2016年
6月号

連載エッセイ/喫茶店の書斎から① 詩人の草稿

カテゴリ:文化・芸術・音楽

出石アカル
書 ・ 六車明峰

 この春、帝塚山学院大学で「杉山平一展」が開催された。杉山平一氏は大学でゼミが抽選になるほどの人気教授だったという。先年97歳でお亡くなりになったが、晩年は日本の最長老詩人として活躍された人。
 会場で『こだはら』(35号)という冊子を頂いた。これは帝塚山学院大学が発行する文芸誌であり、生前の杉山氏が毎号巻頭詩を書いておられたもの。『こだはら』と、『帝塚山大学通信』に載った杉山氏の詩が全て載っている。
 帰宅して、あるページを開いた瞬間、わたしは「直線」という詩に目が釘づけになった。
 発表は昭和52年4月11日「帝塚山学院大学通信」32号とある。一読わたしは「アッ!」と声を上げた。それには理由がある。
 二年ほど前に、「ある詩人の草稿」という随想を、神戸の詩人、安水稔和氏が主宰する詩誌『火曜日』に載せた。それを少し省略して転載。

《一枚の古びた紙片を眺めている。ひょんなことから入手した今は亡き、ある詩人の草稿だ。すでに黄ばみが出ている。真ん中に「直線」と題された詩が書かれている。これが初稿であろう。

   直線

藍色の山は波とかさなり/銀いろの河はゆるやかにうねる/僕の電車も大きくカーブしているのに/人のこころももつれて/人の世もまがりくねるのに/おヽいま/雲間を洩れて/日はまっすぐまっしぐらに/落ちてきた/真直ぐまっしぐらに/光こそこの世の定規だ。

 この詩に無数の推敲の跡がある。そして第二稿が紙の右上のスペースに小さく。

あい色の山は波のように重なり/銀いろの河はまがりくねる/私をのせた電車もゆれて走るとき/おヽいま/雲間を洩れて/日光が落ちてきた/まっ直ぐまっしぐらに/光こそこの世の定規だ

 これにも無数の推敲の跡があり、第三稿が左上のスペースに。

山は青く波うち/河は銀色にうねる/わたしのこころもまどうとき/おヽいま/雲間より洩れて/光が落ちてきた/まっ直ぐまっし
ぐらに/光こそ世界の定規だ

 やはりこれにもいくつもの推敲の跡があるが、清書するとこうだ。

山は青く波うち/河は銀色にうねる/かくてはわたしの心もゆれるのに/おヽいま/雲間を洩れて/日光が落ちてくる/まっ直ぐにまっしぐらに/光こそ世界の定規だ

 この決定稿(であろう)を読むと、何の苦労もなく書かれたように読める。この詩人の詩の多くは、唇からすっと洩れてきたように思えるものだ。
 さて、この作品、「直線」である。わたしはこれまで読んだ覚えがない。調べてみたが見つからない。わたしの見落としがなければ未発表作ということになる。いや、本に入っていないだけで、どこかの新聞か雑誌に発表されているのではないか。さらに推敲が進んでいるかも知れない。》

 以上であるが、その随想で草稿の主の名を明かさなかった。草稿を本人の許可なく公表することにためらいがあった。しかもこの詩が発表されていない可能性もあったからだ(今回明かしてしまったが、杉山先生、お許しください)。「直線」についての情報はその後もなかった。
 ところが今回、思いがけず発表誌を知ることになった。なんということ。やはり杉山氏はあの草稿以降も推敲を進めておられたのだった。

  山は蒼く波うち
  河は銀色にうねる
  
  かく私の心もゆがむのに
  おヽ いま
  雲間を洩れて
  陽の光が落ちてくる
  まっ直ぐまっしぐらに

  光こそ世界の定規だ

 杉山氏らしい切れ味の鋭い詩だ。

■出石アカル(いずし・あかる)

一九四三年兵庫県生まれ。兵庫県現代詩協会会員。「半どんの会」会員。詩集「コーヒーカップの耳」(編集工房ノア刊)にて、二〇〇二年度第三十一回ブルーメール賞文学部門受賞。

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