2011年
8月号

神戸鉄人伝(こうべくろがねびとでん) 第20回 芸術家男星編

カテゴリ:文化・芸術・音楽

剪画・文
とみさわかよの

写真家
前田 章次さん

50年前は、カメラはごく一部の人しか手にできない高価な品で、使いこなすには高度な技術が必要でした。その後、簡易なフィルムが開発され、現像も機械化されて、カメラもどんどん扱いやすくなっていきました。そして今や、デジタルカメラが世を席巻、携帯電話の普及で誰もがカメラを持ち歩くまでに。そんな写真の歴史を、体で知っているのが写真家の前田章次さん。撮影にも指導にも定評ある前田さんに、愛用のLEICA R48を前に、お話をうかがいました。

―写真との出会いは、何だったのでしょう?

世間には、メカ好きの「カメラ少年」が、長じて写真家になったと思われてるかもしれないけど、実は違うんです。僕は若い頃、食料品店に勤めてて、単車でコーヒーの粉とか運んでたんだけど、途中でよく一服する友人の店が、たまたま写真店だった。ある日友人が、「あんたも写真やらへんか?古い写真機、九千円で売るで」と。でも写真が好きなわけでもないし、当時の九千円は大金だし、最初は断った。そしたら「写真機は貸してやる。公募展で入選して、賞金で買えばいい」と言われてね。じゃあ、と二眼レフを借りたのが始まりです。27歳の頃だね。

―写真機を買うために、投稿を?それが写真人生の始まりですか。

そう、そしたら入選してしまってねえ、もう買わな仕方ない。でも写真機を自分のものにしたからには、ちゃんとやろうと思った。それからはもう手当たり次第、新聞社のコンクールに欠かさず出品して、ずっと入選し続けた。自分で「二度と同じ表現はしない」と決めて、いろんなものを撮って、とにかく頑張ったなあ。だから僕は、風景でも、人物でも、どんな写真でも撮れる。

―当時は、現像ひとつ取っても大変だったのでは。

最初は写真仲間に現像を頼んでいたけど、そのうち四畳半のアパートを暗室にして、自分でするようになった。その後、加納町に一坪の店を構えてからは、人の写真の現像が仕事になってね。黒をきれいに出すために、水道水ではなく井戸水を使って現像したりして、他の店には負けなかったな。そうやって、写真が本業になっていったわけです。

―撮影のお仕事をされながら、多くの写真愛好家の指導にもあたってこられました。

僕の入選が相次いだもので、教えて欲しいと言われて。でも写真というものは、アドバイスはできても、撮り方を教えることはできないんですよ。同じものを見ても、人によって感じ方が違う。従って、撮り方も違う。だから「思い通りに写せ」「感じたまま写せ」が、僕の指導法。「こう撮れ」とは言わず、撮った写真を見て評価する。写真を見れば、撮影してた時の気持ちまで、手に取るようにわかるからね。

―先生の作品は「撮ったまま」なのでしょうか?後からトリミングして、余分なところを切り落とすのでしょうか?

撮ったままです。僕は写真は「瞬」のもので、写し直しや作り直しは、できないものだと思っている。だから、写真には写真としての、表現方法がある。撮り方を言うなら、人物を撮る場合、画面の真ん中に人を置いたら記録写真になってしまって、ドラマが無いわけです。人の行く手の広がりを写せば「未来」が、ジャンプしてる人物の頭を切るように写せば「跳躍」が表現される。あえて全身を写さず足下と路面に映っている影を撮る、路地の影でそこに居る人を想像させる…それが、写真で表現するということ。僕の写真はどれも、その場でねらったものを、完成したかたちで撮っている。後から作ったものではありません。

―カメラがカメラらしく、写真が純粋に写真だった時代の撮り方ですね。デジタル操作で何でもできてしまう時代、「生」の写真は、かえって訴えるものがあります。

僕がベネチアの仮面祭りを撮った連作に、詩人の伊勢田さんが詩をつけてくれた。彼が「書かせて欲しい」と言うので「僕の写真で詩が書けるの?」と聞いたら、「書けるよ!」とすごい詩を書いてくれてね。ご存じの通り、仮面祭りの間のベネチアは、街中が中世にタイムスリップしたかのような騒ぎ。僕もその時代の人間になったつもりで、シャッターを切った。記念写真ならただ撮影すればいいけど、「表現する写真」は、自分が感じたものを写すこと、心に感じて撮ることが大前提です。伊勢田さんも何か感じるものがあって、書いてくれたんだと思う。

―投稿時代を経て、プロの写真家として歩んで来られたわけですが、夢をかなえた人生と言えますか?

夢と言っても、僕は賞金目当てで写真を始めたようなものだし、もともと勉強嫌いのアウトドア派で芸術とは縁遠かったし、志があったわけじゃないしねえ…。写真を仕事にしてからは、ポートレートでも、イベント写真でも、何でも撮ったけど、本当は撮りたいものだけを撮りたいよね。できれば、アマチュアでいたかった。だから今、夢を追って毎年、世界各国をまわりながら、未知の世界から自分の作品を追求しています。
(2011年7月5日取材)

伊勢田史郎さんが詩を寄せた 写真集「ペルソナの悦楽」(1994年)より


「夕餌どき」(国内作品より)

とみさわ かよの

神戸市出身・在住。剪画作家。石田良介日本剪画協会会長に師事。
神戸のまちとそこに生きる人々を剪画(切り絵)で描き続けている。
日本剪画協会会員・認定講師。神戸芸術文化会議会員。

〈2011年8月号〉
フロントアート
特集 ー扉 こころと技を伝えたい
こころと技を社会に生かす
おもてなしの心を伝えます
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季節をめでるお菓子
100年の心と技
伝統がかもし出す美味しい珈琲
世界へ羽ばたく感性の翼 手の温もりは、心の温もり
特集 ー扉  たいせつな日、たいせつな人と
個性が光るホテル経営
思い出は、ヴォーリズ建築と共に
神戸の活気をウエディングから
神戸ロマンスアワード 2011
踊ることは高め合うこと
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