2011年
10月号

[海船港(ウミ フネ ミナト)] ライン河クルーズ① ロッテルダム港&神戸港

カテゴリ:文化人, 観光

文・写真 上川庄二郎

【父なる河・ライン河&母なる海・瀬戸内海】

今回、ライン河クルーズを取り上げたのは、まずはライン河と瀬戸内海を比較してみたかったこと、これに加えロッテルダム港がヨーロッパ大陸の、そして神戸港がアジア大陸のハブ港として栄えた両港についても考えてみたかったからである。
ライン河は、スイス・アルプスの氷河を源流に、ヨーロッパ諸国を経、オランダで北海に注いでいる。ロッテルダム港は、この河を機軸にしてヨーロッパ全土はもとより遠くはドナウ河を経て黒海に通じ、ロシアまで及ぶ水運の扇の要(ハブ)の位置にある。まさにライン河は、父なる河。したがって、今日に至るもヨーロッパにおけるハブ港としての地位に揺るぎはない。
一方、神戸港は、瀬戸内海を機軸に水運を発展させてきた。加えて、瀬戸内海は、水運だけではなく、大陸からの文化の伝達路であったし、片や、豊富な海の幸を供給してくれる〝豊穣の海〟でもある。まさに母なる海。そしてその先に日本海、東シナ海を通じてアジア大陸に通じていた(アジアのハブ)。しかし、そのヒンターランドだったアジア諸国の目覚しい経済発展とこれに伴う港湾整備が急速に進み、神戸港からハブ機能を奪っていった。これが今日の両港の明暗を分ける大きなポイントになっている。

【世界の三大港は今】

世界の三大港といえば、つい30年ほど前の1978年までは、アメリカ大陸ではニューヨーク・ニュージャージ(178万TEU)、ヨーロッパではロッテルダム(159万TEU)、アジアでは、神戸(146万TEU)だった。それが、この年を境にロッテルダムを除いて他の二港は凋落の一途をたどってゆく。
その頃から俄然頭角を現してくるのが香港、シンガポールといったアジアの港である。アジアが世界の工場として大きく成長し始めたからに他ならない。ここは、研究論文ではないので細かい数値の分析はしないが、震災前年(1994年)で香港(1,105万TEU)が1位、2位シンガポール(1,040万TEU)、3位高雄(490万TEU)、ロッテルダムが4位(454万TEU)、神戸が6位(292万TEU)、横浜10位、ニューヨーク・ニュージャージ13位、東京16位とその地位に変化の兆しがはっきりしてくる。しかもこの頃を境に世界の経済成長を反映して、上位港の貨物の絶対量が飛躍的に伸びてゆく。  
2010年には、1位が上海(2,907万TEU)、次いで2位から9位までを、2000年頃までは無名に近かったアジア(特に中国)、アラブの港がぐんぐん力を増し上位を独占するようになってきた。中国は、低迷する日本経済を尻目に、今や世界の工場から世界の市場へと変貌しつつあり、輸出のみならず輸入も伸びている。 
それでもロッテルダムは10位(1,115万TEU)と健闘しており、さすがにヨーロッパにおけるハブ港としての地位に揺るぎはない。次いで11位に、かつて神戸市が港造りを支援した天津港(870万TEU、神戸港の約4倍)が伸している。
反面、日本の港をみると、東京27位、神戸は圏外といった有様。この30年余りの間に香港やシンガポールは、15〜20倍近い伸びを示している(後進港の上海は、1994年時点では、はるか下位につけていたのが、1998年に突如として10位(306万TEU)に割り込み、2010年には、ついに1位(2,500万TEU)に躍進して2009年まで1位だったシンガポールを追い越した)のに対し、神戸、横浜、東京港は2〜6倍と伸び率が低い。今や、日本の五大港を合わせてもシンガポールの半分、お隣の釜山港並み。日本の港の総貨物量でもシンガポールには及ばないというさびしい状態である。

