2016年
6月号
歌川国芳画 清盛入道布引滝遊覧 悪源太義平霊討難波次郎

兵庫ゆかりの伝説浮世絵 第二十八回

カテゴリ:文化・芸術・音楽

中右 瑛

源義平の霊が雷となって復讐する因果ばなし

 七月七日の暑い盛り、平清盛の病気全快の祝宴が、涼を誘う布引の滝で催された。久しぶりの酒宴とあって、家来たちは無礼講の酒に酔った。清盛の長子・重盛の重臣・難波二郎常俊も列席したのである。宴たけなわの頃、天俄かにかけ曇り、すさまじい雷鳴と共に豪雨となった。
 雷は一行を襲い、難波常俊は雷光を浴びてあっけなく爆死した。
 雷となって常俊を襲ったのは、源義平の怨霊である。義平とは、源氏一党の総領・源義朝の嫡男で、頼朝、義経の兄にあたる。豪勇ぶりは「悪の源太」の異名があるほどの荒武者で、平家方からは大そう怖れられていた。
 義平は、平家と勢力争いの戦「平治の乱」(1159)で父・義朝と共に戦ったが敗退し、その直後、平家方の難波常俊に捕らわれ、京六条河原で打ち首となった。その時、斬首を介錯した常俊に向かって、義平は
 「雷となって、復讐せん!」
と叫んで死んだ。
 「無念!」
 弱冠二十歳の意気盛んな若武者だった。
 その後の常俊も、そのことが気がかりであった。
 常俊の落雷死は、その悪の源太義平の怨霊が雷となって復讐したのだと、一行の誰かれとなく言い出した。
 このド胆を抜く復讐劇に、清盛は因果の恐ろしさに震えあがったのである。
 この種の因果ものは、江戸人に大うけし、芝居や浮世絵を賑わせた。

 絵は、義平を善、平家を悪として、因果復讐劇を伝えている。
 この浮世絵が出版された前年の安政二年(1855)には世にいう安政の大地震が起きたこともあって、天変地異に材をとった浮世絵が流行した。幕末の騒乱世相をも反映させていたのだろう。
 絵師一勇斎国芳。布引の滝で雷に討たれる常俊(図には経房とある)が描かれている。雷光すさまじく、中央には火の玉となった義平の怨霊。その下部に火花を浴び絶命寸前の常俊。雷となって復讐に燃える義平の形相と、あえなく雷に討たれた常俊の無念の表情が対照的だ。左には破れ傘の下で、坊主姿の清盛入道が驚いた表情で睨みをきかす、逃げ惑う家臣たちがいかにも滑稽に面白く描かれている。

歌川国芳画 清盛入道布引滝遊覧 悪源太義平霊討難波次郎

歌川国芳画 清盛入道布引滝遊覧 悪源太義平霊討難波次郎

■中右瑛(なかう・えい)

抽象画家。浮世絵・夢二エッセイスト。1934年生まれ、神戸市在住。行動美術展において奨励賞、新人賞、会友賞、行動美術賞受賞。浮世絵内山賞、半どん現代美術賞、兵庫県文化賞、神戸市文化賞、地域文化功労者文部科学大臣表彰など受賞。現在、行動美術協会会員、国際浮世絵学会常任理事。著書多数。

月刊 神戸っ子は当サイト内またはAmazonでお求めいただけます。

  • 電気で駆けぬける、クーペ・スタイルのSUW|Kobe BMW
  • フランク・ロイド・ライトの建築思想を現代の住まいに|ORGANIC HOUSE
〈2016年6月号〉
NEWS 神戸百店会|神戸凮月堂さんちか店
La.BEBEDOR(ラ・べべドール)〜上品な雰囲気に包まれて、お酒を楽しむ〜
神戸のカクシボタン 第三十回|「コスプレイヤーが行き交う聖地・六甲アイランド」
連載エッセイ/喫茶店の書斎から① 詩人の草稿
兵庫ゆかりの伝説浮世絵 第二十八回
神戸鉄人伝 第78回 金子 浩三 さん
Report KOBE中東ドバイのアートフェスティバル 巨匠を魅了した、村上美穂…
~神戸の芸術文化を考える~ 古典芸術・伝統文化の今 ―古典って、実は新しい?[座…
連載コラム 「第二のプレイボール」 |Vol.16
フランス人カップルが西宮神社で挙式[Report KOBE]
The Rotary Club of Kobe West 国際ロータリー第268…
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第六十一回
Power of music(音楽の力)第6回
早くて安い!神戸空港からひとっ飛びの旅!! |神戸〜東京の飛行機旅(後編)
Forall 神戸 〜確かな技術と最先端のビューティーサロン〜[オルタンシアビル…
世界中で人気のゾランヴァリ社の「ギャッベ」〜 元町商店街3丁目 ガゼボショップ…
美は、シルクロードを越えて ~ペルシア絨毯の世界
サ・マーシュ 〜和洋の融合から生まれる、新ジャンルのパンを提案したい〜
黒毛和牛とWINE 離の宴 〜肉屋ならではの料理と通も納得のワインの店〜
吟仕込み味処 はいから 〜お客さんの喜ぶ顔を見るのが幸せ〜
料理 十津川 〜産地直送で届く素材を生かす〜
アルポルト神戸 〜神戸の「港」にて、巨匠のイタリアンに出会う〜
ciccia(チッチャ) 〜「神戸のイタリアン」を追求〜
ブラッスリー ラルドワーズ 〜素材の美味しさを生かしてつくるフランスの郷土料理〜…
ギュール ルモンテ 〜キャンバスに描かれた絵のような目と舌で楽しむ繊細なフレンチ…
伊藤グリル 〜神戸洋食の流れを汲みながらフランス料理のスタイルを取り入れて〜
特集 ―扉 神戸の“おいしい”暮らし
未来のパティシエを育てたい 〜一般社団法人兵庫県洋菓子協会新会長に聞く〜
OPEN CAMPUS 2016 神戸市外国語大学
神戸市外国語大学 創立70周年記念事業『70周年記念講演会』
私の神戸市外大 青春時代
学生の学びの環境を充実させ進化する神戸市外国語大学
小学生の英語力向上のために「外大訪問」
日本で初めて神戸で開催 「模擬国連世界大会」
神戸市外国語大学創立70周年〝行動する国際人〟を育てる[インタビュー]
特集 ―扉 神戸市外国語大学創立70周年〝行動する国際人〟を育てる