1月号
神戸移住のススメ
蔦のからまる白い建物、古い外国人向けアパートメント、眺めの良い坂の上の一軒家…。
独自の視点で面白さのある物件情報を紹介する「Real Kobe Estate/神戸R不動産」を運営する小泉さんは、さまざまな土地、住まいに移り住んだ後、神戸に住むこと、神戸で働くことを選択しました。
神戸外から移り住んでもらおう
関西の大学を卒業後、カリフォルニア大学で都市計画の修士号を取得した小泉さんは、帰国後、森ビルに就職、東京や大阪で不動産開発の仕事に従事した。その間、プライベートでは約10年間で25回の引っ越しを重ねたという。「もっとおもしろい場所があるんじゃないか」と、暮らし方に刺激を求めていた。「様々な場をつくる仕事の傍らで、自分が実験台になっていた」、そんな20代を過ごした。
リーマンショック後に退職し、独立を考えた小泉さんは、東京またはシンガポールへの移住を計画したことも。しかし「今はそういう時代ではない」と感じたという。「東日本大震災もあって、人の価値観はここ数年で大きく変わりました。人は経済成長ではなく、幸福感を求める時代になってきたと思います」と、小泉さん。
その頃、現在の奥さんと出会い、奥さんが好きな神戸、自分自身も昔から気になっていた神戸に移住しようと考える。同時に、仕事も神戸でやろうと決意。「外から人が来てくれなければ街は廃れてしまう。さまざまな場所で暮らした経験のある自分が、神戸に移り住んでもらえるような事業を立ち上げたい」―と。
暮らしやすい場所へ
神戸では、「眺めの良い場所に住みたい」と希望し、北野の坂の上にあるマンションに家族とともに移り住んだ。外国人が多く住むマンションで、オーナーや地域のコミュニティの受け入れも寛容で、とても居心地が良かった。「オープンマインドなところは、ロスのマンションを思い出しました」。
小泉さんは神戸の住みやすさの理由のひとつに、気候の良さも挙げる。「神戸は晴天の日が多いといわれますし、山に反射して太陽の光が明るい。気候はお金では買えないものですから、とても大切です」。20代の刺激を求めて住まいを転々とした頃とは真逆の生活。家族と自分が暮らしやすい場所を求めて、神戸に行き着いた。
新しい視点で不動産を紹介する「神戸R不動産」
神戸では次々に新しいマンションが建ち、完売も相次いでいる。しかしその一方で、住み手がいなくなってしまった空き家や、古い空きビルが増えているのも事実。
もともと、古くおもむきのある住まいや、駅から少し遠くても眺めの良い家などが好きな小泉さんは「多少古かったりしても本当に住みたい物件を探している人はきっとたくさんいるはず」と、「Real Kobe Estate/R不動産」という事業を立ち上げた。「東京R不動産」提携のもと、新しい視点で不動産を発見し、紹介していくサイトを運営する。
手がける物件は、小泉さんとスタッフが探す。基準は“グッと胸に迫るシズル感のある物件”。立ち上げた当初は、事務所から歩いて探せる範囲の物権に限って扱っていたが、現在では兵庫県内全域に広がる。
坂の上の印象的な建物、緑に囲まれた一軒家、素朴なマンションなど、見出された物件には『アイビーハウス』『森の隠れ家』『歌敷山ノスタルジー』など、担当者によって魅力的なタイトルがつけられ、さらなる住まいのストーリーが生まれる。
「北野ORGANIC FOOD ARTISAN DISTRICT PROJECT」
最近では、食に携わる人々を北野エリアに集める計画を立てている小泉さん。ここ数年、ブランディングコンサルタントや建築家といった人々が神戸、北野に移住・移転し、ビジネスの拠点としている例が多いことから、特に「食」に関するビジネスを展開する人々を北野に誘致しようという計画だ。店舗展開などを考える食の企業家と、農家、デザイナー、写真家、イラストレーターなどの異業種が交流し、近くに集まることで、何かが生まれ、それが「生活と仕事が一体化した」より豊かな生活につながっていくのではないかと小泉さんは考える。
小泉さんの事務所も北野の一角にある。仕事を通じて知り合った神戸の農家が、新鮮な野菜を週3回ほど届けてくれる。事務所では異業種が集ってパーティーをしたり。生活と仕事が交じり合った空間がある。
小泉寛明 Hiroaki Koizumi
<有限会社Lusie代表取締役>
1973年兵庫県生まれ。関西学院大学経済学部卒。
カリフォルニア大学アーバイン校ソーシャルエコロジー学部都市計画修士号。
1999年森ビル株式会社に入社、六本木ヒルズの立ち上げ業務に従事。
2010年神戸にてLusie Inc.の代表取締役に就任。