7月号
スイス時計産業と神戸を繋ぐ「架け橋」として、
これからも神戸の街とともに歩み続けたい
戦争、大震災、コロナ禍など幾多の困難を乗り越え、120周年を迎えた時計・
宝飾正規販売店「カミネ」。現在、神戸旧居留地エリアに10店舗を構える。
専務取締役上根彩さんに120周年や神戸への思いを伺った。
株式会社カミネ 専務取締役 上根 彩さん
神戸のまちに育てられてきたからこそ 今がある
─創業120周年を迎えるにあたり、感想をお願いいたします。
おかげさまで、カミネは本年、創業120周年という節目を迎えることができました。創業以来、つくり手の想いが込められた確かな製品とお客様をつなぐ立場として「正統なものを、正規のルートで」にこだわり、誠実に向き合い続けてまいりました。私たちがこれまで歩みを進めてくることができたのは、何よりもお客様に支えていただいたおかげです。また、先代から受け継ぐ「このまちにあり、このまちに育てられてきたからこそ 今がある」という言葉通り、その歩みは、いつも神戸のまちと共にありました。これから先も、美しいまちの佇まいを支える確かな一手であるとともに、世代を超えて受け継がれる逸品を通じてお客様の人生に輝きを添える存在であり続けたいと考えます。
─カミネ様が、神戸を拠点にされた経緯についてお聞かせください。
初代は神主をしておりましたが、あるとき神戸の地へ降り立ち 金細工やかんざしを取り扱うことをはじめ、そこから小売店としての歴史が始まりました。そこから太平洋戦争、第二次世界大戦の戦火を乗り越えた二代目、高度経済成長期~阪神・淡路大震災という激動の時代を走り抜いた三代目、スイスとの絆を深めながら時計専門店のあり方を一新し、芸術にも比肩する逸品の価値を今に伝える現四代目に至ります。
私たちの店舗がこれまで存続できているのは、ひとえにお客様のおかげでありますが、港町神戸が湛える洗練された気質が大きく影響しています。開港以降、西洋文化の入り口として栄え、外国人居留地を中心に、多様な文化を柔軟に受け入れる気風が育まれていた神戸は、時計もまた単なる時を知るための道具ではなく、装いや美意識を映す存在として受け入れられたのでしょう。美しいものに心を寄せる、そんな感性が息づくまちだからこそ、良質なものが自然と根づく風土なのだろうと感じます。
ブランドごとの表現を大切にし、神戸の街並みに溶け込む店舗を
─カミネ様が、お客様に対して大切にされている点についてお聞かせください。
・店づくりの原点はいつも「すべてはお客様のために」にあること。・小売店とはお客様と単なる取引ではなく、喜びを共有する関係であること。
だからこそ常に、顧客目線第一主義であるべきだと考えています。
提供する製品については、
・職人たちが込めた技と想いを、誠実にお伝えすること。
それが作り手への敬意であり、正規販売店としての誇りであり、私たちの責務であると考えています。
─トアロード・大丸前・旧居留地に10店舗を構えておられます。店舗づくりで大切にされている点についてお聞かせください。
大型店舗へ集約しないのは、ブランドごとの表現を大切にし、神戸の街並みに溶け込みながら時計を見て回り、街を歩く…その時間そのものを楽しんでもらいたいという現四代目社長の想いからです。現四代目社長は、若い頃からスイスのジュネーブやバーゼルへ何度も足を運び、時計ブランドや時計師たちとの交流を深めました。そうした経験を通じて、時計そのものだけでなく、作り手の価値観や背景にある物語まで含めて時計を楽しむ文化を根付かせたいという願いがあるからこそ、現在の姿に収まっているように感じます。しかしながら昨今は、ブランドの方向性により、ワールドワイドでマルチショップからの離脱が進んでおり、今後私たちの店舗の形態も少しずつ変化していく予定です。
「神戸の街への想い」をテーマとした120周年限定モデル
─120周年を記念した取り組み等がございましたらお聞かせくださいませ。
私たちはディーラーという立場であり、物を創り出す技術はありません。ですが、120年の中で培われた多くの価値ある製品を見てきた審美眼と、ブランドとパートナーシップを築いてきた強みはあります。そのような想いを発信する術として、私たちは周年の節目に限定モデルをブランドと共同開発し、リリースするプロジェクトを100周年のときから10年に一度、行っており今回も同様に、120周年限定モデルを発表しました。
