2017年
2月号
尼崎市医師会が開催する「尼崎市民医療フォーラム」。 第10回となる2016年は、「下流老人」がテーマに採り上げられた

兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第六十九回

カテゴリ:医療関係,

尼崎市民医療フォーラム
「平成のトナリ組(地域包括ケアシステム)は下流老人を救えるか?」について

─尼崎市医師会が開催する尼崎市民医療フォーラムはどのようなものですか。

八田 毎年秋に、アルカイックホールオクトで開催しています。昨年で10回目だったのですけれど、尼崎市医師会として市民のみなさまに医療のことや興味を持たれている話題を採り上げ、フォーラムという形で一緒に考えていこうということで行っています。

─フォーラムはどのようなスタイルで行われますか。

八田 第一部は基調講演、第二部はパネルディスカッションという構成です。第二部のパネルディスカッションにはコラムニストの勝谷誠彦さんに1回目から出ていただき、歯に衣着せぬ発言をいただいています。勝谷さんは尼崎市の開業医の息子さんで、今は弟さんが継がれています。

─フォーラムではどのようなテーマを採り上げていますか。

八田 終末期医療、救急医療など幅広く医療に関するテーマを選び、数年前はTPPも採り上げました。昨年は「平成のトナリ組(地域包括ケアシステム)は下流老人を救えるか?」がテーマでした。一昨年、『下流老人』という本がベストセラーになりましたが、その著者、特定非営利活動法人ほっとプラス代表理事の藤田孝典さんにお越しいただけることになり、「下流老人」という言葉も市民のみなさまにも興味を持っていただけそうなので。一方で高齢者医療に関して、地域包括ケアシステムというものが、いまひとつ市民のみなさまがピンと来ないのではないのかと。地域包括ケアシステムは医療や介護ほか多職種が連携し、行政や地域など一緒になって高齢者の生活を支えていこうというシステムなのですが、それをもっとわかりやすく言うために「平成のトナリ組」という表現にしました。

─どのようなフォーラムでしたか。

八田 第一部で藤田孝典さんにお話いただきました。第二部では藤田さんと勝谷さん、尼崎市医師会から地域医療をよく知る中川純一先生、衆議院議員の中野洋昌氏や尼崎市の担当者、ケアマネージャー協会会長がシンポジストとなり、私と新藤高士先生が司会を務めました。ケアマネージャーからは「下流老人に該当する人でも本人はそれで幸せというケースもある」という話が出ましたし、中川先生から「病気を診るだけでなく人を見ることが大事」という意見があったり、勝谷さんが「国は高齢者医療を地域に丸投げしているのではないか」と鋭く発言されたりと、多角的な視点から語り合うことができたと思います。

─テーマとなった下流老人ですが、その現実はいかがですか。

八田 日本は高齢化が進むとともに、国民の貧困率も上がっています。2010年の統計によれば相対的貧困率は約16%で、OECD加盟の先進国の中で6番目に高い数値です。高齢者の貧困率はさらに高く18%にものぼり、高齢者の5人に1人は貧困であるといわれているんですね。それをみんなでどのようにサポートしていけばよいのかをフォーラムで話し合いました。下流老人の定義は、生活保護基準相当で暮らす貧困高齢者のことで、国内には約700万人の方がそれに該当します。特徴としては収入が少ない、貯蓄がない、頼れる人がいないの3つがあります。核家族化で増えている独居老人など、いろいろなセーフティーネットを失った人が下流老人になってしまいます。

─高齢者医療は地域と密接な関係にありますが、尼崎市ならではの事情もあるのでしょうか。

八田 やはり神戸や隣の西宮と比べても低所得者層が多く、生活保護受給者も周辺の市と比べたら割合が高い地域です。現在は多くの工場が縮小・閉鎖されて人口も減っていますが、かつては阪神工業地帯の中心都市でした。その頃に産業を支えてきた人たちが、いま70代80代になっています。その中には、若い頃の無理がたたって健康を害している人、労働者として地方から出てきて身寄りのない人、一人暮らしの人も多く、まさに下流老人の問題に直面しているといえるでしょう。

─地域包括ケアシステムがより機能するためにはどうするべきなのでしょうか。

八田 現在は過渡期ゆえにエリアによって温度差がありますが、尼崎は地域全体で手助けしなければいけないという風潮を感じます。かつては地域で老人から子どもまでみんなが顔を知っていましたが、今はそういうことが少なくなっています。地域の絆を深めるためにも、好きな場所で人と繋がりを持って助け合うことが大事になってくるでしょう。行政や医療・介護のサイドから「支援」という言葉を使用しがちですが、それは上から目線かもしれません。むしろ「寄り添い」という気持ちで、コミュニケーションを深めていくことが重要なのではないでしょうか。

─下流老人にならないためにはどうすれば良いですか。

八田 医療や介護に費用がかかる老後に十分な貯蓄を確保することが一番なのですが、みんながみんなできる訳ではありません。ですから、例えば医療に関してはある程度以上自己負担が高額になれば保険でカバーする高額療養費制度や、医療機関によっては無料低額診療事業などのサポートがあっても、そういうことを知らない人が多いのですね。このような制度に関する情報を最寄りの福祉事務所やソーシャルワーカーに相談することも大切です。特に一人暮らしの老人は最後の最後まで相談しないケースが多く、それが孤独死につながっていくのです。特にかつてはバリバリ働いていたというプライドがあって人に頼るのが嫌という人が多いのですよ。そのプライドを捨てて、家族や地域社会など人と積極的に関わりを持つことが大事なんです。人に頼って手助けを求めることを「受援力」といいますが、この力を身につけ、積極的に利用することが下流老人にならないためのひとつのノウハウかもしれません。

尼崎市医師会が開催する「尼崎市民医療フォーラム」。
第10回となる2016年は、「下流老人」がテーマに採り上げられた


兵庫県医師会理事
八田クリニック 院長
八田 昌樹 先生

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