2015年
11月号
山芦屋は茅渟の海を見守りつづける。山芦屋から芦屋の街並み、大阪湾を望む

茅渟の海を望む地 山芦屋の歴史と価値

カテゴリ:文化・芸術・音楽

 芦屋の歴史を紐解くと、その根源を山芦屋とその周辺にみることができる。
 この一帯には遺跡や古墳が多く、阪急電車より北の芦屋川右岸(西側)にはざっと10くらいある。中でも山芦屋遺跡では縄文時代早期からの土器が出土し、弥生時代の竪穴式住居跡も発見されている。また、その西にある会下山遺跡は弥生時代の高地性集落として全国的にも貴重で、国史跡にも指定されている。太古からこのあたりの中心地であるとともに、住むのにも絶好だったのかもしれない。
 中世になっても変わらず重要な場所だったようだ。室町時代には南側に三条村が形成されている。戦国期になると芦屋川と高座川を外堀とした鷹尾城が築かれ、その南麓が住居の場であったようだ。鷹尾城は戦に巻き込まれるが、それはこの地が戦略的・政治的な要所だったためであろう。
 やがて江戸時代を迎えると、水車産業が発展する。特に江戸末期は大いに栄えたようだ。灘五郷という日本一の酒造地に近接していたこともあり精米が盛んで、照明に欠かせなかった菜種油の搾取とともに一大産業になってなった。明治期になると銅などの金属を伸ばす動力や、名産だった「灘目素麺」の原料となる小麦を挽くのにも活用されたようだ。動力の近代化に加え昭和13年(1938)の阪神大水害で被災し、多くの水車小屋が廃業に追い込まれたが、現在も街の石垣などに見かける石臼や、悲恋の物語「金兵衛車やけ車」の伝説に往時を偲ぶことができる。
 明治初期には田畑や山林が広がっていたこの一帯だが、やがて阪急電車の開業などにより開発されていく。芦屋はもともと海岸部から山手へと宅地化が進んでいったが、その多くが耕地整理や区画整備などの都市計画に基づくものであった一方、山芦屋の場合はちょっと様相が違ったようだ。というのも広大な山林を富裕層が購入、自ら切り拓いていったのだ。ゆえにその規模は壮大で、中でも右近権左衛門邸はひとつの丘を占める圧倒的なスケールだった。
 ほかにも松岡潤吉邸、山口吉郎兵衛邸、中山悦治邸、渋谷義雄邸などのお屋敷が建ったが、それらはそれぞれ渡邊節、安井武雄、村野藤吾、竹腰健造と近代日本を代表する建築家の作品でもあり、山芦屋はまさに「建築博物館」だった。もちろん、そのような場所は日本でもここくらいだろう。
 眼下に茅渟の海を望めば六甲の緑から涼風そよぎ、交通も至便。今も昔も変わらぬこの土地の価値は、これからも色褪せることがないだろう。

山芦屋を流れる高座川は豊かな水量を誇り やがて芦屋川とひとつになる


山芦屋は茅渟の海を見守りつづける。山芦屋から芦屋の街並み、大阪湾を望む



石臼(上)や挽き臼(下)を石垣に利用する山芦屋の邸宅。水車産業で栄えた面影を残す

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日本の生活を大きく変えたマイルストーン
阪神間モダニズムを育んだ3つの川 夙川、芦屋川、住吉川
茅渟の海を望む地 山芦屋の歴史と価値
山芦屋は「建築博物館」
山芦屋に佇む、村野藤吾の名建築 中山悦治邸
緑あふれる住宅地 夙川の起点となった香櫨園
ネオ・ゴシック様式の聖堂 カトリック夙川教会
随所に施された何気ない「上質」 旧山本家住宅
生活をアートに変えるエスプリ 浦太郎邸
「日本一の長者村」 財界人たちが邸宅を構えた住吉村
阪神間モダニズム邸宅の傑作 旧乾邸
阪神間モダニズムの一角を 形成した〝住吉〟
日本経済を動かした、地域コミュニティ「観音林倶楽部」
日本の発展に尽くした実業家 平生釟三郎
「阪神間モダニズム」ゆかりの美術館をめぐる ―扉―
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文豪の世界と地域文化を継承する 芦屋市谷崎潤一郎記念館
安井武雄の建築思想が息づく私邸跡 公益財団法人山口文化会館 滴翠美術館
俳人・高浜虚子の作品と出会う 虚子記念文学館
国宝・重要文化財を含む貴重なコレクション 白鶴美術館
村山龍平が後世に遺そうとした古美術 香雪美術館
女流画家の夢がつまった小さな美術館 世良美術館
秋の神戸観光 半日で行って帰れる 紅葉スポット!「神戸市立須磨離宮公園」
秋の神戸観光 世界の森の紅葉を楽しもう 「神戸市立森林植物園」
秋の神戸観光 高山ならではの紅葉の美しさ 六甲高山植物園 他
街全体が歴史によって刻まれた 建築・住居学の実物大教科書
国際都市神戸にふさわしい環境
地域の人たちの温かさと 豊かな自然に囲まれて
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兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第五十五回
神戸のカクシボタン 第二十三回
草葉達也の神戸物語
神戸鉄人伝(こうべくろがねびとでん) 第71回
第二十一回 兵庫ゆかりの伝説浮世絵
触媒のうた 57
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