7月号
香雪美術館
村山の邸宅敷地内で公開される古美術コレクション
朝日新聞創業者である村山龍平(1850-1933)は、明治33年(1900)、御影郡家の地に約一万坪の土地を購入し、邸宅を構えた。そこはのちに多くの財界人が移り住み、「日本一の長者村」となる地だが、当時は六甲山麓にある原野のような土地だったという。それまで大阪の高麗橋に住まっていた村山は、その環境の良さに目をつけた。のちに一般的になる「都市部で働いて、郊外で暮らす」という考えをいち早く実践したのである。
朝日新聞を創刊し、上野理一とともに発展に寄与した村山は、一方で、仏教美術、絵画、茶道具など日本・東洋の古美術を収集。当初は、刀剣や武具を好んで集めていた村山が、廃仏棄釈によって仏像など貴重な美術が海外にも流出をはじめたことを憂い、仏教美術の名品を収集。また、伊勢の由緒ある武家出身である村山は古儀茶道「藪内流(やぶのうちりゅう)」を学んでおり、御影の邸宅には茶室を造り、海外の客人をもてなしたり、財界の仲間たちと茶の湯の会を発足させた。そのため茶道具の収集品も多く、名品や珍品が数多いという。美術を愛した村山は、岡倉天心らが明治22年に創刊した美術専門誌『國華』の発行を支援。「美術品を買い集めた財界人は多くいます。価値のある美術品は、あるいは財産にもなります。でも、村山は美術品の収集だけでなく、美術雑誌の発行という無形の文化を支援した。いわば、精神文化の興隆を支援したのです」と、内海紀雄館長は話す。しかも、朝日新聞の経営とは一線を画し、村山は篤志(ポケットマネー)で雑誌の発行を援助した。世界で最初に創刊した美術専門誌といわれたフランスの雑誌は、すでに十数年前に廃刊。村山が亡くなるまで援助を続けた『國華』は、現在も朝日新聞社の支援で発行を続け、いまや世界でもっとも古い美術専門誌となっている。
そんな村山が「後世に遺すべき」と考え収集した美術品を収蔵し、公開しているのが香雪美術館。“香雪(こうせつ)”とは村山の雅号のひとつで、美術館は村山の邸宅のあった敷地の一部にある。敷地内には茶室を含む旧村山家住宅や庭園があり、かつてここが原野であったことを思わせる樹齢数百年の木々も残る。緑に囲まれた美術館内では、村山のコレクションが春と秋に公開されるほか、すぐれた日本美術を紹介する企画展を開催。庭園は一般公開はされていないが、見学会を定期的に開催(ホームページで公募)。秋には茶室や庭園でお茶会が催されている。また、来年2018年春には大阪に分館「中之島香雪美術館」がオープンする。
■香雪美術館
神戸市東灘区御影郡家2-12-1
TEL.078-841-0652
開館 10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日 月曜日(祝日の場合は翌日)
入館料 コレクション展 一般700円〜
企画展 一般800円〜