2017年
2月号

連載エッセイ/喫茶店の書斎から ⑨ この静かな変化に耐えよ

カテゴリ:文化・芸術・音楽

今村 欣史
書 ・ 六車明峰

 「高橋ユニオンズ」というプロ野球球団があった。1954年から56年までの3年間だけのチーム。57年の開幕直前に「大映スターズ」に吸収合併され、曲折を経て現在の「千葉ロッテマリーンズ」につながる。
 その高橋ユニオンズに興味を持つ人が、わたしの話を聞きたいと「喫茶・輪」にご来店。どんな関連があるのかと思ったら、わたしが尊敬してやまない足立巻一先生に関してだった。
 いずれ本にされるという高橋ユニオンズのことを調べる過程で、夕刊「新大阪」に出会い、足立巻一先生に行き着いたのだと。そしてその文学を読んで、すっかり心酔したとのこと。詳しいことは省略するが、調べを進めるうち、わたしのブログ「喫茶・輪」に辿りついたというわけだ。
 そのようなことはこれまでにも度々あり、千葉や横浜や滋賀など遠方からの人もあった。今回の川島卓也氏は名古屋からである。
 氏は45歳。足立先生との直接の接触はないという。わたしが話すことや、お見せする資料の一つ一つに興味を示し、時に「うわっ」などと反応される。「図書館などでは得られない、全く知らないことで」と感激される。「直接交流のあった人のお話が聞けるなんて」と感動の面持ちさえ浮かべられる。ほかにもっともっと親しくしておられた人が今もいらっしゃるのに、わたしは面映ゆい気持ちになってしまう。しかし悪い気はしない。色んなお話をして、わたしもいい時間を過ごしたことだった。

 川島氏が帰られてから、わたしもまた足立先生への懐かしい気持ちが蘇り、出していた資料をパラパラと見ていた。その中に、ジュンク堂書店発行の『書標』(1985年10月号)があり、足立先生への追悼号である。表紙絵は高橋孟さんが描かれた先生の肖像画。和服姿のいい笑顔だ。
 足立先生は生前の一九八二年、神戸新聞に書かれた自叙伝の最後をこう結んでおられる。
《死後のことはあとに残った人たちにまかせるより仕方がないが、小さな願いごとが三つある。一つには、戒名は「釈亭川」としてほしい。敬亭がわたしの幼時につけてくれた号である。つぎに、遺稿集・追悼録の類は出さないでほしい。第三には、詩碑を建てるという人は万々あるまいが、万一にもそれだけはやめてほしい。》
 先生の遺言といってもいいものだ。しかし、戒名以外は叶えられなかった。詩碑は播磨中央公園に建てられてしまっている。そして追悼集も何点か出た。『書標』もその中の一冊。
 その中でわたしがこのたび気になったところ。
 森川達也氏が足立先生の詩、「南天」について書かれているその冒頭部分。
《一九八三年八月、理論社から刊行された足立さんの第四詩集『雑歌』―この詩集はのちに、第十七回日本詩人クラブ賞を受けたが、同時に足立さんの最後の詩集ともなってしまった―最後に「南天」と題された詩作品が置かれている。「初出誌一覧」を見ると、この詩は一九八三年一月に「神戸新聞」に発表されのちに補筆されて、この詩集に収められたものであるらしい。どう補筆されたのか、今は確かめようのないわけだが、総数三十七編のうち、とりわけ最後に置かれたこの「南天」の詩が(略)》
 これを今読んで、「あれ、そうなのか」と思った次第。神戸新聞に発表されたものなら、わたしはきっと切り抜きを残しているはず。探すまでもなく、あった。それで読み比べてみた。
 なるほど途中までは同じ。

南天の実がたくさんつくと/よいことがある/と妻がいう。けさ/わたしは七十歳になった。
父は三十四歳で死んだ。/だからわたしは三十四歳で死ぬ/と思いこんでいた。/戦場へ送られるとき/その日が来たと思った。
それなのに/けさ/わたしは七十歳になった。/狭い庭に点々/南天の房々の朱が照る。

 『雑歌』ではこれに次の詩行が加わっている。

ある日、南天の朱の実は突然にすべて消え
五月、母の二十五回忌の朝
花軸の先端に一つずつ
昆虫の目玉に似たうすみどりのつぼみがつき
一つ二つ淡紅の点の花をひらいた。

この静かな変化に耐えよ。

 奥行きが深くなっている。今までこの補筆のこと、恥ずかしながらわたしは知らなかった。
 わたしの所持する『雑歌』には、足立先生の署名があり、言葉が一行添えられている。

この静かな変化に耐えよ

 書いて下さった日が足立先生にお会いした最後の日だった。

■今村欣史(いまむら・きんじ)

一九四三年兵庫県生まれ。兵庫県現代詩協会会員。「半どんの会」会員。詩集「コーヒーカップの耳」(編集工房ノア刊)にて、二〇〇二年度第三十一回ブルーメール賞文学部門受賞。

■六車明峰(むぐるま・めいほう)

一九五五年香川県生まれ。名筆研究会・編集人。「半どんの会」会計。こうべ芸文会員。神戸新聞明石文化教室講師。

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