8月号
個性が光るホテル経営
長田一郎さん
株式会社 ホロニック 代表取締役
結婚式から始まる循環型のお付き合い
―何故ブライダル業に興味を持ったのですか。
長田 いくつかの仕事を経験した後、私がブライダルの仕事に携わるようになったのは15年ほど前。ホテルや結婚式場中心だったスタイルが、ハウスウェディングといわれる形に変わり始めていました。ちょうどその頃、1995年頃から、バブル期に学生時代を過ごした私たちの世代が結婚適齢期を迎えました。バブル期にやっていたパーティーのようなスタイルで結婚式もやりたい。イベントやお祭り的に楽しくと考えるようになっていました。
―ずっとその思いがあるのですか。
長田 今一番大事にしているのは、結婚式をイベントやお祭りという一過性のものととらえずに、当日をスタートとして関係を築いていきたいということです。セトレは式場ではなく、ホテルというパブリックな業態ですから、結婚式を挙げた方が、また足を運んでくださる。スタッフとの関係が続くことで、将来はホテルやレストランの顧客になります。セトレで結婚式を挙げた方には、ここの感性を気に入っていただいているのですから、何かの機会に続けてまた来ていただけると思っています。
―全てのホテル運営について同じ方針なのですか。
長田 自社ブランド「セトレ」で展開しているホテルについてはできるだけ同じコンセプトでと考えています。既存のホテルの運営を請け負う場合はそれぞれ特徴的なやり方がありますから、必ずしも同じというわけではありません。
―セトレのブライダルの特徴は?
長田 レストラン、宴会場、チャペル、宿泊施設が一通りそろっています。レストランで食事をされた方が結婚式を挙げる、結婚式を挙げた方が泊まりに来る、泊まりに来られた方が食事に来るというふうに循環してご利用いただけます。式場だけならば後々利用する理由がありませんし、大きなホテルだとお客さまとの関係が希薄になります。セトレは小さな規模ですので、食事に来る、担当者に会いに来るなど、気軽にできるのが特徴だと思っています。
地域の皆さんにご利用いただくコミュニティ型ホテル
―2005年「ホテル セトレ」オープン時はどういうホテルにしようと考えていたのですか。
長田 ホテル業は初めてでしたのでノウハウなど何も持っていませんでした。他とは違うことをやらなくてはという漠然とした思いでした。舞子のこの場所がどういう条件なのかを考えてみたところ、景色は良いが特別な観光資源が豊富なわけではありません。外国からのお客さまを取り込むほどの規模はなく、もちろんノウハウもありません。そこでリゾート感覚を持ちながらも、地域の皆さんにご利用いただけるホテルがいいだろうと考えました。地域住民の皆さんに来ていただけるコミュニティ型のホテルということです。
―当初からブライダルを中心にと考えていたのですか。
長田 もちろん、ブライダルを収益の柱にしたいけれど、一過性のものでなく循環的なものにしたい。しかし一方では、セトレのブランドイメージがブライダルのお客さまにしか訴求できないのではだめだという思いもありました。そこで、ブライダルは土・日中心、平日は近隣の一般のお客さまに来ていただけるように棲み分けをしました。地域のお客さまで平日に来ていただけるのは?と考えたとき、少なくとも男性ではない。日常いらっしゃる主婦の方で、しっかりしたライフスタイルを持ち、なおかつ自分の時間を自由に使える方です。ターゲットをしぼり、イタリアンレストランやプール、エステなどをご利用いただき、口コミの力で広がって支持されるようになればいいと考えました。
―従業員が提案するイベントや企画はどういうものがあるのですか。
長田 料理教室やワインセミナーなど、ごく一般的なものです。趣旨としては、参加して上達したり知識を深めたりするというよりは、お客さまと私たち、お客さま同士の触れ合いを求めて参加されている方が多いようです。レストランのシェフがお客さまを数人連れてイタリアへ行き料理教室を開くという企画も大好評でした。こちらから価値を発信するというよりは、お客さまがコミュニティをつくる手助けをするという発想です。姫路の「セトレ ハイランドヴィラ」とも行き来して、お客さま同士の新たなコミュニティも生まれているようです。
―思いを伝えるための社員に対する指導はどのように?
長田 思いや理念を伝える研修やサポートは定期的に行っています。更に外側から見た会社の位置づけを私から話したり、外部の方に話していただいたりしています。
4月には初めて全体研修を行いました。全館休館にしてスタッフが全員泊り込み、議論をしました。おそらくホテル業界の常識では全館休館など考えられないことでしょう。けれど、ホテル業から解放されて、あくまでもコミュニティを創る会社であり、ホテルはその手段だと考えればいいと決断しました。全員が顔を合わせて横のつながりを持って話ができたのは非常に良かったと思っています。
ライフスタイルにかかわりコミュニティを創造する
―㈱ホロニックは1998年設立後、ホテルやレストラン事業を拡大しています。当初から地域社会の活性化に結び付けようという理念を持っていたのですか。
長田 ブライダルやホテルでコミュニティを創るという思いはずっと根底に持っています。拡大しているといっても失敗しているものも多く、試行錯誤の連続でしたが…。
―ホロニック創業のきっかけは?
長田 大学卒業後、証券会社で約3年勤めました。将来はビジネスをやりたいという思いはありましたが、特にホテル業やブライダル業に興味があったわけではないです。ライフスタイルにかかわることはやりたいという気持ちはありました。何故か? 今思い返せば…、〝数字が人格〟のような証券の世界で、同僚がどんどん疲弊していき、生きるためのモチベーションが下がっていくのを見てきました。働きがいや生きがいを失わないことを何かできないのか、それをサポートできることはないのかと漠然と考えていました。
―ホテル業にこだわる必要もないのですね。
長田 そうなんですが、約10年間、いろいろなことを始めて、たくさんの失敗もしました。しっかりした軸がなかったからです。そこで、ホテル業に焦点を合わせて今に至っています。ですから、ホテルはコミュニティ創りの一つの手段に過ぎず、こだわる必要はないと思っています。
―ホロニックの今後は?
長田 心と体を「RESET(リセット)」する。これをひっくり返して「SETRE(セトレ)」。同じ価値観を持った方々のコミュニティを創造し、生活を豊かにするモデルを実現したい。この考え方で、今後も水平展開していきたいと思っています。
長田 一郎(おさだ いちろう)
株式会社 ホロニック 代表取締役
1967年9月5日生まれ。1991年、同志社大学神学部卒業。1991年、大和證券株式会社入社。1994年、株式会社プラン・ドゥ・シー入社。1998年、株式会社ホロニック設立、代表取締役就任。2000年、ウェディングハウス、レストラン等の店舗再生事業開始。2008年、株式会社ホテルシステム二十一代表取締役就任。シティ・リゾート型の付加価値の高いホテルの再生事業を展開させる。現在、「ホテルセトレ」(神戸市)、「セトレ ハイランドヴィラ」(姫路市)の直営ホテルを始め関西エリアを中心にホテル4店舗、レストラン2店舗の運営をおこなっている。