2017年
7月号

連載エッセイ/喫茶店の書斎から⑭  神さまはおわします

カテゴリ:文化・芸術・音楽

今村 欣史
書 ・ 六車明峰

 先ず、駄作を承知で拙詩一篇。

草原に石を投げる
鳥が飛び立つ
神さまは
たしかにおわします

 大阪の都心に住む孫、滉(こう)11歳を連れ帰ってきた時のことである。
 「喫茶・輪」に隣接するガレージにわたしは車をとめた。滉は先に降りて店の入り口で立ちつくしている。
 「なんで入らない?待っててくれたん?」と尋ねると、
 「ここから小鳥が飛び立った」という。そして、あふれるように咲くプランターのパンジーと空とを交互に指さす。
 雀や鵯ではない、きれいな小鳥だったと。
 そこで先のわたしの詩である。読者の中で気づいた人はあるだろうか、「それ知ってる」と。
 そうなんです。「こんな詩があるよ」と教えてやろうとして、このうろ覚えの詩を滉に口ずさんだのだった。
 だれの詩だったかは思い出せなかったが、わたしは多分杉山平一氏だろうと考えた。そこで『杉山平一全詩集』(編集工房ノア・1997年)を「喫茶・輪」の書棚から取り出して、滉と二人で探した。正確な詩を教えてやろうと思って。
 わたしはページをサーッと斜めに見て、パッパッと繰る。短い詩だから目を走らせるだけで、あるかないか判断がつく。
 ところが滉はそうではない。読もうとする。短い詩だが、読もうとするのでわたしとタイミングが合わない。
 「あ、ちょっと待って」と言う。
 しかしそれは、あるなしの判断ではなく、滉の心に留まった詩があった時のこと。
 杉山氏の短詩は、子どもにも解る易しい言葉で書かれている。だから「ちょっと待って」と前のページに戻ったりする。もちろん、氏の詩は易しいだけではない。易しい言葉の中に深いものが秘められている。しかし、11歳の滉の心にも響くものなのだ。だから「待って」と言って、いくつもの詩を読み返しているのだ。それはわたしにとっても若やいだ気分になる楽しい時間だった。
 11歳の孫と73歳の爺が、頭をぶつけるようにして同じページを繰りながら同じ詩を読む。杉山氏の詩はそのようなものなのである。
 滉の心に響いた詩を二篇ほど紹介しよう。

急行という奴は
私の立つ駅のところだけ
これ見よがしにスピードを上げ
声はりあげて 走り去り

過ぎると おとなしくなって
遠ざかってゆく
                (羨望)

誰がつくった文字なのだろう
草かんむりに雷とかいて
つぼみと読むのは素晴らしい

とき至って野山に
花は爆発するのだ
遠い遠い花火のように
その音はまだ
この世にとどいてこない
                 (蕾)

 そのようにして滉と二人で全詩集をすべて調べたが、「神さまはおわします」という詩は見つからなかった。

 滉が大阪へ帰ってしまった翌日、わたしはやはり気になり、一人で探した。どうしても見つけたかったのである。
 どうやら杉山氏の詩ではなかったらしい。しかし、ハッと気づくところがあり、杉山氏の『現代詩入門』(創元社・1988年)という本を調べてみた。
 すると、あった。竹中郁の詩として紹介されていた。もちろん竹中郁の詩集には収められており、わたしはそれも読んでいたはずである。
 「断片」と題された六篇の小詩群の中の一篇。

    3
草むらのなかへ石を投げこむ
答へのように鳥がとびだす
神はたしかに在します

 詩群の中のこの三行だけをわたしは不確かながら覚えていたのだった。さすがに竹中氏、わたしのうろ覚えのものより、よほど切れ味がいい。

今村欣史(いまむら・きんじ)

一九四三年兵庫県生まれ。兵庫県現代詩協会会員。「半どんの会」会員。詩集「コーヒーカップの耳」(編集工房ノア刊)にて、二〇〇二年度第三十一回ブルーメール賞文学部門受賞。

六車明峰(むぐるま・めいほう)

一九五五年香川県生まれ。名筆研究会・編集人。「半どんの会」会計。こうべ芸文会員。神戸新聞明石文化教室講師。

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