8月号
神大病院の魅力はココだ!Vol.57
神戸大学医学部附属病院 腫瘍・血液内科 南 博信先生に聞きました。
―神大病院腫瘍・血液内科で行われている臓器横断的な治療とは?
日本にドイツから医学が入ってきた明治のころから病気の治療は臓器別に行われてきました。ところが、がんの薬物療法についてはどの臓器にできる固形がんでも同じような抗がん剤を使って同じような考え方で治療しますから、習熟した腫瘍内科専門医が臓器横断的に治療をすれば、各臓器の外科・内科の先生方の負担が軽減され専門的な治療に専念できます。ひいては患者さんのためになります。臓器別の学問と薬物療法は全く別の領域の学問にもかかわらず、一人の医者が担おうとしたところに矛盾が生じていました。1970年代にアメリカでは、もともと抗がん剤治療が行われていた血液領域から派生し、「ヘマトロジー(血液学)・オンコロジー(腫瘍学)」と呼ばれる一つのセクションがすでに出来上がっており、腫瘍内科医が幅広くがんの薬物療法に専念していました。非常に合理的な考え方です。
―日本でも腫瘍内科医の必要性が言われるようになったのはなぜですか。
抗がん剤の研究が飛躍的に進み種類が増えて複雑になっています。それに伴い、さまざまなメカニズムで副作用が起き、その管理も難しくなっています。例えば、従来は手術後に再発を抑えるため抗がん剤治療が必要な場合、引き続き臓器別の専門医が担ってきました。臓器別に専門医が使い方や副作用まで勉強し、他の臓器でもその治療が有効だと分かればまたその領域の専門医が勉強しなくてはなりません。この繰り返しでは各専門医の負担はますます大きくなり、患者さんにとってのメリットもないことが、日本でも知られるようになりました。
―神大病院ではどのような経緯で腫瘍・血液内科が開設されたのですか。
私は90年代のアメリカで、臓器横断的に行われている合理的ながん薬物療法を目の当たりにしました。日本に帰り、現在の国立がん研究センター東病院で「どんながんでも診る医者」として、治療方針を決めて副作用を管理するところまでチームで薬物療法に取り組んでいました。全国的に腫瘍内科の必要性が言われ始めたころ、神大病院からオファーをいただき、本気にがん医療に取り組む意気込みを感じたため、約20年前、腫瘍内科学分野を立ち上げました。同じような考え方である血液内科学を統合し、腫瘍・血液内科として運営しています。
―がんの治療薬はどこまで進化しているのですか。
増殖が速くて盛んながん細胞をやっつけるのが従来の抗がん剤です。増殖が盛んな正常な細胞まで傷害してしまい、副作用として脱毛、白血球減少、下痢、口内炎などが出ていました。がんの分子生物学が進歩すると、「なぜ、がん細胞が増殖し続けるのか」の理解が進み、何かの理由で「増えろ」という信号が出続けるからだと分かってきました。例えば肺、胃、大腸などの細胞が異常をきたして信号を出し続けるためにがんになるのです。この異常を止めてやれば肺がん、胃がん、大腸がんなどをやっつけられます。つまり、分かってきた「なぜ」の部分をターゲットにして治療が開発されました。これが分子標的治療薬です。
―免疫チェックポイント阻害薬もその一種ですか。
全く違うメカニズムで効きます。がんは細胞の遺伝子に異常をきたして発生しますが、遺伝子異常は常に起きていて、体の中でがん細胞はできています。年齢を重ねると発がん物質の影響を受ける機会が多くなることもあり、遺伝子異常が増えてがんができやすくなります。がんができても免疫ががんを抑えていますが、免疫機能が衰えてきて抑えきれなくなるとがん細胞がどんどん増えます。若い人なら自身の免疫機能が、がんをやっつけてくれています。しかし、敵(がん細胞)も生き延びるために、免疫の働きを阻止しようとします。これを阻害すれば免疫が働き続けてくれることに注目して開発されたのが免疫チェックポイント阻害薬です。代表的な例として、効果的な薬がなかったメラノーマ(悪性黒色腫)では、一度免疫を刺激すると、薬を中止してもがんが抑えられているケースが一定の割合で認められています。肺がん、食道がん、頭頸部がん、胃がん、一部の大腸がんや乳がんなど、多くのがんで効果が認められ、使われています。
―新しい薬は副作用が無いのですか。
たとえば、がんの有無や広がりを調べたい、また治療効果や再発の評価が必要な患者さん、心臓の血流や心筋の状態を詳しく知りたい、脳血流や認知症の評価が必要、骨転移や骨の異常を調べたい患者さんなどが対象です。さらに核医学は検査だけでなく治療(RI治療)にも応用されています。検査時よりも多くの放射線を出す薬を病変部に取り込ませ、病変部を放射線で治療します。神戸大学病院では神経内分泌腫瘍や前立腺がんの一部の患者さんに対してRI治療を行い、病気の状態に応じて体の内側から病変を狙う治療を提供しています。
