2011年
8月号

桂 吉弥の今も青春【其の十七】

カテゴリ:文化人

夏は掃除。

落語「蛇含草(じゃがんそう)」の冒頭、主人公の男が暑い暑い外から知り合いの家の中へ飛び込んできて言う台詞がある。「暑いでんなあ。表を歩いてみなはれ、背中の方からじりじりじりじりと焦げてくる」。太陽があまりにも強烈に照らすもんやから、焦げるという表現を使ったのだろう。落語家が高座でやる時も、実際に扇子を全開にして右手に持ち、左手の着物の袖に風を思いっきり放り込むようにバタバタと扇ぐ仕草を付ける。真夏の落語会でこのネタをかけるとお客さんは『そうやそうや、ほんま焦げそうやで』という感じで客席で頷いてくれはる。さらに、ネタの中では、「そんな暑い夏でもこの家の中は涼しいでんな。それは何故かと言うたら、掃除がいきとどいてるさかいや」とこの家の主人を持ち上げる。「まず表の戸がカラカラっと開きまっしゃろ、庭は掃き清めてある、座敷はきちっと片付いてて涼しい夏座布団が引いてある。風鈴が鳴ってる、しのぶが吊ってる、金魚が泳いでる。」そして・・・「やっぱり夏は掃除でんなあ」とひと言。
うちの師匠・桂吉朝から習った時は別に何も考えずに言っていた一言であるが、この頃特に力を入れてしまう。ほんと心から出る言葉である、そう、夏は掃除なんである。
私は掃除がいたって苦手だ。今もこの原稿を書いている自分の部屋はたいへんな状態である。取材で吉弥さんのお部屋拝見という企画があったとしても断固お断りする。写真で撮るのもご勘弁願いたい。とにかくものが多いのか、あちらこちらに様々なものが積まれている状態だ。雑誌のタワーや雑貨の島が点在している。すべて必要と言えば必要だし、全ていらないものと言えばいらないかも。
サッカー日本代表のキャプテン長谷部選手が書いた本が人気らしい。「心を整える」というタイトルで、どうやら心だけでなく部屋の整理整頓が大切だと書いてあるらしいのだが、また部屋に本が増えると思うので購入していない。断捨離という言葉もたいへん気になるのだが、やっぱり断捨離について書いてある本を買うのは勇気がいる。どうせまた読んだ後は積み上げてしまうんじゃないかと思うのだ。
それでも、一ヶ月前に一度思い切って捨てる日というのを作った。一年も触っていないものはいらないだろうと、部屋の雑貨の島に手をつけたのである。心の中では「ひょっとしたら後になって必要だったりするかも」とびくびくしていたのであるが、今のところ困ったことは起こらない。やっぱりいらなかったのだ。しかし、まだまだこの部屋はいらないもので埋まっているように思う。
そして梅雨が終わり猛暑日となってくると、この部屋が暑いのだ。荷物が多いのでクーラーも効かないように思うし、窓を開けても風が通らない。島やタワーで風の通り道が無いものなあ。せっかくの畳の部屋なのに、ごろっと寝転がってうーんと手足を伸ばすと必ず何かに当ることになる。仕事でホテルに泊まると涼しい、それはものが無いからなのだ。部屋に必要なものしかないので狭い部屋であっても涼しい。ベッドの上で手足を伸ばせて気持ちがゆったりするのだ。
嫁さんによれば、私が一つ一つのものに気持ちを入れすぎるのがいけないらしい。確かに片付けの時、時間がかかっている。例えば雑誌一つを手に取れば「ああこれを買った時は冬だったか」「こんな記事読んでないぞ」「そうそうこれは感動した」と読み込んでしまうのだ。結局ちゃんと一冊読んでしまって、この雑誌はこんなに面白いんだから置いておこうとまた雑誌の島に積み上げてしまう。そして時間を見たら小一時間経っている。こんなことじゃ駄目だ。

今年の夏の目標は掃除。捨てること。いらないものは買わないこと。暑い中、嫁さんがこの部屋に入ってきた時に「あー涼しい、やっぱり夏は掃除やね」と言わせることだ。

KATSURA KICHIYA
桂 吉弥 かつら きちや

昭和46年2月25日生まれ
平成6年11月桂吉朝に入門
平成19年NHK連続テレビ小説
「ちりとてちん」徒然亭草原役で出演
現在のレギュラー番組
NHKテレビ「生活笑百科」
土曜(隔週) 12:15〜12:38
MBSテレビ「ちちんぷいぷい」
水曜 14:55〜17:44
ABCラジオ「とびだせ!夕刊探検隊」
月曜 19:00〜19:30
ABCラジオ「征平.吉弥の土曜も全開!」
土曜 10:00〜12:15
平成21年度兵庫県芸術奨励賞

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〈2011年8月号〉
フロントアート
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こころと技を社会に生かす
おもてなしの心を伝えます
安全・安心で高度な医療を地域に
季節をめでるお菓子
100年の心と技
伝統がかもし出す美味しい珈琲
世界へ羽ばたく感性の翼 手の温もりは、心の温もり
特集 ー扉  たいせつな日、たいせつな人と
個性が光るホテル経営
思い出は、ヴォーリズ建築と共に
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神戸ロマンスアワード 2011
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