2024年
12月号

神大病院の魅力はココだ!Vol.38 神戸大学医学部附属病院 糖尿病・内分泌内科 廣田 勇士先生に聞きました。

カテゴリ:医療関係

いろいろな診療科でお話を伺うと、糖尿病があることで生じる課題をよく耳にします。糖尿病とはどんな病気なのでしょうか。原因や治療法、体全体に及ぼす影響などを廣田勇士先生にお聞きしました。

―糖尿病とは?他の病気を誘発するのは何故ですか。
糖尿病は血糖が高くなる病気で、血糖値を管理することなく放置してしまうといろいろな臓器に支障をきたします。それは、糖がさまざまなメカニズムによって血管にダメージを与えるからです。体の中の細い血管「細小血管」にダメージが加わると糖尿病の三大合併症と呼ばれる「網膜症」「腎症」「神経障害」が起き、また心臓や脳といった大血管にダメージが及ぶと、心筋梗塞や脳梗塞など「動脈硬化性疾患」を発症するリスクが高まります。

―高血糖になる原因はどこにあるのですか。
糖尿病は大きく「1型」「2型」「その他」「妊娠糖尿病」の4つに分類されます。1型糖尿病の場合、どういった原因でいつ、だれに起きるかは分かりません。一般的には膵臓でインスリンを出す働きをしているβ細胞が破壊されて起きる自己免疫疾患の一つといわれていますが、原因を特定できない特発性という場合もあります。

―1型糖尿病の早期発見はできるのですか。治療法は?
β細胞がどんどん壊れていく段階で発症し、血糖値が高いと気付いた時には根本的治療ができないのが現状です。治療法としてはインスリンを補充する方法を取ります。ペン型の注射器を使い食事の前に患者さん自身でインスリン製剤を注入するのが従来の方法です。神大病院では1型糖尿病治療に力を入れ、「CSII(持続皮下インスリン注入療法)」を積極的に導入しています。

―患者さん自身が注射をする必要がないのですか。
インスリンポンプという機器を体に装着し、食事前にはボタンを押すとインスリン製剤の必要量が注入されます。針を刺すのは、3日に1回、ポンプのカニューレを交換する時だけということになります。また、最新のポンプには「CGM(持続血糖モニタリング装置)」と常時リンクする機能が備わっており、その数値に応じて注入するインスリン量が自動的に調節されるため血糖値が安定します。インスリン製剤を注射しすぎて、低血糖になったり、不足して著しい高血糖になったりというリスクがある程度は回避できるようになっています。

―2型糖尿病は生活習慣に問題があって発症し、改善が治療につながるのですか。
食事や運動などの生活習慣が2型糖尿病になる環境的要因として関与していることは確かです。しかし、遺伝的要因もかなり大きく関与し、どんなに気を付けて生活していても2型糖尿病になる方はおられます。生活が乱れているから糖尿病になるというスティグマ(偏見や差別)を生み出しかねない「生活習慣病」という名称も使わないようにしようという動きがあります。

―遺伝的要因が大きいのならば予防はできないのですか。
例えば両親が2型糖尿病であれば、必ずではないですが発症の確率は高いですね。食事療法や運動療法を早く開始することで発症しにくくすることは可能です。家系的に心配だという場合は早い時期から注意をして予防を心掛けるのは良いことです。しかし、それでも防ぎ切れない場合もあるのが現実です。

―どんな方法で治療をするのですか。
日本には現在、約1千万人の糖尿病のある方がおられ、その治療法は「1千万通り」などと言われています。中でも、幾つかの遺伝的素因が重なり、さらにそこに生活習慣のような環境的要因も加わって発症する2型糖尿病の場合は、薬物療法も様々な手段があります。薬物療法、場合によってはインスリン製剤も使い血糖管理をする治療をはじめ、専門医、看護師、薬剤師、栄養士、理学療法士など多職種でチームを組み、患者さんのQOL(生活の質)を保ちつつ個人、個人に合った最適な治療の提供を目指しています。

―「その他」に分類される糖尿病は?
特定の遺伝子の変異が原因で起きる単一遺伝子疾患としての糖尿病や薬剤による糖尿病などが分類されます。最近は、がん治療に使われる免疫チェックポイント阻害薬によって発症するケースもあります。がんに対して非常に効果の高い治療法ですが、糖尿病に限らず内分泌疾患など免疫に関連する疾患を引き起こすリスクも併せ持っています。

