2017年
6月号
6月号
兵庫ゆかりの伝説浮世絵 第四十回
中右 瑛
平家女人哀史 平通盛の妻・小宰相の最期
一の谷合戦で力尽きて討死した平清盛一族は多い。中でも平通盛とその妻の悲劇も涙を禁じえない。
通盛は清盛の弟・教盛の嫡男。三十歳になるやならず、一の谷合戦では華々しい活躍ぶりであったが、哀れにも討死した。
妻の小宰相は屋島に向かう途中、船中でその悲報に接し、夜半、ひとり静かに海の藻屑と消え果てた。
小宰相は宮中一の美女。二人は熱烈な愛で結ばれ、いかに愛し合っていたことか…。通盛が死ぬ前夜、二人は一の谷の仮屋で人目もはばからず睦み合い、見かねた豪勇武士で名高い弟の能登守教経に注意され、彼女を沖の船に帰した、というエピソードが伝わっている。小宰相は恋しき通盛の形見を身ごもっていたのだが、自ら夫のあとを追ったのである。出家した平家の女人は多いが、夫に殉じた女人は数少ない。
けなげな小宰相の武士の妻としての心いきが哀しく伝わってくる。武門に生きる、美しくも哀しい平家女人哀史のひとつである。
中右瑛(なかう・えい)
抽象画家。浮世絵・夢二エッセイスト。1934年生まれ、神戸市在住。行動美術展において奨励賞、新人賞、会友賞、行動美術賞受賞。浮世絵内山賞、半どん現代美術賞、兵庫県文化賞、神戸市文化賞、地域文化功労者文部科学大臣表彰など受賞。現在、行動美術協会会員、国際浮世絵学会常任理事。著書多数。