2011年
10月号

神戸鉄人伝(こうべくろがねびとでん) 第22回

カテゴリ:文化人

剪画・文
とみさわかよの

華道家
吉田 泰巳さん

今年で3回目となる、総合芸術祭・神戸ビエンナーレ。その総合プロデューサーを務める、華道家の吉田泰巳さん。ハーバーランドや元町高架下に、さまざまな企画を展開・推進する吉田さんですが、理想のいけばなについてお聞きすると、「自己主張ばかりの活け方では、見る方が疲れてしまう」と、謙虚な答えが返ってきました。豪快な語り口に周囲への目配りが垣間見える、今は数少ない親分肌のリーダーなのかもしれません。

―通常の器に盛るいけばなから、大空間を使った展示まで、前衛的ないけばなも展開されていますが、いけばなの道に入られたのは?

 両親が華道家で、中学生の時分から免状は持ってたし、二十代の頃は教えることが主で、多い時は二千人から三千人くらい、弟子がいた。神戸ビエンナーレで入口空間やコンテナに花を活けたら、「現代美術みたいですね」と言われたけど、いけばなは周辺環境を考えて総合的に見る芸術で、昔から前衛的な要素を持っていたと言える。襖絵、床の間のお軸、香炉、庭の景色、しし脅し…トータルでその場を味わう、日本文化の最たるもの。だからいけばなは日本学、という自負がある。

―いけばなは、フラワーアレンジメント・フラワーデコレーションと呼ばれる、西洋の花飾りとは違うわけですね。東洋圏に、いけばなはあるのでしょうか。

 いけばなと仏教は関係あるか?と問うたら、たいていの人はある、と言う。しかし仏教国のタイやインドには、供花はあるがいけばなは無い。いけばなは、日本独自の文化。同じ花を飾る行為でも、フラワーデコレーションはインテリアとしての「飾り」で、日本の「雛飾り」「床飾り」と違う。でもこれを、「心がある・無い」という言い方で、区別するのは間違っている。モナコで仕事した時、フラワーデコレーションもなかなかだと思ったもんだよ。いけばなとフラワーデコレーションがどう違うか…追求するのが、ライフワークかな。

―ビエンナーレを開催するにあたって、神戸を一番日本らしいまち、とおっしゃっていますが…。

 ヨーロッパのまちは、中世の建物がそのまま維持・保存されている。京都・奈良も、古いまちなみを守っていて、一見日本らしい。しかし日本文化は、古いものをそのまま残してきたわけではない。伊勢神宮では式年遷宮といって、二十年ごとに建て替えを行う。このくらいの間隔だと、前回に施工した職人から、次の職人が技術を受け継げる。建物を新しくすることで、伝統を引き継いできたわけだ。そして建物を新しくすることで、新たな「気」が充実する。こういう考え方は、日本だけのものだ。神戸は水害・戦災・震災で壊滅的被害を受けたが、そのたび再生してきた。新しい活力に満ちた、日本の精神を具現したまちだと思う。

―神戸は、まちなみは新しいけど、古くからの日本の精神がある、と。面白い神戸観ですね。

 日本民族は、もともと多民族の交わりから成立したから、文化も多種多様なものが交わりあっている。だから特定の主義主張に拠らず、お互いの価値観を認め合うという、日本人特有の気質が生まれた。日本人がファジーなのは、とても良いことなんだ。神戸はまさに交わりのまちで、港を交流拠点に、新しいものを取り入れて発展してきた。そういう意味でも、神戸は最も日本らしいと言える。そして、異質なものが混ざると、新しいことが興る。神戸ビエンナーレを興したのも、日本のすばらしさを自覚して、神戸から日本の未来を創りたいと思ったからなんだ。

