2017年
6月号

神戸鉄人伝 第90回 書道家 岡本 正志(おかもと ただし)さん

カテゴリ:絵画

剪画・文
とみさわかよの

書道家
岡本 正志(おかもと ただし)さん

 前衛書道団体・飛雲会理事長の岡本正志さん。兵庫県書作家協会副理事長、毎日書道会展漢字部審査会員として活躍される一方、神戸学院大学大学院薬学研究科長、薬学部の教授でもあります。「現代人は字を書かなくなったと嘆くより、パソコン画面で書を体験してもらえたらと考える。こんな発想をしてしまうのは、私が理系だからでしょうか」とおっしゃる岡本さんに、お話をうかがいました。

―書を始められたのは?

 5歳の時、姉に連れられて書道教室に行ったのが始まりです。基本と作法に厳しい先生でしたが、書くことが楽しくなりやめずに続けました。もともと図工や音楽は得意でしたが、書が自分の性分に合ったのでしょう。次の師となった故・上羅芝山先生が前衛書だったため、飛雲会に腰を落ち着けることになりました。

―習い事から始まり、やがて本格的にその世界に入って行かれたと。

 上羅先生に付いたのが大学1年生の時でしたから、アルバイトも兼ねて教室を手伝っていました。この頃一番勉強しましたねえ。大学では書とは縁遠い薬学を専攻し、修士、博士課程に進みます。29歳で博士研究員として州立テキサス大学オースチン校生物医学研究所に留学した時も、筆・紙・墨を船便で送って書き続けました。書はアメリカ人から見れば異文化ですから、興味を持つ人も多くて思わぬ国際交流ができましたよ。

―書道家と博士、ずっと2つのお仕事を?

 よく「何故そんなに違う仕事を?いつ書いているの?」と言われます。まあ薬学は理系で、動物実験なども伴う無機質な世界です。それだけに没頭してしまうと、感動できない人間になってしまいそうな気がして、しんどくなった時に芸術がいいんですね。両極端の世界を行き来することで、バランスを取っています。

―さて今日の日本では、筆で字を書くどころか鉛筆すら使わなくなっています。

 もう文字は筆記用具で書くものではなく、キーボードで打つものになってきました。誰がやってもプリントされた文字は同じです。でも手書き文字風のフォントはありますよね。いっそ毛筆体のバリエーションを増やし、「書家○○先生の字」「中国古典△△の書」など個性的なフォントがあると面白いかもしれません。実は秘かに「書道入門・体験ソフト」を作れないかと考えているんです。

―発想の大転換ですね。どんなソフトでしょう?

 まず考えられるのが、「へん」と「つくり」を自在に組み合わせて字を作るソフト。漢字の成り立ちや意味を理解するにも有効です。さらには万葉仮名を自由に並べ、字間をつないで書く、にじみやかすれも表現できるなどの機能を持ったソフト。これを使えば、かなの散らし書きを画面上で体験できる。もちろんかなの専門家からはご批判もあるでしょう。でも今の子どもは何をするにもまずパソコンですから、こんなことから書って面白いな、と感じてくれたらと思うんです。伝統を守るだけではなく、時代に適応した教え方もあってよいのではないでしょうか。

―実現したら、後継者育成の先取りですね。これからの活動の抱負などは。

 兵庫県書作家協会には漢字、かな、篆刻、前衛書の書家が所属し、協力しあっています。ジャンルの垣根を越えて認め合う組織なのは先達の功績、会を率いる方々の度量のおかげでしょう。私も微力ながら活動のお手伝いをさせていただき、書道県・兵庫を支えて行きたく思います。
                (2017年4月8日取材)

誰も思いつかないようなアイデアを、まったく気負わずに語る岡本さん。書家と博士という異分野のお仕事も、ご本人の中では違和感なく両立しているようでした。

「書のコンクールの結果は、万人が納得するものではありません」と岡本さん。「芸術は科学のように真実がひとつではないし、陸上競技のようにタイムで競うわけでもありません。でも、だからこそ面白いと言えます」

とみさわ かよの

神戸のまちとそこに生きる人々を剪画(切り絵)で描き続けている。平成25年度神戸市文化奨励賞、平成25年度半どんの会及川記念芸術文化奨励賞受賞。神戸市出身・在住。日本剪画協会会員・認定講師、神戸芸術文化会議会員、神戸新聞文化センター講師。

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〈2017年6月号〉
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