2017年
2月号
「神戸阪急ビル東館」は、神戸市が進める三宮再整備で民間プロジェクトの第1号になる。神戸市役所にて

三宮駅ビル建て替えプロジェクト始動! 目に見えてきた神戸の将来像

カテゴリ:神戸, 経済人, 行政関係

対談

神戸市長 久元 喜造 さん
阪急阪神ホールディングス株式会社 代表取締役社長 角 和夫 さん

三宮駅ビル「神戸阪急ビル東館」建て替え工事が始まり、市民にもいよいよ神戸都心の再整備が現実のものとして見えてきた。その概要や神戸の街、そして関西の将来像について久元市長と角社長にお話しいただいた。

〝神戸らしい神戸〟の再生に向けて

―角社長にとっての神戸の街とは。

 私は子どものころから宝塚に住んでいて、よく神戸に来ました。母親に連れられてクリスマスプレゼントを買いに来たり、元町商店街の楽器店でエレキギターを買ってもらったり(笑)。阪神間の人、特に若い人たちが休日に大阪に遊びに行くなど考えられない、みんながおしゃれな街・神戸へ来る時代でした。故石津謙介さんのVAN JACKETや朝ドラで話題のファミリア、輸入雑貨店などが立ち並び、狭い通りに歩けないほどの大勢の人が集まっていました。とてもおしゃれで、いい街だという思い出が鮮烈に残っています。

―久元市長にとっての神戸は。

久元 子どものころを思い出すと、もっと港が近かったと思います。家の近くの会下山から手に取るように港が見下ろせ、貨客船が入港し、ブラジルへの移民船が出航していきました。多くの港で働く人や船員さんが買い物や食事をしたり、時にはバーで飲んでいたり…。路地が発達し、独特な神戸の街の息遣いや雰囲気がありましたね。

―どうしたら取り戻せるのでしょうか。

久元 神戸らしさとは、いろいろな要素が組み合わさってつくり上げられてきたのでしょうね。時代が変わっても、山があり、海には港があり、その間に成熟した街並みが発達し、北野異人館に代表される個性的な佇まいがある。この要素を大切にし、感じることができる街づくりをすることではないでしょうか。もちろんある程度は高層ビルも必要ですが、その中でも山と海と港を感じられるのが神戸らしさの原点だと思います。

―神戸らしさを取り戻すべく、再整備がいよいよ始まりますね。

久元 2015年、「神戸の都心の未来の姿」[将来ビジョン]と三宮周辺地区の「再整備基本構想」を発表しました。神戸の都心を心地よいデザインの街に再生し、豊かな文化を創造して発信すると同時に震災を経験した街としてしなやかで強いインフラをつくっていきます。都心全体ビジョンのうち、三宮周辺においては再整備基本構想でより明確に分かりやすく示しています。公共交通と歩行者を優先し、駅前にクロススクエアをつくります。6つの駅をひとつとしてイメージし、快適に乗り継ぎができるよう整備して賑わいと回遊性のある街にする計画です。

―阪急三宮駅前では工事が始まっていますね。

久元 構想は長期計画ですので、目に見えて大きく街並みが変わってきているわけではありません。そんな中、阪急さんにプロジェクトに着手いただいたことは非常にありがたいですね。今後、三宮の再開発が進んでいくという明るいニュースを、市民はじめ広く内外に発信していただき感謝しているところです。
 神戸は震災という悲惨な経験をし、前任の矢田立郎市長までは、復興に努め、財政再建を優先せざるを得なかったと思います。やっと文化や交通インフラを重視した街のプランを立てていただける時がきて非常に嬉しく思っています。神戸市の方針の中で民間事業者として貢献できることを積極的に進めさせていただきたいと思っています。

賑わいと回遊性のある街づくり

―賑わいと回遊性のある街とは。

久元 震災後、阪急三宮駅と西宮北口駅の乗降客数の差が縮まり、多くの方が神戸ではなく、梅田や西宮北口を選んでおられます。神戸でショッピングをしてグルメを楽しみ、アートシーンを体験する。そんな街を目指して再びたくさんの方に来ていただくことが賑わいの原点です。そこで、三宮から一定の距離の範囲は商業業務機能に極力特化したエリアにして来街者を増やし、その外側は居住機能がバランス良く配置された構造にしていきます。大阪へ通勤する人の利便性を考える必要があり、地下鉄西神山手線のスピードアップもそのひとつの策です。決して都心で高層マンションを完全に排除しようというのではなく、自然な流れに委ねれば三宮における居住ニーズは高まるはずです。

