12月号
神戸人の遊び心を満たしてきた 洋食とカクテル フードコラムニスト 門上武司さん|食文化発信事業 これからの洋食 2024
神戸人の遊び心を満たしてきた洋食とカクテル
開港を機に根づいた「神戸洋食」は、日本の洋食の起点とも言われています。戦後間もない頃、『みその』が考案した鉄板でステーキを焼くスタイルや、クロッシュ(カバー)の使用、ニンニクチップなど、神戸発祥の洋食スタイルも多々。フランス料理の世界を確立した後、フレンチの技術を活用したビストロが生まれ、その流れを汲んだ洋食が広がっていきました。神戸洋食が様々な要素を取り入れながら日本人の口に合うよう進化を遂げてきたのは、異文化を吸収し、混じりあうことを受け入れる市民がいたから。暮らしに合わせ海外文化を楽しむ能力に長けていたのだと思います。
私が神戸洋食として思い浮かべるのは『欧風料理もん』です。味はもちろん、しつらえも素晴らしい。伝統のビーフカツサンドは、様々な店が真似し、バーフードとして提供するバーも増えたとか。また神戸洋食といえば、「グリル一平」も外せません。新開地本店ほか三宮や元町、西宮にも店があり、地元の人々に愛され、日常的に使われています。
ハレの日だけでなく、日常の延長として楽しめるのはバーにおいても同じこと。バー『YANAGASE』の二代目マスター中泉勉さんには、バーで一杯ひっかけてから食事に出かけ、食後に戻ってきて、バーフードをつまみながらシメの酒を飲むという遊び方を教えてもらいました。神戸のバーでは趣向を凝らしたフードも楽しみの一つ。惜しまれつつ閉店した店で記憶に残るのは『ルル※』です。カナッペとカクテル、白いメスジャケットにボウタイのダンディなマスター長原良明さんが魅力的。旧神戸朝日会館地下の『コウベハイボール※』では氷を入れないハイボールとカレー風味のピクルスを。他にも画家の鴨居玲さんご愛用の「デッサン※」という生と死の狭間的な雰囲気の店もあれば、北野異人館倶楽部最上階の「アティック※」のように活気あふれる店もありました。外国人客の英語が飛び交う中、ピーナッツの殻を床に捨てつつ飲んでいましたね。
神戸では系譜の店を開業したり、オーセンティックな老舗店をオマージュしたりしながら、洋食やバーの文化を進化させています。進化が過ぎると少し戻るという傾向があるものの、それは単純に過去に立ち返ることではなく、今の時代に合う価値観がプラスされ、再構築されています。
「オーセンティック」という言葉は古めかしいのではなく、一巡した真髄であり、それが“今時”だと感じます。廃れないからこそ新しい。神戸で洋食とカクテルの今時の関係を楽しんでほしいです。
※がついたバーは現在閉店
味はもちろん、しつらえも名物! 欧風料理もん
1936年創業、震災後に再建し、戦前からの面影を今に残す。三代目・日笠尚子さん考案の、ヒレ肉のビーフカツサンドは出来立てはもちろん冷めても柔らかく美味。現在は尚子さんの孫の公太さんが伝統の味を守る。門上氏は「店で食べる時はハイボール!」。サンドウイッチは持ち帰り可能、家で好きなお酒と楽しむのもいい。
■電話:078-331-0373
■住所:神戸市中央区北長狭通2-12-12
■営業時間:11:00~20:30(LO)
■定休日:月3回月曜休み※祝日は営業、12/31・1/1は休み
坂の途中にひっそりと佇む一軒家YANAGASE
1966年創業、不動坂の途中にあるオーセンティックバー。二代目の中泉勉さんが勇退後は、愛弟子の村井勇人さんが切り盛り。創業時はコックが常駐し、タンの煮込み等を提供していたそうだが、今はもう少し軽く、しかし手の込んだバーフードを用意。村井さんの熟練技が冴える極上の一杯と共に、今宵も老若男女が酔いしれる。
■電話:078-291-0715
■住所:神戸市中央区山本通1-1-2
■営業時間:17:30~23:30LO
■定休日:不定休、12/31~1/3は休み
フードコラムニスト 門上武司さん
関西の食雑誌『あまから手帖』の編集顧問を務めるかたわら、食関係の執筆、編集業務を中心に、プロデューサーとして活動。(一社)全日本・食学会 副理事長、日本ラ・シェーヌ・デ・ロティスール協会関西支部の会長を務める。また、京都芸術大学 食文化デザインコース(2024年4月開設)には講師としても参加。
https://www.geode.co.jp/