2024年
12月号

第12回 『大阪ほんま本大賞』受賞、 寺地はるなさんに聞く

カテゴリ:文化人

様々な文学のジャンルを対象にした賞があるが、最も優れた〝大阪ゆかりの物語〟に贈られる個性的でユニークな賞がある。大阪の問屋や書店などで主催する『大阪ほんま本大賞』。第12回2024年の大賞に大阪府在住の小説家、寺地はるなさんの『ほたるいしマジカルランド』(ポプラ社)が選ばれた。「正直、私には縁がない賞だと思っていたので驚きました。でもとても光栄でうれしいです」と寺地さんは素直に喜ぶ。一方で「もっと大阪弁を学び、磨いていかないと」と語った、その理由とは…。

働く者たちへのエール…
大賞受賞は作家デビュー10年でつかんだ褒美

舞台は地元の遊園地

「ディズニーランドやUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)など華やかな大型のテーマパークではなく、少し地味で地元に密着した遊園地が昔から好きなんです」
タイトルにもなっている遊園地『ほたるいしマジカルランド』のモデルは枚方市にある地元市民らに人気の『ひらかたパーク』だ。
「自宅近くにあるひらかたパークはお気に入りの遊園地で、昔からよく通っていました」
そう答えるので「お子さんを連れて?」と問うと「子供が生まれてからはそうですが、一人でもよく通っています」と笑った。
舞台は大阪北部の蛍石市にある『ほたるいしマジカルランド』。入社5年の萩原紗英はインフォメーション担当で、迷子の預かりから、落とし物の受け付けなど様々な遊園地の業務をこなしている。社長の国村市子は〝マジカルおばさん〟と呼ばれる大阪の有名人。経営危機から遊園地を立て直した名物社長だ。
各章ごとに、社長秘書や清掃スタッフなど遊園地の様々な部署で働く人たちが登場。遊園地で起きる日常が綴られる。
「実は大好きな遊園地をテーマにした小説をずっと書きたいと思っていたんです」
書きたい理由は明確だった。
「遊園地で働いている人たちが、みんな仕事に熱心で、何よりも、みんな楽しそうに働いていたから」
何度も『ひらかたパーク』を訪れ、スタッフたちを取材し話を聞いた。
大勢の人々が集う遊園地。そこでは日々、様々な人生模様が展開する。大勢のスタッフで運営する遊園地ならではの群像劇は社会の縮図のようでもある。
「なかなか小説では描かれないような職業や、そこで働くふだんは目立たない人たちを描きたい」
デビュー間もない頃に寺地さんを取材したとき、そう語っていたのが印象的だった。
雑貨店を舞台にしたデビュー作『ビオレタ』(2015年)や、古い宿泊施設を舞台にした『ミナトホテルの裏庭には』(2016年)、老舗のワイナリーが舞台の『月のぶどう』(2017年)など、これまでも独特で個性的な職場をテーマに選び、そこで働く人々を取り上げ丹念に描いてきた。

大阪弁のキャラクター

『ほたるいし―』は、社長の市子の体調不良をにおわす描写から物語が始まる。
《「これは、じきに社長交代かもしれへんね」「そんなん、勝手に言うたらあかん」》
従業員の会話は軽快な大阪弁だ。
「大阪の物語なので会話は大阪弁。だいぶ大阪弁にも慣れてきました」と寺地さんは少し照れくさそうに笑った。
今から15年前、佐賀県唐津市から結婚を機に32歳で大阪へ引っ越してきた。
会社勤めをしながら小説を書き始めたのはその約3年後。そして2014年、『ビオレタ』でポプラ社小説新人賞を受賞。37歳で作家デビューを果たす。
以来、順調に新刊を発表し、「次の作品で27冊目になります」と事も無げに語るが、デビュー以来、ハイペースで執筆してきた。
しかも、子育てをしながら…。
「目の前の作品を書き続けていたら10年が過ぎていたという感じ。忙しさ?とくに実感したことはないですが、先日、ゴミ捨て場でゴミ袋と間違えてカバンを放り投げたことがありましたね」と笑う。
「午前9時から正午までが執筆時間です」と語り、午後からは大学の通信教育で心理学などを学ぶ現役の大学4回生でもある。

作家の覚悟

大阪で暮らし始めて約15年。
今年の『大阪ほんま本大賞』の他、2020年には大阪ゆかりの文化芸術の功労者へ授与される大阪市主催の『咲くやこの花賞』を受賞している。
11月刊行の新刊『雫』(NHK出版)は、大阪のジュエリー・リフォーム会社が舞台だ。
「大阪にこんなジュエリー・リフォームの企業があるんですよ」と教えてくれた。
40代の女性が主人公。章を追うごとに過去へと遡る。つまり物語が進行するなかで登場人物がどんどん若返っていく。
過去に戻るにつれ登場人物の人間関係が明らかになる“謎解き”のような斬新な展開で読者を誘っていく。
「大阪弁にはだいぶ慣れてきましたが、まだ会話などで使い方を間違っていないか添削してもらっています。もっと勉強しないと」
〝大阪の作家〟の覚悟が見えた。
「笑って、泣いて、働いて、そうして今日も生きていく、わたしたちの物語です」
これは、『ほたるいしマジカルランド』に込めた読者へのメッセージ。
小説家、寺地はるなが、なぜ小説を書き続けるのか。その答えがここにある。
(文=戸津井康之)

『ほたるいしマジカルランド』
そこには、なんのためにもならない“豊かなもの”があります。
いま最注目の書き手が贈る、汗と涙と笑顔に溢れたお仕事小説。
1,760円(税込) ポプラ社

『雫』
 「今日が雨でよかった」―時を超え、かたちを変えて巡る、
“つながり” と再生の物語。 
1,870円(税込) NHK出版

作家 寺地 はるなさん

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