―商業業務機能の核となる神戸阪急ビル東館の計画概要は。

 昨年来解体が進み、今年の夏から新築工事に着工します。駅近接工事ですので時間がかかり工期は4年弱を予定しています。高さ約120メートル、地上29階、地下3階、低層部は商業施設、中層部はオフィス、高層部は宿泊主体型ホテル、最上階には展望フロア、さらに神戸市さんが進めておられる産学交流の拠点の誘致も予定しています。また6階までの低層部は、親しまれていた旧ビルの外観イメージを再現する予定です。

―期待がふくらみますね。

久元 公共的な役割も重視していただいています。例えば、阪急三宮駅から地下鉄西神山手線の三宮駅への乗り換えにも上下のエスカレーターを付け、公共通路も十分に取っていただいています。また、産学交流スペースは医療産業都市の研究者をはじめ企業や大学のいろいろな分野の方々が交流できるような機能を備え、新たなビジネス展開の拠点にもなると確信しています。

―中心になるクロススクエアとは。

久元 人が集い交流できる駅前空間です。第一段階は交通インフラを整備し、通過車両を排除します。幸い、平成28年度に大阪湾岸道路の西伸部新規着工が認められました。三宮駅前を通過せず、大阪湾岸道路を利用して西方面へ向かうことになります。また阪神高速の渋滞も緩和されるでしょう。クロススクエアは時間をかけて段階的に実現していきます。

―いくつものステップがあるのですね。

久元 その次のステップは、ちょっと夢のような話ですが…阪神高速3号神戸線の地下化です。震災後、必要性が言われていたものの早期の復旧が求められ実現はしませんでした。しかし、高速道路が神戸の街を分断していることは間違いなく、ウォーターフロントの活性化や南北の交通網を考える上でも重要な課題です。数十年かかるかもしれませんが、諦めることなく模索をしていくべきだと思っています。
 私の夢を言わせていただくと、阪急神戸線と地下鉄西神山手線が相互直通運転できればと。そうすると、神戸の中心で東西に場所を取っている神戸三宮駅が地下化され、貴重な空間が出現するとともに、安全性やバリアフリー化に苦慮している春日野道駅も地下化により問題が解決しますので(笑)。
久元 春日野道駅の安全性については非常に難しく、かつ解決する必要のある問題です。地下化については、言及は避けておきましょう(笑)。

関西へのインバウンド誘致を担う再整備構想

―観光の拠点としての駅ビルの役目は。

 宿泊主体型ホテル「remm(レム)」を開業予定です。新大阪のレムはほとんど広告活動をしていないにもかかわらず、開業当初から稼働率が高く、いかに交通の要衝に直結したホテルが高く評価されているかということです。三宮のレムの開業で、遠くから神戸、三宮に訪れる方が増えるものと期待しています。

―関西・伊丹・神戸3空港一体運営については。

 神戸空港のコンセッションは3空港一体運営が条件です。これで結果を出せば、神戸空港の1日30便、及び夜の時間規制の緩和も進むと思います。インバウンドの増加や広域観光のことを考えると、地方空港の活用が必要な時代になります。神戸空港も、まず交通インフラを整備し、観光バスが発着できる環境を整えなくてはいけません。渋滞時間の長い都市高速道路の1位が阪神高速3号神戸線下り、2位が阪神高速3号神戸線上り(笑)。せっかく関西国際空港から湾岸線がつながっているのに、六甲アイランドで止まってしまい、その先が超混雑しているのが現状です。関西国際空港から世界遺産・姫路城へ行く観光客の数が約4パーセントにとどまっているのは、バス運行の計画が立たないからなんですね。まず早期に神戸空港まで繋げていただきたいと思います。
久元 先日、クロアチア共和国の大使とお話しした折に、人口428万人の国が千何百万人の観光客を呼んでいるとお聞きしました。日本の人口を考えると、外国人観光客2千万人突破で喜んでいてはいけませんね(笑)。インバウンドという面でも東京一極集中をどうやって打破するかを考える時、関西がもっと積極的に役割を果たしていかなくてはいけません。関空を西日本のハブ空港に据えて、伊丹と神戸はそれぞれの立地特性を生かし役割分担し、明確な経営理念の下、一体化したマネジメントが必要です。神戸空港は神戸経済活性化に役立つことは間違いなく、他の2空港と共に関西全体の経済浮揚にも貢献できると考えています。
 インバウンドが日本全体で1千万人以下だったころ、関西を訪れる人は3人に1人でした。それが2千万人を達成したときには、40パーセントに増え、シェアも上げています。インバウンドの増加に関西が最大の貢献をしているということです。3空港一体運営が関西全体のインバウンドの増加と経済の活性化に繋がることを期待しています。

