2011年
8月号

安全・安心で高度な医療を地域に

カテゴリ:医療関係

兵庫医科大学病院・病院長 太城力良さん

急性期医療・救急医療で地域貢献を目指す兵庫医科大学病院。更に強化を進めるに至った経緯や今後について、病院長の太城力良さんにお聞きした。

大きな試練と新たな挑戦

―兵庫医科大学病院は40年近く歴史を持つ病院です。太城先生にとって印象深かったことは?
太城 まず、平成7年の阪神・淡路大震災です。私がこの病院に来たのはその1年前でした。麻酔科ということで、救護活動の責任者になりました。ところが大学病院はライフラインが途絶して機能せず、この場所ではなすすべもありません。そこで、西宮市の救護所をすべて受け持ちました。各地から救援に来てくださった多くの医師や看護師の後を引き継いで、兵庫医大病院の約500人の医師と、看護師、薬剤師が70カ所近い救護所を回り、再開している地域の病院や診療所へ患者さんに戻っていただく段取りを行い、救護所の撤収に携わりました。
 二番目は、平成17年の尼崎のJR脱線事故です。当時、私は副院長で危機管理担当でした。一報が入り、「何人を受け入れられるか?」と問い合わせがきましたので、「無制限」と答えました。結果的に113人を受け入れることになりました。この2つの大災害での試練が、大学病院の方針決定にも大きくかかわりました

―新たな挑戦もいろいろありますね。
太城 一つは、ポートアイランドに兵庫医療大学を新設したことです。現場からは「古くなった病院の整備が先決では?」という声もありましたが、新たに看護師、理学療法士、作業療法士も誕生し、さらに1年半後には薬剤師も輩出する予定です。今では医学部の学生と3学部の学生が共同して、ディスカッションしながらチーム医療を学んでいます。
 もう一つが、14年前に国から移譲を受けた国立篠山病院を昨年、「ささやま医療センター」として再スタートさせたことです。赤字続きでしたが、地元からの強い要望を受け、大学病院には収益追求ではなく教育・研究・診療で社会に貢献する使命があるという考えのもとでの決断でした。最近は患者さんもかなり増えてきて、地域医療に貢献していると思っています。

災害時の経験をふまえ新センター開設を目指す

―兵庫医大病院の特徴は?
太城 厚労省のDPC調査データによると、当病院で扱う疾患で全国トップが潰瘍性大腸炎とクローン病(炎症性腸疾患)、アスベストによる中皮腫などがあり、中耳炎や眼科手術は全国2位です。その他、肝疾患やがん診療も得意にしています。兵庫県内で最も保険診療の請求額が多く、頼れる病院1位にも選ばれています。

―大学の付属病院という名称ではないのは何故ですか。
太城 創設者で初代病院長・森村茂樹の、教育・研究と診療は同等の立場で行うという理念に基づきます。患者さんへの診療技術の高さと奉仕を重要視しています。

―付属病院と同じく、大学とは大きな連携があるのですね。
太城 もちろんです。臨床医学は全て、病院の医師が教えています。学生は入学後すぐ、病院で患者さんに一日中付いて回ります。2年生では病棟看護師に付いて回り、3、4年生で更に医学知識を深めたら、5、6年生では私たち臨床医師指導の下、実際に患者さんに接します。

―卒業生はほとんどが大学病院で勤務するのですか。
太城 卒業生100人のうち約半数が兵庫医大にきます。兵庫医大病院は、希望者と定員のマッチングが100%という日本でも数少ない大学病院です。

―施設や病床も増え続けていますね。
太城 確かに、建物や施設は増えていますが、ベッド数は多い時には約1400床あったものが、現在は900床程度です。入院患者さんの在院日数が平均して30日超だったものが12日と減少しているからです。急性期の治療に特化し、その後は地域の病院・診療所や自宅でという方針に基づくものです。

