2015年
11月号
独自の装飾表現で数々の名建築を生み出した村野藤吾が、最初に設計した個人宅でもある

山芦屋に佇む、村野藤吾の名建築 中山悦治邸

カテゴリ:建築, 芦屋

 日本を代表する建築家によるお屋敷がいくつか現存する山芦屋。その一角、ワンブロックを占める広大な敷地に建つ中山悦治邸は、日本の建築史に大きな足跡を残した村野藤吾の設計だ。
 村野は日本近代建築の先駆者と評される渡邊節の事務所で研鑽を積み、折衷主義にモダンの要素を取り込んだ独自の装飾表現で数々の名建築を生み出し、建築家としてはじめて文化勲章を受章している。関西にもその作品は多く、大阪そごう、旧ダイビル、大阪新歌舞伎座、宝塚市役所、尼崎市役所などで知られている。
 そんな村野が手がけた最初の個人宅が、中山製鋼所の創業者、中山悦治の邸宅だ。昭和9年(1934)の竣工だが、現在もその見事なデザインは色褪せていない。
 大谷石の塀に囲まれた敷地。重厚なチーク材一枚板の扉の正門を入るとパティオになっており、黄竜山石のアプローチを経て良質のトラバーチンが床や外壁にふんだんに使用された玄関へ。
 さらに中に入ると壮大なホールが迎え、吹き抜けで上下の空間が伸びやかに広がる。内壁は渋い褐色のチークベニヤ、天井は薄青の銀箔モミ紙で、シンプルでありながら格調高い。しかし、フローリングの何気ない意匠や重厚なマントルピース、磨りガラスや壁に施された魚のドローイングなど、どこか遊び心があり、洗練された装飾にセンスを感じる。
 洋風のホールに隣接して和の空間が広がる、芦屋らしい和洋館のスタイル。和洋が融合した近代建築草創期の名作と言えるだろう。
 阪神・淡路大震災でびくともしなかった堅牢さもまた特筆すべき点。今なお古さを感じさせず、豪邸が立ち並んだ山芦屋のモダニズム時代を今に伝える名建築だ。

※現在も個人宅として活用されているため非公開。今回、特別に取材させていただいた。

独自の装飾表現で数々の名建築を生み出した村野藤吾が、最初に設計した個人宅でもある

独自の装飾表現で数々の名建築を生み出した村野藤吾が、最初に設計した個人宅でもある


天井には銀箔を用いた梨地のような設えに

天井には銀箔を用いた梨地のような設えに


邸宅の象徴でもあるマントルピース。意匠には村野の遊び心が見てとれる

邸宅の象徴でもあるマントルピース。意匠には村野の遊び心が見てとれる


磨りガラスには、魚のドローイングが施されている

磨りガラスには、魚のドローイングが施されている


2階のフローリングの意匠は規則正しくデザインされている

2階のフローリングの意匠は規則正しくデザインされている


山芦屋に佇む中山悦治邸は、昭和9年(1934)の竣工

山芦屋に佇む中山悦治邸は、昭和9年(1934)の竣工


一枚板のチーク材を使った扉

一枚板のチーク材を使った扉

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〈2015年11月号〉
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特集 ー扉 阪神間モダニズムと住まい
日本の生活を大きく変えたマイルストーン
阪神間モダニズムを育んだ3つの川 夙川、芦屋川、住吉川
茅渟の海を望む地 山芦屋の歴史と価値
山芦屋は「建築博物館」
山芦屋に佇む、村野藤吾の名建築 中山悦治邸
緑あふれる住宅地 夙川の起点となった香櫨園
ネオ・ゴシック様式の聖堂 カトリック夙川教会
随所に施された何気ない「上質」 旧山本家住宅
生活をアートに変えるエスプリ 浦太郎邸
「日本一の長者村」 財界人たちが邸宅を構えた住吉村
阪神間モダニズム邸宅の傑作 旧乾邸
阪神間モダニズムの一角を 形成した〝住吉〟
日本経済を動かした、地域コミュニティ「観音林倶楽部」
日本の発展に尽くした実業家 平生釟三郎
「阪神間モダニズム」ゆかりの美術館をめぐる ―扉―
大谷竹次郎の邸宅庭園と美術コレクションを公開 西宮市大谷記念美術館
文豪の世界と地域文化を継承する 芦屋市谷崎潤一郎記念館
安井武雄の建築思想が息づく私邸跡 公益財団法人山口文化会館 滴翠美術館
俳人・高浜虚子の作品と出会う 虚子記念文学館
国宝・重要文化財を含む貴重なコレクション 白鶴美術館
村山龍平が後世に遺そうとした古美術 香雪美術館
女流画家の夢がつまった小さな美術館 世良美術館
秋の神戸観光 半日で行って帰れる 紅葉スポット!「神戸市立須磨離宮公園」
秋の神戸観光 世界の森の紅葉を楽しもう 「神戸市立森林植物園」
秋の神戸観光 高山ならではの紅葉の美しさ 六甲高山植物園 他
街全体が歴史によって刻まれた 建築・住居学の実物大教科書
国際都市神戸にふさわしい環境
地域の人たちの温かさと 豊かな自然に囲まれて
国際ロータリー第2680地区 神戸西ロータリークラブ 心の「四季節」便り
連載コラム 「第二のプレイボール」Vol.9
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第五十五回
神戸のカクシボタン 第二十三回
草葉達也の神戸物語
神戸鉄人伝(こうべくろがねびとでん) 第71回
第二十一回 兵庫ゆかりの伝説浮世絵
触媒のうた 57
有馬歳時記 有馬 “ニューオープン” へてから 有馬温泉店