11月号

生活をアートに変えるエスプリ 浦太郎邸
四角い箱が浮き上がるような構造。中2階の玄関を開けて広がる、ホールの原色鮮やかな格子の意匠。ワクワク感と彩りに満ちたデザインに、一人の巨匠の名が思い浮かぶ…「ル・コルビュジエ」。
ピロティはサヴォア邸、色彩は救世軍本部など、コルビュジエの代表作品と重なるこの家。その物語はフランスに端を発していた。この家の主、浦太郎氏は高名な数学者で、若かりし頃留学のため渡仏。そこで出会ったのが、コルビュジエのアトリエで研鑽を積んでいた建築家、吉阪隆正であった。
浦氏はその後神戸大教授に就任し、夙川の地を選んで家を建てることになり吉阪に設計を依頼。昭和31年に竣工した。その証がホールにある「1956」と書かれたプレート。その脇には浦家の家族6人と吉阪の手形が今も残っている。
ホールを介し2つのスクエア型の構造体が結ばれ、玄関から向かって左がLDKと和室、右が寝室や浴室などプライベートスペースになっている。構造体はただのスクエアではなく、2つのスクエアを45度でクロスさせたような凸部が四辺にあるとともに、壁の一部が煉瓦で、その積み方により外壁に煉瓦が飛び出てユニークな造形美をみせている。
LDKは天井が高く、大きな窓から光が差し込み、至る所にある通風窓からも涼風が抜ける。スポットライト風の照明もアヴァンギャルド。和室は黒壁で空間が引き締まり、備え付けの仏壇も面白い。
3つの寝室は各部屋に洗面台があり、面積こそ広くないが空間が合理的で居住性が高そうだ。
ピロティは子どもたちが思い切り遊べる広さ。雨が降ると庇の穴から滝が生まれ、噴水のある舟形の池に水が落ちるとか。
遊び心に創造性を兼ね備えたこの邸は、友情と信頼という基礎の上に建つ、ひとつの芸術だ。
※現在も個人宅として活用されているため非公開。今回、特別に取材させていただいた。

カラーガラス越しに陽光が差し込む。設計者・吉阪は師コルビュジエの遊び心を受け継いでいるかのよう

モダニズム建築の中でも一際異彩を放つ浦邸

吉阪隆正は近代建築の巨匠、ル・コルビュジエのもとで研鑽を積んだ

レンガを縦と横に交互に積み上げた外観

邸内の至るところに光窓を設えた。写真はリビング

屋上部分に雨水がたまり、小さな穴(上部中央)から滝のように水場に流れ込む