2015年
11月号

神戸鉄人伝(こうべくろがねびとでん) 第71回

カテゴリ:文化・芸術・音楽


剪画・文
とみさわかよの

洋画家
鈴木 邦江(すずき くにえ)さん

 
カンヴァスに広がる明るい空と青い海のまち。「生まれ、育ちは函館。住んでいるのは神戸」と言うのは、洋画家の鈴木邦江さん。気さくで面倒見のいいお人柄で、美術家だけでなく音楽家やデザイナーの友人も多数。その鈴木さんが魅かれ、見えない糸に導かれるように描くのはスペイン。3つのまちを描き続ける鈴木さんに、お話をうかがいました。

―絵を描き始めたのは?
 小さい時から絵が大好きで。小学校3年生の時、国画会の蝦子善悦先生に習っていた頃から「絵描きになりたい!」と…。母はもっと自由に絵が描けるようにと、中学から私学へ通わせてくれたんですが、父の反対で美大へは進めず地元で進学しました。デザインの仕事をしながら絵を描こうとベン・シャーンの通信教育を受講し、20歳で上京。蛯子先生も東京に居を構えておられ、先生のお世話で出版社や虫プロで働くことができました。

―早くから、絵描きになることを志しておられたのですね。
 子どもの頃から、先生のアトリエに出入りできたのは幸せでした。先生のお宅にあるものが絵に出てくるのを発見して、絵描きは自分の生活・行動そのものが作品になることを学びました。今も自分の生活は自分で演出しています。ひとりでスペインへスケッチの旅に出掛けるのもそうですよね。年を重ね、ふと気付けば先生と同じことをしていると感じます。

―よく函館と神戸の風景を描かれます。
 生まれたまちと、ずっと暮らしてるまちですから。23歳の時に結婚して、主人の仕事先の神戸へ、初めて来ました。西日本は植生も違っていて、ビワの木やイチジクの木を見るのも初めてで、感動し早速絵にしたことを思い出します。神戸は函館と同じ港町で、異人館もあり「元町」という地名も同じで、寂しいと思ったことが無いです。最近意識し過ぎて、神戸をキレイに描き過ぎているかも、と反省しています。

―神戸で作家活動を始められたわけですが、どのように?
 まだ若かったですが教職の資格を活かし、住んでいたニュータウンで絵画教室を開きました。この頃は子育てしながら制作し、県展にも出品。二紀展で賞をいただいたことで、中西勝先生や西村功先生にもお会いでき、いろいろご指導を賜りました。今も感謝の気持ちでいっぱいです。思えば中西先生もその頃はまだ50歳代で、今の私より若かったんですね。その後兵庫県美術家同盟展にも出品するようになります。この頃には子どもも手が掛からなくなり、イタリア、スペイン、エジプト、中国など海外への出展も多くなっていきました。

―そして何と言っても、スペインをライフワークにされたのは?
 スペインと私は、なんだか不思議な因縁があるみたいなんです。実は中学生くらいまで、「絵描きになりたい」の後になぜか「スペインへ行って絵を描く!」と言っていたんですって。「いい」と思うものがスペイン産だったり、初めて見るスペインの衣装箱を「懐かしい!」と感じたり。初めてゼコビアの地を踏んだ時も、なぜか懐かしかったのを憶えています。強烈なSOL Y SOMBRA(光と影)、暑さまでが私を裏切らなかった。毎年出掛けますが、スペインへ行くと自然体になれます。

―日西協会の理事もなさっていますね。これからはどんな活動を?
 協会の関係でいろいろとスペインに関われて、嬉しい限りです。絵描きとして、絵を通してスペインの案内人になれたら最高ですね。神戸に来てたくさんの方のお世話になり、育てていただきましたから恩返ししなくては!活動するからにはできる限り続けること、出品したら参加もすること、裏方にも協力することを心掛けています。     (2015年8月25日取材)

様々な場を支える仕事にも積極的な鈴木さん。これからはいろいろなジャンルの人々を、つなぐ役割を果たしてくださることでしょう。

とみさわ かよの

神戸のまちとそこに生きる人々を剪画(切り絵)で描き続けている。平成25年度神戸市文化奨励賞、平成25年度半どんの会及川記念芸術文化奨励賞受賞。神戸市出身・在住。日本剪画協会会員・認定講師、神戸芸術文化会議会員、神戸新聞文化センター講師。

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〈2015年11月号〉
神戸の粋な店 伊藤グリル
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特集 ー扉 阪神間モダニズムと住まい
日本の生活を大きく変えたマイルストーン
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山芦屋は「建築博物館」
山芦屋に佇む、村野藤吾の名建築 中山悦治邸
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「日本一の長者村」 財界人たちが邸宅を構えた住吉村
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日本経済を動かした、地域コミュニティ「観音林倶楽部」
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