―IVRとはどのような治療法ですか。
どんな薬でも副作用はあります。従来の抗がん剤とは違うメカニズムで副作用はおきます。ただし、がんの種類が違っても、副作用のメカニズムは同じですから、副作用管理を熟知している腫瘍内科医がすべてをカバーすることに意味があります。
―分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬も保険が適用されるのですか。
保険診療で多くのがんの治療ができます。同一の遺伝子に異常があれば、どの臓器のがんなのかにかかわらず保険適用される薬も増えてきています。保険診療の根拠になるのが治験です。何百人もの臨床試験を重ねて効果が証明され、きちんとした環境下で使うことで安全性が証明されれば、厚生労働省から保険適用の認可がおります。患者さんが新たな可能性にアプローチする機会を提供するとともに、これからの患者さんのためにもなる治験に取り組むことは大学病院としての使命の一つだと考えています。
―腫瘍内科医がすべてのがん患者さんの薬物療法をカバーできるのですか。
まだまだ腫瘍内科医の数は足りておらず、抗がん剤に興味を持っておられる先生方を中心にして各診療科でも取り組んでいます。腫瘍内科は各診療科と常にカンファレンスを行って治療方針決定に加わっています。例えば、腎移植後に拒絶反応を抑えるために免疫を抑制している場合、自己免疫疾患を持つ人の場合、人工透析を受けている場合など、免疫を刺激することによる副作用を伴う免疫チェックポイント阻害薬をがん治療に使うべきなのかなど、難しい症例について相談を受け、蓄積されたデータを基にアドバイスし、治療を引き受けています。また、どの診療科が担当すべきか分からないがんの診療、例えば、「腺がん」は色々な臓器に発生しますが、リンパ節にはできません。できるはずのないリンパ節に「腺がん」がみつかると、発生元が見つかるまでいろいろな診療科で検査ばかりすることがありますが、これは患者さんのためにはなりません。治療を始めるのが先決ですから腫瘍内科で引き受けます。神大病院ではがんの患者さんがかかる診療科がないということがないよう体制を整えています。
―腫瘍内科医を育てていかなくてはいけませんね。
内科研修を終えた若い医師が循環器内科、消化器内科など専門分野に入るのと同じように、腫瘍内科を選択する人が増えると良いと思います。

南先生にしつもん
Q.南先生はなぜ医学の道を志されたのですか。
A.私が育ったのは長野県の地方都市でしたが、山間部の村では冬は陸の孤島となる地区もある、医者に行きたくても行けない。そんな状況を見て「そんな場所で、何でも診られるお医者さんになれたらいいな」と漠然と思っていました。
Q.腫瘍内科を専門にされた理由は?
A.名古屋大学医学部では卒業後は地域の病院で研修を行っていました。私は当時にしては珍しく全診療科を回れる病院で研修をしました。何でも診られる医師は内科医ベースが良いと考えましたが、当時は総合内科もなく、呼吸器内科を選択しました。肺がんの治療をしながら、当時は抗がん剤があまり効かないのに副作用に苦しむ患者さんの様子を見て「何とかならないものか?」と薬のメカニズムに興味を持ってアメリカへ行き、現地のがん医療を見て目からウロコが落ち、帰国後はその流れで腫瘍内科を専門とすることになりました。
Q.患者さんに接するにあたって心掛けておられることは?
A.大切なことは、一方的に患者さんに押し付けないことだと思っています。抗がん剤治療の効果が期待できてもご本人が望まないのであればその意思を尊重します。また、決して見放すわけではなく、緩和医療もがんの治療だとお話しして地域の専門病院に引き継ぐこともあります。
Q.若い先生方や学生さんに対してアドバイスをお願いします。
A.医療が将来どのように変わり、私のように人生どんな展開になるかは分かりませんから、まずは幅広く研鑽を積んでください。もちろん腫瘍内科に来てもらえたら嬉しいのですが、早い時期に決める必要はなく、いろいろな経験をしてほしいと思っています。最終的には、飛行機の中で「お医者さんいらっしゃいませんか?」とアナウンスされたとき、「はい」と言って出ていけるような医者になってもらえたら嬉しいですね。












