10月号
神戸市医師会公開講座 くらしと健康 51
臨床研修に地域医療プログラムを採用
次世代の地域医療を担う医師を育成
─臨床研修とは何ですか
井上 現在の臨床研修制度は基本理念として「医師が医師としての人格を涵養し、将来専門とする分野にかかわらず医学及び医療の果たすべき社会的役割を認識しつつ一般的な診療において頻繁に関わる負傷及び疾病に適切に対応できるよう、プライマリケアの基本的な診療能力(態度・技能・知識)を身につけることができるものではならない」と医療法に定められています。医学部を卒業し医師国家試験に合格後、2年間の初期研修をおこないます。
この2年間は医師としての基本的な能力を身につける重要な期間で、1年目は内科・救急・地域医療が必修科目となっています。
─平成16年に新医師臨床研修制度がはじまりましたが、その背景について教えてください。
井上 わが国における医師研修制度は、昭和21年に制定されたインターン制度から始まりました。この制度は、医学部を卒業し1年間の研修を終了してはじめて医師国家試験を受験し医師になれるというものでした。
ところが研修期間が短く、研修期間中は身分や経済の保証がなかったため、昭和43年に医師法が改正され、以降は医師資格を得た後2年間の研修をおこなうことが「努力目標」として定められるようになりました。
実際には大学病院などでの研修が一般的におこなわれてきましたが、研修内容は専門医志向に偏り、身分保障の問題も解決しなかったため、平成16年に新医師臨床研修制度がスタートしました。これにより卒業後2年間の研修が義務化され、その期間の身分保障もおこなわれるようになりました。それまでは経済的な理由から医局に属してアルバイトをしていた研修医が多かったのですが、新制度では収入保証など研修に専心できるような環境が整えられました。
─新医師臨床研修制度が医師不足や医療崩壊と関係しているという意見もあるようですが。
井上 マスコミなどではそのような論調も散見されますが、医師不足や医療崩壊は新医師臨床研修制度がはじまる前からの絶対的な医師数の不足による結果起こったことです。
一方で、平成20年に見直しがおこなわれた現在の研修制度の問題点としては、研修医が一定程度の対応ができる知識と技術を身につけることができずに、早くから一専門に偏ってしまう懸念や、研修が都市の大病院に集中してしまうことが挙げられます。地域に密着した医療をおこなう中小病院で研修がおこなわれなければ、真の地域医療を知る機会がなくなり、将来的に地域医療を担う医師が減って、地域医療崩壊がますます加速する恐れがあります。
─そのような状況下、神戸市医師会ではどのような取り組みをされているのでしょうか。
井上 神戸市医師会では次世代の地域医療を担う医師を育成しようという方針に基づいて、1ヶ月間の地域医療プログラムを作成し、平成17年度よりスタートしました。
プログラムには現在神戸市内の120あまりの医療機関が参加し、神戸大学、中央市民病院、西市民病院、西神戸医療センター、社会保険神戸中央病院、川崎病院の6つの医療機関から年間約50名余りの研修医の受け入れをおこなっています。これだけの数の医療機関が参加している例は全国的にも類を見ません。プログラムの内容も在宅医療や緩和ケア、小児救急、介護保険関連の知識など多方面に渡っています。コ・メディカルの役割の大きさや医療機関相互の連携の重要性について現場を通じ学ぶことは、研修医自身の知識や意識の向上に役立つでしょう。このプログラムを通じ地域医療、真の全人的医療を担う医師が将来育ってくるのではないかと期待しています。
井上 謙次郎 先生
神戸市医師会理事
医療法人社団大有会理事長