8月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」第178回
社会保障財源としての消費税
─社会保障費が増加する中、その財源確保が課題となっていますが、現状はいかがですか。
由井 2026年度(予算ベース)の社会保障給付費の総額は144.1兆円、対GDP比で20.8%です。給付は年金63.7兆円、医療44.6兆円、福祉その他が35.8兆円となっており、負担は保険料84.5兆円、公費56.6兆円で、公費のうち国負担分が38.9兆円、地方負担分17.7兆円です(図1)。

(図1)出典:厚生労働省
給付費は年金、医療、福祉その他のすべてにおいて増加傾向にあり、2040年度の推計社会保障給付費は190兆円、対GDP比で24%と、今後も65才以上の人口のピークを迎える2043年に向けて社会保障給付費は増加が見込まれています(図2)。

(図2)出典:厚生労働省
─国民の負担も増えているのでしょうか。
由井 その指標の1つが国民負担率ですが、これは租税負担と社会保障負担を国民所得で割ったもので、社会全体での稼ぎに対してどれだけの割合を税や社会保険といった公的な費用として分担しているかの指標です。(図3)をご覧ください。

(図3)出典:財務省
1975年度の国民負担率は25.7%でしたが、2025年度は46.2%と半世紀で約2倍に上昇しました。特に社会保障負担率は少子高齢化の進展により一貫して上昇傾向にあり、1975年の7.5%から2025年には18%と2倍超の負担増になっています。みなさまの稼ぎの半分近くが税金や保険料として徴収されているという状況ですね。
─社会保障費は国家予算のどれくらいを占めるのでしょうか。
由井 昨年度は一般会計の総額115兆1978億円のうち社会保障費は38兆2938億円ですから、歳出全体の約3分の1ということになります(図4)。

(図4)出典:財務省
─国の財政の大変さがよくわかる図ですね。
由井 新規国債は28兆
6471億円となっています。国債の利払いと元本返済に充てる国債費として28兆2179億円が計上されており、これは新規国債の発行額28兆6471億円とほぼ同規模になっていますので、借金で借金を返済しているということですね。債務残高の対GDP比は240%と世界172位で、171位のシンガポールの127%と比べてもわかるように世界でも突出した水準となっています。ここ数年、企業業績の好調や物価高の影響、賃上げの進展などの追い風を受けて、税収は過去最高を更新しているのですが、それでも歳出のすべてを賄うことができず、世界一の借金国家になっているのです。
─そのような厳しい財政状況の中で、増加する社会保障給付費を賄うにはどうすれば良いのでしょう。
由井 歳出面では全世代型社会保障改革の推進が議論され、応能負担による自己負担増、給付の見直しなどの取り組みがはじまっています。一方の歳入面については、社会保険料・所得税・法人税を増やせば勤労世代と事業主に負担が集中し、限界が近いという状況です。また、国債発行による恒久的な財源確保は将来世代への負担の先送りといった不公平や、国際的な信用低下や、最近のトレンドである金利の上昇によって財政悪化のリスクをはらんでいます。このような現状では、社会保障目的税とされる消費税が安定財源として重要になってくると思われます。
─それはなぜですか。
由井 消費税は高い財源調達力を有し、税収が経済の動向や人口構成の変化に左右されにくくて安定しています。また、勤労世代など特定の者へ負担が集中せず、経済活動に与える歪みが小さいという特徴があり、高齢化社会における社会保障の安定財源としてふさわしいと「社会保障・税一体改革」に記載されています。
─社会保障財源という視点で、消費税にはどのような問題点がありますか。
由井 1999年の予算総則では、国の消費税収を基礎年金・老人医療・介護に充てることがはじめて明記され、2012年の社会保障・税の一体改革で消費税増税分は年金・医療・介護・少子化対策に限定される社会保障目的税と明記されていますが、消費税は一般財源であり、すべてが社会保障に使われているのか不明ではないかと問題になっています。しかし2025年度の消費税収約25兆円に対し、社会保障費は約38兆円ですから、財源のすべてを消費税収で賄えていないので、この問題を議論する意味はなさそうです。
─消費税は、負担割合が低所得層になるほど重くなる、いわゆる逆進性があるという指摘がありますが。
由井 確かに所得が低いほど所得に対する消費の比率が高いという傾向があるので、結果的に低所得者の消費税の負担割合は高くなってしまいます。しかし、貯蓄も含めた生活水準で考えると、例えば収入が少なくても資産があるリタイヤ層なども存在しますので、単年度収入の多寡のみで豊かさの判定は困難です。また、個人資産をもつ人が多い社会では、単年度の所得を豊かさの指標とするよりは、消費の額そのものを豊かさの指標とする方が望ましいと思われます。その上、生涯所得の観点からは稼いだお金は貯蓄も含めいずれ消費されるため、消費税は過去の蓄積に課税する仕組みでもあることから、消費税を財源に社会保障で低所得層に厚く給付することで累進的に再分配することになり得ます。消費税の逆進性だけに焦点を合わせて議論しても適切な対応を見出すことができず、所得を含む税制及び社会保障全体の観点から対処すべき問題といえるでしょう。
─高市政権は消費税減税に動き出しています。仮に減税となった場合、先生はその影響をどう見ますか。
由井 食料品の税率が0%になると税収は年間で約5兆円、1%では約4兆3千億円の減収が見込まれ、その穴を埋める代替財源の確保も不透明なので、社会保障の土台を揺るがすリスクとなる可能性があるのではないでしょうか。確かに中東情勢緊迫化による原油高騰や円安進行による輸入品価格上昇などの影響による物価高で短期的には増収となるかもしれませんが、中長期的には経済の減速により法人税・所得税が減収となるリスクや物価対策による財政圧迫も懸念されますよね。こうした状況を踏まえると、導入すると変更が困難な消費税減税よりも、困窮層への直接給付など経済状況に即応できる手法を優先し、食料品減税の中止も視野に入れるべきではないかと個人的には思います。

兵庫県医師会 前医政研究委員会委員
田中医院 院長
由井 倫太郎 先生