―減量外来は糖尿病予防を目的としているのですか。
肥満があることによって糖尿病だけでなく脂質異常症、高血圧や心筋梗塞、脂肪肝、運動器疾患などさまざまな健康障害を起こしてしまう場合は「肥満症」という疾患として治療を行います。神大病院は肥満症治療の専門施設でもあり、糖尿病・内分泌内科に減量外来を開設しています。ここでも多職種でチームを組み個々に合わせた減量プログラムを実施しています。新たに開発された薬剤を使う減量治療も積極的に取り入れ、また食道胃腸外科と連携して胃の部分切除手術である減量・代謝改善手術を行う場合もあります。他の疾患の有無にかかわらず、減量がうまく進まない方はぜひ一度相談いただきたいと思います。

―内分泌疾患とは? 糖尿病もその一種ですか。
甲状腺ホルモンが出すぎるバセドウ病、逆に少なくなる橋本病をはじめ、脳下垂体ホルモンや副腎ホルモンが多すぎたり少なすぎたり、疾患は多岐にわたり症状もさまざまです。膵臓から分泌されるインスリンに関わる糖尿病も大きな意味では内分泌疾患のひとつといえます。治療法もさまざまですが、神大病院には内分泌疾患の専門医が多数いますので幅広く対応しています。また、ホルモン分泌の司令塔の役目も担っている脳下垂体にできる腫瘍は脳神経外科、副腎に異常がある場合は泌尿器科とも連携し外科手術を行うケースもあります。

―他の診療科との連携は欠かせないのですね。
糖尿病合併症の網膜症では眼科、腎症では腎臓内科、神経障害で足の壊疽が起きている場合は形成外科や皮膚科など、連携は欠かせません。また、糖尿病のある方に手術という侵襲が加わると血糖値がさらに上がり傷が治りにくく、感染症を起こすリスクも高まります。他の診療科から依頼を受けて術前・術中の血糖コントロールを行うことも糖尿病・内分泌内科の役割です。

―合併症のある患者さんや症状が重い患者さんが大学病院を受診するのですか。
大学病院ですから専門性の高い治療は行っていますが、一般の患者さんが受診できないというわけではありません。糖尿病や肥満症の治療が思うように進められない患者さんにはチーム医療で対応します。原因が分からない体調不良に悩まされているのであれば専門的な検査を受けることも可能です。広く門戸を開いていますので、ためらわずに受診していただきたいと思います。

廣田先生にしつもん

Q.廣田先生は何故、医学の道を志されたのですか。
A.私が中学生になったころ、父が腎臓の病気で透析を始めることになりました。その様子を見て、人の助けになる仕事ができたらいいな、お医者さんがいいかなと思うようになりました。

Q.糖尿病を専門にされたのは何故ですか。
A.実際にお医者さんになり、糖尿病や消化器疾患などいろいろな内科的な病気の診療をする第二内科に入りました。患者さんの診療や研究をするうちに糖尿病への興味が深まってきました。糖尿病は基本的には治ることがない慢性疾患です。合併症も含めて全身を診ながら、患者さんが病気とうまく付き合っていけるようにサポートするのが医者の役目で、患者さんと私たち医者も長いお付き合いになります。そういうところにやりがいを感じました。

Q.病院で患者さんに接するにあたって心掛けておれることは?
A.糖尿病は食事療法や運動療法、インスリン注射など、患者さん自身の管理が重要な病気です。患者さんと会話しながら、病気のことだけでなく、一人一人の背景まで理解した上でそれぞれに合った方法を見つけ、ご自身でうまく管理できるようにサポートしてあげたいと常々考えています。

Q.大学で学生さんを指導するにあたって心掛けておられることは?
A.糖尿病は全身を診る病気ですから、会話をしながら患者さんの心と体を理解できるようになってほしいという思いがあります。その一方で、複雑な病態を見極めて正しい対応ができるように基本的な部分もしっかり勉強してほしいと思っています。

Q.廣田先生の健康法やリフレッシュ法は?
A.普段、忙しい生活をしていると特別な運動をするのはむずかしいのですが、意識しているのは「歩くこと」です。できるだけ歩く量を増やして、食事の量にも少し気を使って体重をキープするようにしています。リフレッシュ法は、今のところは週末に子どもと遊ぶことかな。子どもの成長を見ることをとても楽しみにしています。

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