詳細が決まり次第、西宮市医師会ホームページなどでご案内しますので、ぜひご来場ください。