2017年
6月号
6月号
街なか養蜂でつくる「世界に一つだけのハチミツ」|神戸の“美味しい”くらし
養蜂インストラクター 春井 勝さん
ミツバチの巣に指を突っ込みすくい取る新鮮なハチミツ。農学部の学生のころ、この味と香りに魅せられた春井さん。買って食べてみたが到底及ばない。「いつか自分の手で…」と夢をもちながら、農業指導員として県内各地で働いた後、退職して養蜂の道に入った。現在、養蜂指導をしながら自身の養蜂場で年間約1トン採蜜する新鮮なハチミツが口コミで広がっている。
ミツバチは農薬や害虫駆除剤などの影響を受けやすく、農地やゴルフ場が多い郊外より、街路樹が多い都市部が意外と養蜂に適しているという。本誌で「ミツバチの話」を連載頂いている垂水区の医師・藤井芳夫先生が運営する高齢者施設屋上もその指導の一環で、7年前から養蜂を始め、ハチミツは入居者にも喜ばれている。
養蜂の課題は「いかに近隣の理解を得るか?」。植物や花についての豊富な知識はもちろんだが、「農業指導員時代から培ってきた、人との信頼関係があるから街の中で養蜂ができている」と話す。10年以上前から、知り合いの農家の好意で敷地の一角に巣箱を置かせてもらっている蜂場を訪ねた。作業着に帽子だけという格好で、しかも素手でハチを扱っている。「私が完全防備で作業すると周囲の人たちに恐怖感を与えてしまいます。また扱いが雑になるので、ハチが苛立ち攻撃的な気性になります」。衣服の中に入ったり、肌にとまったりして人がパニックになるとミツバチもパニックになる。そういう時は、「落ち着いて石か木になれ」。蜂を知り尽くした春井さんの極意だ。
ヨーロッパで蜜蝋を作るために教会の庭で行われた養蜂は長い歴史をもつ。「ミツバチを飼うことが文化として根付いています。日本でも『Honeybees’ Garden』を実現したい」と、養蜂を身近なものにしようと街の真ん中で奮闘している。