都市間に必要なのは、競争ではなく協力

―都市間競争の中で、神戸が選ばれる街になるためには。

久元 競争ばかりを強調することは、都市の在り方として一面的過ぎると思います。2015年、神戸の姉妹都市・ブリスベンでアジア・太平洋地域の主な都市の市長が集まりました。その場で人材育成、文化・スポーツ交流、アカデミックな面などで相互の協力を構築していこうと話し合われました。国内でも同じことがいえます。大阪・京都・神戸はそれぞれ歴史の成り立ちが違いますが、相互に協力して関西全体の発展に貢献するという視点が必要です。既に港については、国際コンテナ戦略港湾の指定を受け、阪神港としてオペレーションしています。空港についても今後、連携していく予定です。また、医療産業都市が拠点として指定を受けた「健康〝生き活き〟羅針盤リサーチコンプレックス」協議会会長を角社長に務めていただき、分野を越えて健康についての研究・開発を進めていこうと、医学界、経済界をはじめ関西全体の頭脳が結集しています。健康と長寿がテーマの大阪万博が誘致されれば、神戸の医療産業都市や京都大学などが協力し、関西が一体となって開催できるでしょう。良い意味で競い合い、協力しながら成長していければいいと思っています。
 今までの関西は京都・大阪・神戸がそれぞれに個性のある良い街ゆえにまとまりを欠いていました。しかし、関西広域連合ができて以降、連携が進み、例えば一度の認証で関西全ての自治体の無料Wi‐Fiが使える「KANSAI Free Wi‐Fi」や訪日外国人向けのICカード型乗車券「KANSAI ONE PASS」など、関西全体がひとつにまとまりつつあります。さらに、大阪万博開催が決まれば健康・長寿をテーマにする広域開催、まさに関西万博になると思いますね。

新たな形で輝く街、神戸に向けて

久元 神戸は世界に対してもう一度輝ける都市だと思います。過去の残照の中にブランド価値を見出し、胡坐をかいていてはいけません。新しいブランド価値をどう創造していくかが今問われています。過去と同じやり方ではなく新しい視点から輝ける方法を見出し、市民の皆さんと一緒に誇りと自信をもって立ち向かっていきます。また、空襲と震災という苦境を内外から支援を受けながら乗り越えてきたことへの感謝を忘れず、日本はもちろん、世界の他の地域に対して貢献できる都市であり続けたいと考えています。
 私共が民間事業者として沿線の街づくりに携わる上で、教育・文化・安心という三つのキーワードがあります。神戸の都心再整備についてももちろんそうです。安心については民間だけでは決してできません。お母さんが安心して子育てできる、高齢者の健康寿命が伸びて元気に暮らせる街づくりを行政の皆さんと協力して進めていきたいと思っています。
神戸には常におしゃれで先進的な街であってほしいですね。私共もできる限りの協力をさせていただきます。
久元 今後ともよろしくお願いいたします。

公共交通を利用しやすいクロススクエアをつくる

神戸の玄関口、新たな三宮のシンボルとなる「神戸阪急ビル東館」。
高さ約120メートル、地上29階建、地下3階の計画

クロススクエアを中心に、駅前の回遊性を高め賑わいを創出する

メリケンパークを芝生化し、「スターバックス」を誘致する

「神戸阪急ビル東館」に開業予定の宿泊主体型ホテル
「remm(レム)」(写真は「レム新大阪」の客室)

「レム新大阪」は高い稼働率を誇る

3空港の一体運営が進む神戸空港

アジア・太平洋地域の主な都市の市長が集う

「健康“生き活き”羅針盤リサーチコンプレックス」協議会会長を角社長が務める

「神戸阪急ビル東館」は、神戸市が進める三宮再整備で民間プロジェクトの第1号になる。神戸市役所にて

久元 喜造(ひさもと きぞう)

1954年、神戸市兵庫区生まれ。1976年、東京大学法学部を卒業し、旧自治省入省。札幌市財政局長、総務省自治行政局行政課長、同省大臣官房審議官(地方行政・地方公務員制度、選挙担当)、同省自治行政局選挙部長などを歴任。2008年、同省自治行政局長。2013年11月に第16代神戸市長に就任

角 和夫(すみ かずお)

1949年生まれ。早稲田大学卒業後、1973年阪急電鉄入社。2000年取締役鉄道事業本部長、2003年代表取締役社長。2006年阪神電気鉄道と経営統合し、阪急阪神ホールディングス代表取締役社長(現職)。2014年より、阪急電鉄代表取締役会長(現職)

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