8月号
連載 浮世絵ミステリー・パロディ ㉜ 吾輩ハ写楽デアル
中右 瑛
池田満寿夫『されど写楽』のミュージカル
吾輩の伝記芝居が、東京銀座8丁目・博品館劇場で上演(1985年6月6日~29日)されることになった。
NHKテレビで放映された池田満寿夫推理ドキュメント「謎の浮世絵師・写楽」(1984年)で、中村此蔵(歌舞伎役者)説を提唱した池田氏みずからがミュージカル化した話題作である。
題して、ミュージカル『されど写楽』(1985年刊)。
キャスト 現代画家今野写楽 あおい輝彦
歌舞伎役者瀬川菊之丞 ピーター
歌舞伎役者中村此蔵 左とん平
蔦屋重三郎 金子信夫
堅物ディレクター 大出 俊
画家今野の妻 佐藤陽子(特別出演)
音楽 山本直純
美術 朝倉 摂
制作 大原由紀夫
という豪華な顔ぶれ。
キャストで見る限り、中村此蔵役の左とん平は適役である。ちょっぴり小太りの三枚目。この男が写楽であるという池田満寿夫氏の提唱がどのように結びつくのかが、見どころである。
今野写楽のあおい輝彦は写楽探索役。そこがこのドラマのミソでもある。
蔦屋重三郎役には、新劇界の重鎮・金子信夫が扮し、狂言回しの重要な役どころを見せる。芝居には一九や歌麿、北斎、江漢、18歳の鳥居清政も登場する。池田満寿夫氏の美しき奥様・佐藤陽子さんは白夜という謎の女性役。世界的ヴァイオリニストとしての腕前を披露する。
現代から江戸時代へとタイム・トンネルを経て展開する舞台のおもしろさ、なんとも破天荒なミュージカルドラマであった。
「誰が写楽であるかを、現代と寛政とを往復しながら推理していく展開の、パロディ劇を目指している。写楽を知らない人も、わかりやすく、楽しく笑い、少ししんみりする芝居で、一味違ったミュージカル。いや、日本人による日本人を主題にしたミュージカルを作ることが、私たちスタッフの念願である」
と、池田氏はのたまう。
「オペラ風アリアから民謡、ざれ歌、替え歌の類まで、雑多なジャンルの音楽があり、“お江戸風ミュージカル”と名付けた」
と、音楽担当の山本直純氏。
筋書きを詳しく知りたい方は、池田満寿夫作・戯曲『されど写楽』(日本放送出版協会1985年刊)をご参照あれ。
余談だが、写楽芝居のさきがけとなったのは、矢代静一作『写楽考』(1971年10月、旧俳優座劇場にて劇団青年座公演、主演・西田敏行)であった。以来16年目の写楽演劇である。池田満寿夫のミュージカル公演の翌年、兵庫県ピッコロシアターで『写楽伝説・狂い死にて候』(1986年7月、ちゃき克彰作演出・演劇集団風林火山公演)があった。
中右瑛(なかう・えい)
抽象画家。浮世絵・夢二エッセイスト。
1934年生まれ、神戸市在住。
行動美術展において奨励賞、新人賞、会友賞、行動美術賞受賞。浮世絵内山賞、半どん現代美術賞、兵庫県文化賞、神戸市文化賞など受賞。現在、行動美術協会会員、国際浮世絵学会常任理事。著書多数。