今回の限定品は全部で4コレクション。これまでにはなかった「神戸の街への想い」が製品に込められたモデルもあります。つくり手の想いと、これまで数多くの製品を見て、触れて、販売してきたからこそもつこだわりを製品にのせ、発信する取り組みは、自分たちだからこそできるものと信じ、お客様にお届けしていきたいと思っています。
─6月5日には、記念イベントが開催されました。どのようなイベントでございましたでしょうか。また、感想をお願いいたします。
時計メディアで影響力の高い方々を欲張りに集結させ、久しぶりにトークを主体としたイベントを開催しました。今回の限定品はイベント当日まで完全非公開であったため、神戸にとどまらず日本全国から期待の声が高まり、多くの時計好きのお客様にお越しいただきました。
トークイベントの後に初めて実機を展示したタッチ&トライの場でも熱気は冷めることなく、会場一帯が高揚に包まれた賑やかな夜に。時計のイベントではよくあることなのですが、居合わせたお客様同士で会話が盛り上がり、そこから新しいコミュニティが生まれることも。時計を介した出会いの場を生み出すのもまた、時計専門店ならではの喜びです。
神戸の街はいま、新たな
輝きをまとい始めている
─現在、AIの進歩をはじめ時代が大きく変化しています。高級時計の業界でも大きな変化がございましたらお聞かせください。
私自身、驚くほど発達したAIプログラムに遅ればせながらすっかり夢中で、未知の可能性にわくわくしています。例えば、現存しない時計やジュエリーを催促し、そこから生まれるアートワークなどにも興味津々。現在のところ、変化と呼べるほどの大きな影響はありませんが、製造面においては、品質管理への活用という点において画期的に機能しているのではと感じます。その他、オンラインで高級時計を認証することを目的としたアプリなどの人工知能はすでに利用されていますし、多くのメゾンはAR試着機能や仮想ショッピングアシスタントを導入したEコマースを有力な販路と位置づけています。
─カミネ様の今後のビジョンについてお聞かせください。
時代の変遷とともに時計専門店のスタイルも変化を遂げてきました。店の姿やブランドの表現は、ようやく欧米に追い付く時に差し掛る中で、私たちはこれまで大切にしてきたものを守ることと同時に、新たな価値観を醸成していく必要があります。時代の潮流に柔軟に対応しながらも、原点にあるのは「すべてはお客様のため」これは先代からずっと受け継いできた大切な教えです。正規販売店としてブランドの価値や作り手の想いを正しく、情緒を込めてお客様へ伝えること。製品を通じてお客様に喜んでいただくこと。この二つは不変であり、お客様を迎える売場環境はいつでも最良の形に。そして、神戸の街並みを彩る一隅を担う存在であり続けたいと考えています。
─神戸の街も大きく変わろうとしています。神戸の街への期待がございましたらお願いいたします。
新たな輝きを纏い始めた神戸に期待は高まるばかりです。円安を背景に訪日外国人は過去最高を記録し、2027年のマリーナ誕生、2030年の神戸空港国際定期便就航など、世界へ向けて扉が開かれようとしていることをとても楽しみに感じると共に、これを弾みに街全体がさらなる賑わいに満ち、訪れる人々を魅了する街であってほしいと願っています。神戸は、大阪・京都・瀬戸内という観光都市に隣接しながら、利便性の高いアクセス手段を複数備えた立地であることを利点に、旅の「経由地」としても「目的地」としても選ばれ続ける都市であることを願ってやみません。玄関口がいっそう広がる今、私たちカミネも正規販売店としてスイス時計産業と神戸を繋ぐ「架け橋」としての役割を担い、これからも神戸の街とともに歩み続けて参りたいと思います。



初代・銀助

二代目・馨

三代目・保

現四代目・亨

昨年10月にオープンした「パテック フィリップ ブティック 神戸・元町」

今年3月にリニューアルしたトアロード本店2Fには日本初の「カルティエ サロン」が誕生

上根 彩(かみね あや)
株式会社カミネ専務取締役。1985年生まれ。大学卒業後、リシュモンジャパン株式会社にて勤務後、2013年より家業へ従事。営業、広報・PRを経て2022年より現職。2025年には一般社団法人神戸青年会議所 女性初の理事長として活動した。