―新病棟を建設予定ということでが、どういう施設になるのですか。
太城 急性医療総合センターです。1、2階の救命救急センターでは、外傷だけでなく、血管を画像で見ながら手術するIVRセンターができます。3階が術後の重症患者さんを診療する集中治療室(ICU・HCU)、4階が手術室、5階が目の手術を行うアイセンターです。6階がNICU(新生児特定治療室)と産科手術室です。災害拠点病院として大規模災害の経験をふまえ、急いで連携すべき施設を一つの建物内に集約しました。停電になっても大丈夫、地震にも強い構造です。

―完成はいつ頃ですか。
太城 建物は来年12月の完成を目指して、既に工事が始まっています。看護師をはじめ、中で働く人を集めて教育するのが今後の課題です。兵庫医療大学からも優秀な人材が来てくれるものと期待しています。

人は皆、間違いをするものチーム医療でミスを防ぐ

―太城先生は何故、麻酔科の専門医になろうと思ったのですか。
太城 医学部を卒業してすぐには、何科の専門医になるかなど決められません。麻酔科は急性期の内科医ですからいろいろなことを知っていなくてはいけません。一つの病気をよく知るだけでなく、手術前の全身管理が必要ですから、まず麻酔科をやっておこうと思いました。
 2年後にアメリカの医師試験に通ったのでユタ大学に行き、そこで読んだのが「空気の麻酔作用」という論文でした。空気中の窒素は麻酔薬ですから人間は皆、麻酔にかかっている。浅い麻酔状態だから人類の歴史は喧嘩や戦争を繰り返してきたというものでした。「これはおもしろい」と思い、麻酔が何故効くのかという研究を始め、そのまま麻酔科に進むことになりました。皆が軽い麻酔にかかっているわけですから、過ちを犯すのは当たり前なのです。大切なのは、常に間違っていないか自分で、また回りの人とも協力してチェックすることです。誰かが間違ったら、ちょっと麻酔にかかっているのかなと心の余裕を持って見てあげる。そしてコミュニケーションをよくして、ひとりではなくチームで医療を行う。医療ミス防止の指導に私はいつも活用しています。

職員の幸せな気持ちが患者さんの幸せにつながる

―これからの医療に必要なことは?
太城 医者は病気を治すことしか考えていなかったというのが正直なところです。ところが、患者さんが望んでいるのはケアしてもらって満足感を得ることです。心や体すべてを含めたケアです。看護師や医師も含めて皆でチームとして行うトータルヒューマンケアがこれからは大切です。

―痛みの緩和ケアも必要ですね。
太城 兵庫医大には日本で唯一、疼痛制御科学が開設されています。痛みを科学する学科です。ペインクリニック外来には1日60人以上の患者さんが来ます。緩和医療セミナーは10年以上前から地域の医療関係者を集めて開催しています。

―これからも地域医療に貢献していくのですね。
太城 大学病院は病床の1・5倍程度の外来患者数が限度といわれています。当病院は約900床ですから1300人程度が限度のはずが、外来患者さんが1日平均2300人こられており、採血するだけでも長い時間待っていただくことになります。信頼されることは非常にうれしいのですが、私たちとしては急性期や重症はここで、安定したら地元の診療所に戻っていただく「2人主治医」体制をとりたいと考えています。患者さんは見放されたような気持ちになるようですが、大学病院が十分に機能するためにも必要なことなのです。

―今後の抱負をお話しください。
太城 教職員のアメニティーがほとんどないのが現状です。教職員が幸せな気持ちでやりがいを持って患者さんに接することができる環境をつくりたいと考えています。従来の救命救急センターは、外の様子など見ることもできませんでした。新しい急性医療総合センターは武庫川沿いをガラス張りにして、職員が緑や桜なども見てホッとできるような造りにしました。働いている職員は皆、労働過重です。辛い思いをしながら患者さんに接していると患者さんも不幸でしょう。少しでも労働条件を良くすることが患者さんの幸せにつながると思っています。

太城 力良(たしろ ちから)

兵庫医科大学病院長
学校法人 兵庫医科大学理事
1972年大阪大学医学部卒業。アメリカ留学、大阪大学助教授、大阪府立母子医療センター手術部長を経て、1994年より兵庫医科大学麻酔科教授に就任。同病院中央手術部長、臨床工学室長、集中治療部部長、医療安全管理部部長などを兼務。2004年副院長、2009年4月から現職。

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