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連載 教えて 多田先生! ニュートリノと宇宙のはじまり|〜第40回〜
〜第40回〜「重力波」
自然界で最も大きな存在が宇宙、そして最も小さな存在が素粒子と考えられている。素粒子を研究することで、宇宙のはじまり、人間の存在を解明するーー日本の誇りをかけて、その最前線で日々研究に打ち込む素粒子物理学者・多田将先生。
謎に包まれた宇宙について多田先生に教えていただきます。
さあ、授業のはじまりです!
高エネルギー加速器研究機構の多田と申します。
前回は、一般相対性理論によると空間は固く安定したものではなくて、トランポリンの表面のように重いものが載ると凹んでしまう、という話をしました。そしてそれをエディントンが観測によって証明したことも。今回は、エディントンとは別の方法で一般相対性理論が正しいかどうかを調べる方法についてお話ししましょう。
トランポリンは、そもそも、たんに静かに上に乗って、凹みますね、と確かめるものではありません。その弾性を利用して、飛び跳ねて遊ぶものです。トランポリンの上である人が飛び跳ねると、トランポリンの表面自体が揺れます。そして、その「揺れ」が、飛び跳ねている人から離れた場所の表面にも伝わっていきます。
これと同じことが、空間でも起こりうるのです。ある質量のある物体が動いているとしましょう。そもそも天体というものは、これまで見てきたように、動かないと重力に引き込まれて「落ちて」しまうので、じっと止まっているもののほうが珍しいくらいです。このとき、その動きが空間を揺すってしまい、その「揺れ」が離れた場所へも伝わっていくのです。この伝わっていく「揺れ」を「重力波」と言います。この重力波を捕えることに成功したら、空間がトランポリンのように弾性を持っていること、延いては、一般相対性理論が正しいことを証明できます。そして、それはすでに成功しているのです。
二〇一五年九月一四日、米国の重力波観測施設LIGO(Laser Interferometer Gravitational-wave Observatory)が、人類で初めて、重力波の検出に成功しました。これは、二つのブラックホールが衝突した際に発生した空間の「揺れ」を観測したものでした。この観測データは、充分に検証されたあと、翌二〇一六年二月一一年に発表されました。そしてそのLIGOの建設に貢献した三人の物理学者、ライナー=ヴァイス、バリー=クラーク=バリシュ、キップ=ステファン=ソーンが、二〇一七年のノーベル物理学賞を受賞しました。
では、重力波はどうすれば捕えられるのでしょうか。トランポリンでは、飛び跳ねている人のところはもちろんのこと、そこから離れた、「揺れ」が伝わってきているところでも、トランポリンの表面は伸び縮みしています。伸び縮みしているということは、トランポリンの表面の長さが変化していることを意味しています。もしトランポリンの表面に定規のように目盛りを描いておけば、その目盛りの間隔が長くなったり短くなったりする様子が見られるでしょう。空間も同じです。原理そのものはとてもかんたんで、ある二地点間の距離を測っておくだけです。すると、重力波、つまり「揺れ」が伝わってくると、その距離が長くなったり短くなったりの変化を起こすのです。
原理だけはかんたんですが、実際にそれを行うのはとても難しいことです。というのは、この「距離の変化」が、とても小さいからです。LIGOが人類で初めて捕えた重力波は、二つのブラックホールの衝突によって生じたと言いましたが、それらの質量は、計算によれば、太陽の二九倍の質量と三六倍の質量です。その巨大な質量の天体が衝突してなお、地球に届く「揺れ」による空間(距離)の変化は、〇・〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇一にすぎないのです。図1にその「人類が初めて捕えた重力波の信号」を載せておきます。縦軸の「Strain」というのが変化量です。LIGOでは四キロメーターの距離を測っていましたから、その変化はわずか〇・〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇四メーター、つまり、陽子の大きさの一〇〇〇分の一にすぎないのです! よくそんな距離の変化が測れたものだと感心するでしょう。でもLIGOは、そのさらに一〇分の一以下の変化も捕えることができます。
この観測装置の概念図は図2のようなもので、じつはこれは第34回でお話ししたマイケルソン・モーリーの実験で使った観測装置の応用なのです。マイケルソン・モーリーの実験では光の速度を測定しましたが、重力波の検出では距離を測定します。スプリッターで二つに分けた光を直交した二つの鏡に反射させ、返ってきた光を検出器で重ねます。光が重なると、干渉縞という模様が見えるのですが、距離が変わらなければ模様もそのまま、変われば模様も変わります。その模様の変化を観測するのです。このために、実験施設も、長いL字形をしています。四キロメーターとは驚くほどながい施設ですが、それでもさきほどのように全然足りませんので、この鏡の間で二八〇回反射させることで、実質的に一一二〇キロメーター分の距離を稼いでいます。実験や観測は「雑音」との闘いです。得られる信号以下に「雑音」を下げる必要があり、それがその実験の感度となります。重力波観測での「雑音」は、地面の振動と、熱運動による鏡自体の振動です。これらを低減するために、世界各国の重力波検出装置は涙ぐましい努力をしています。LIGOでは、建設当初の装置では充分な感度が得られず、装置の改良を行い、改良が完了して観測を再開した、その二日後に、この偉大な観測結果が得られたのでした。
図1を見ると、グラフが左右二つありますね。それぞれ、「ハンフォード」「リヴィングストン」と書いてあります。つまり、LIGOは、この三〇〇〇キロメーター離れた二地点に同じ施設があるのです。この二つの施設で同様の信号が見られたということは、地面の振動や装置由来の揺れではなく、間違いなく本物の信号を捕えた、という証になります。そしてまた、重力波は光の速度で伝わるので、それぞれの場所で捕えた時間がわかると、三角測量の原理で、どの方角からやってきた重力波であるかがわかるのです。この二つの利点を聴くと、だったらもっと多くの場所に同様の施設を建設して同時に観測すれば、よりいっそう重力波の研究が進むのではないか、と思われることでしょう。まったくその通りで、今、世界中で同様の重力波観測施設が建設されています。これらの共同研究により、重力波の研究は飛躍的に進んでいくことでしょう。

(図1)
人類が初めて捕えた重力波の信号(LIGO Scientific Collaboration and Virgo Collaboration)
Description
First observation of gravitational waves by LIGO (signal GW150914). Shows the gravitational wave signals received by the LIGO instruments at Hanford, Washington (left) and Livingston, Louisiana (right) and comparisons of these signals to the signals expected due to a black hole merger event.
Source
http://physics.aps.org/featured-article-pdf/10.1103/PhysRevLett.116.061102 . See also the associated Jupyter notebook
Author
B. P. Abbott et al. (LIGO Scientific Collaboration and Virgo Collaboration) — full list at the end of the article

(図2)
LIGOの検出装置の概念図
PROFILE 多田 将 (ただ しょう)
1970年、大阪府生まれ。京都大学理学研究科博士課程修了。理学博士。京都大学化学研究所非常勤講師を経て、現在、高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所、准教授。加速器を用いたニュートリノの研究を行う。著書に『すごい実験 高校生にもわかる素粒子物理の最前線』『すごい宇宙講義』『宇宙のはじまり』『ミリタリーテクノロジーの物理学〈核兵器〉』『ニュートリノ もっとも身近で、もっとも謎の物質』(すべてイースト・プレス)がある。