―日頃あまり意識しませんが、日本らしさ、日本人の精神といったものは、どんなところにあるのでしょう。

 昔は、来客がある時はまずトイレをきれいにしなさい、畳の部屋は目に沿って四角く掃きなさい、と教わった。お客は部屋の真ん中に座るし、トイレを使うとは限らない。これは、「人に誉められるためではなく、目立たぬところで精一杯努力しなさい」という意味で、日本人なら当たり前のことだった。いけばなでは、床の間が暗くてよく見えなくても、きちんと花を活ける。そうやって、日本の伝統、日本人の精神を伝えているわけだ。この精神は、ものづくりの世界にも通じる。目に見えないところまで、精魂込めて作り上げるものづくりは、日本の伝統だよ。

―アートの作り手たちに、おっしゃりたいことはありますか。

 アーティストを見ていると、自己主張ばっかりで、勘違いしてる者が多い。たとえば商売するなら、売り物が買う人の役に立っているかどうか、考えながら売る。芸の世界も同じで、金を取って見せるなら、いかに楽しんでもらうかまで考えるべきだと思う。自分の作品を見せたい、評価して欲しいと思うだけなら、逆に観客に金を払わないといけないんじゃないか。一番偉いのは観客なんだから、お客さんに喜んでもらうようでないと。

―ご自身は、華道家として、夢かなえた人生と言えますか?

 いや、夢というより、父親が早くに亡くなって、食べていくためにやってきただけで…。まあ、華道家としては、「さあ、花を見ろ」じゃない花を活けたいと願っている。「いつもの部屋が、今日は何かいい感じやなぁ…あ、お花が活けてあるわ」というような具合に活けて生きる、それが夢かねえ。
(2011年9月6日取材)

花材/ユーカリ、アイリス
花器/永楽即全「青交趾竹形花入」
嵯峨御流 吉田泰巳花材/ユーカリ、アイリス
花器/永楽即全「青交趾竹形花入」
嵯峨御流 吉田泰巳


花材/サンダーソニア、オクロレウカ
花器/古楽写 八掛花入 楽 旦入

とみさわ かよの

神戸市出身・在住。剪画作家。石田良介日本剪画協会会長に師事。
神戸のまちとそこに生きる人々を剪画(切り絵)で描き続けている。
日本剪画協会会員・認定講師。神戸芸術文化会議会員

〈2011年10月号〉
フロントアート
特集 ー扉 秋 魅力のコンテンツ
interview 私の神戸再発見
interview 神戸ブランドで共生を
interview 新しい銀行体験を提供
連載第二回 神戸発ときめきクルーズ
絵のある風景
桂 吉弥の今も青春 【其の十八】
扉 発信!デザイン都市 集うよろこび
2011 関西合同三田会 in KOBE
~会長からのメッセージ~ 神戸の経験を東北の未来へ
食品コンビナートにインフラ提供
病気を治す名医だけでなく、病気にさせない名医になりたい
コンサルティング・サービスならおまかせ
[対談]学びと教え 実学のよろこび
同窓の絆を改めて実感!流通科学大学 第6回ホームカミングデー
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神戸旧居留地ものがたり NYのモダンをお届けします Vol.2
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世界のスパリゾート「有馬温泉」に向けて
集合!有馬を支える花板さん 有馬グランドホテル
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集合!有馬を支える花板さん 奥の坊
集合!有馬を支える花板さん 角の坊
集合!有馬を支える花板さん 月光園 游月山荘・鴻朧館
集合!有馬を支える花板さん 陶泉御所坊
集合!有馬を支える花板さん 竹取亭円山
集合!有馬を支える花板さん 銀水荘 兆楽
集合!有馬を支える花板さん ねぎや陵楓閣
集合!有馬を支える花板さん 兵衛向陽閣
集合!有馬を支える花板さん 御幸荘花結び
有馬歳時記 日本温泉科学会 有馬温泉大会が開催
有馬みやげ 新旧
みんなの医療社会学 第十回
神戸市医師会公開講座 くらしと健康 51
月刊KOBECCOセレクト KOBEの本棚
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連載 浮世絵ミステリー・パロディ ㉞ 吾輩ハ写楽デアル
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触媒のうた 8