2017年
7月号
「実は尺八には、あまり平穏と言えない歴史もあって」と加納さん。「虚無僧が関所を手形無しで通過できたことから、隠密がこの格好をするようになり、虚無僧は権利を守るため自ら偽物を取り締まったそうです。虚無僧同士が出会うと尺八を鳴らして本物か偽物か判断したとか、笛を吹くのも命懸けの時代もあったようですよ」

神戸鉄人伝 第91回 新都山流神戸幹部会副会長 加納 煌山(かのう こうざん)さん

カテゴリ:絵画

剪画・文
とみさわかよの

新都山流神戸幹部会副会長
加納 煌山(かのう こうざん)さん

 切ったままの竹のような外観からは想像もつかない、豊かな表現力を持つ尺八。筝・三味線との合奏のほか、アンサンブルも結成して発表を重ねる神戸生まれの加納煌山さん。洋楽器とのコラボにも積極的に取り組んでおられ、ブルースやジャズと尺八の相性はいいとか。「いまだに若手と呼ばれていまして」と苦笑する加納さんに、お話をうかがいました。

―そもそも尺八とは、どういう楽器なのでしょう。

 名称は長さの「1尺8寸」に由来し、楽器としてはフルートと同じエアリード属(リードを持たない木管楽器)に分類されます。中国から遣唐使船で日本に上陸したとされ、この時代のものは「雅楽尺八」と言って指孔が6つ。一般的な「普化尺八」は5孔です。5つの孔で12の音階を操作するわけですが、めったりはったりして足りない音を補います。「める」は音を微調整して下げる(緩める)こと、「はる(かる)」は上げる(張り上げる)こと。「めりはり」という言葉はここからきているんですよ。

―中国生まれなのですね。てっきり日本の楽器だと思っていました。

 江戸時代には普化宗の法器(仏教の儀式や修行に用いる道具)で、普化宗の僧を虚無僧と言うため「虚無僧尺八」とも呼ばれました。楽器として一般に広まったのは、明治以降です。ちなみに今、中国では尺八が演奏されている様子がうかがえません。消滅してしまったのか、あるいは奥地のどこかに残っているのでしょうか。

―尺八を始められたのは?

 最初は近所の友人に教わり、26歳で村田輝山に入門しました。もともとピアノは習っていましたし、高校では合唱部でした。興味はあったんですが、5孔で音楽を奏でるのは無理だと思っていました。当時はまだ神戸で尺八を生業とする人はおらず、師匠も他に仕事をお持ちでした。

―尺八のどこに魅力を感じられたのでしょう?

 尺八は笛を吹いてはいますが、その音は「声」なんです。同じ楽器でも吹く人によってまるで音が変わり、その人の声になるんです。その不思議が、何とも魅力ですね。

―今も若手とおっしゃいましたが、ひと頃より邦楽ファンも増えているのでは。

 習う方の中には趣味だから免許は不要という方もいらして、教える立場の者が育っていないのが現状です。邦楽は免許によって「流」を守り、伝統文化を支えてきました。流派に属して流儀を伝えようという者が現れてくれないことには、指導者不在になってしまう。ではいっそ「流」を無くし、ピアノのようにどこの音楽教室でも習えるようにすればよいのかと言えば、そう簡単なものではありませんし…悩ましい限りです。

―最近は教育現場も、邦楽を取り入れる傾向があるようですが。

 確かに、プラスチックの三味線やネオ筝などを揃える学校も出てきました。ただ教えられる先生がいらっしゃらず、普及に結びついていない。せめて5校にひとりくらい邦楽の先生が居ればよいのですが。とりあえず今は、私たち演奏家がボランティアで教えるしかありません。

―これからの取り組みについて教えてください。

 今、三曲協会が力を入れているのが学校へのアウトリーチです。先生方にも好評で、一昨年に3校だった依頼が今年は18校に増え、手応えを感じています。子ども時代に生演奏を聞き実際に吹いた体験が、いつかやってみたいという気持ちにつながるかもしれない。すぐに効果は出ませんが、少しずつ興味を持つ世代を育てていきたいと思います。 (2017年5月6日取材)

 尺八には渋さも感じますが、逆にシンプルな構造がモダンにも感じられます。加納さんたちの尽力で、若い演奏家が増えることを願います。

「実は尺八には、あまり平穏と言えない歴史もあって」と加納さん。「虚無僧が関所を手形無しで通過できたことから、隠密がこの格好をするようになり、虚無僧は権利を守るため自ら偽物を取り締まったそうです。虚無僧同士が出会うと尺八を鳴らして本物か偽物か判断したとか、笛を吹くのも命懸けの時代もあったようですよ」

とみさわ かよの

神戸のまちとそこに生きる人々を剪画(切り絵)で描き続けている。平成25年度神戸市文化奨励賞、平成25年度半どんの会及川記念芸術文化奨励賞受賞。神戸市出身・在住。日本剪画協会会員・認定講師、神戸芸術文化会議会員、神戸新聞文化センター講師。

〈2017年7月号〉
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