【「スーパー中枢港湾」から「国際コンテナ戦略港湾」へは、起死回生策となるか?】

政府は、2004年に東京湾、伊勢湾、大阪湾をスーパー指定港湾に指定し日本の港の劣勢を取り戻そうと国際競争力強化策に打って出た。その「スーパー中枢港湾の達成目標の検証も十分されないまま(神戸新聞2010.8.7)」に、今度はまた新たに京浜港、阪神港を国際コンテナ戦略港に指定し、国際ハブ港湾として再起を目指す。京浜港、阪神港を管理する自治体もこれに同調して頑張ろうとしている。焦りにも似たぶざまな取組みである。
自らが犯した非が、世界に、アジアに遅れを取ったことへの焦りでもあろうが、これら日本の基幹港湾が世界の競争に立ち遅れ、次々と欧米向けの基幹航路を失ってしまった(釜山港は95年の週27便から08年には45便に増え、一方神戸港は週42便から17便に減少=日本経済新聞2010.8.7)今、その失地回復は限りなく不可能に近い。しかも、「大型コンテナ船受け入れのための大水深バースを整備するために1112億円の投資が必要(神戸新聞2010.8.8)」なこともたいへんな負担である。このようにして港は出来ても、予想通り船が入ってくるとは到底思えない。投資が将来の負債になることはだけは明らかだ。
それは、グローバル化の進む今、日本の生産工場が次々と海外に移転して産業の空洞化が進み、輸出貨物が著しく減少しているからに他ならない。加えて、国際競争力を高めるための効率的な港湾経営、利用コストの低減など抱える課題も多い。
日本の港が、神戸港が往年の繁栄を取り戻すことは極めて困難であることは明白である。

【海運各社や地方港湾管理者とは同床異夢】

それというのも、政府は、高度成長期に基幹港湾の整備をするよりも、日本中からの「俺がまちに港を!」の声に属議員の後押しも加わって全国に総花的に60箇所余りのコンテナ港を造ってしまったことに原因がある。気が付いてみれば、これらの港がほとんどといっていいほど釜山に向いて貨物を送り込んでいる。まるで、釜山港のハブ港化を助長するために造った感すらある。地方港(新潟、金沢、舞鶴、下関、果ては瀬戸内海の港まで)も実際の利便性からして顔は釜山に向いていて、神戸や横浜には向いていない。それでも、何とあっても神戸港に貨物を取り戻そうといくら頑張っても所詮無理な話。海運各社も「国際コンテナ戦略港湾として重点整備する政策に懐疑的な見方も多い(日本経済新聞2010.8.7)」という。神戸、横浜に余力の残っている(基幹航路が減少しない)うちに手を打っておかねばならなかったのである。
このことは、地方空港を優先整備した空港政策にも当てはまるし、公共交通を見殺しにするような高速道路整備計画やマイカー優先のまちづくりを進めてきたのも同じである。こういった、陸海空すべての交通政策を誤った方向に導いたところに日本の今日がある。その失地回復のために、傷口に上薬を塗るといった対処療法で糊塗しようとしてもその傷口は大きくなるばかりである。

【神戸港の活き方に別の方途を考えよう!】

こう考えると、貴重な産業遺産である神戸港の活きる道を別の方向に求めることも必要なのではないだろうか。ニューヨーク港やボルチモア港の再開発、サンフランシスコやシアトルのアラスカ・クルーズをはじめとする観光港化、南太平洋クルーズのマザーポートとして賑わっているシドニー、北欧クルーズのメッカともいえるノルウェーのベルゲンなど参考例はいくらでもある。
神戸でも、デザイン都市を標榜して中突堤を中心にしたウオーターフロントと背後のダウンタウンを含めたエリアをリーディング・エリアとして取り組み始めたわけだから、もう少し早く本気になって手を付けて欲しいものである。

【ライン河と瀬戸内海を比べると】

ライン河やその支川沿いには、古くからの大小さまざまでユニークなまちが発達し、広大なブドウ畑が拡がり、古城や教会など文化遺産が数多く点在するなど、観光資源にも事欠かない。今日、EU諸国は、この河を単なる物流ルートとしてだけでなく、観光ルートとしても積極的に活用しようとしている。それが証拠に、どの河にもリバー・クルーズ船がひしめくように行き交っている。
日本の旅行会社までが、このライン河水系に、リバー・クルーズ船を自ら所有して参入し、日本から多くの観光客を連れ込んでいる。
それに引き換え、瀬戸内海はどうか。残念ながら、一港内を遊覧運航しているような船以外、ライン河水系のように瀬戸内海を何日も掛けて常時運航し各地に寄港するクルーズ船は現在のところ見当たらないし、マザーポートもない。
どうしてなのだろうか。それほど瀬戸内海は魅力がないのだろうか。観光資源としての価値がないのだろうか。否である。瀬戸内海沿岸諸都市と世界の玄関港・神戸港の連携が互いに取れていないところに大きな問題があると筆者は見ている。
歴史を遡れば、遣唐使の道であり、源氏、平家が存亡を賭けて戦った古戦場であり、江戸時代の参勤交代や朝鮮通信使、北前船など交易の水路であり、幕末・明治にかけては、坂本龍馬をはじめ日本新政府誕生の歴史を育んだこの瀬戸内海を語らずには済まされない。一方、シーボルトやリヒト・ホーフェンなど多くの外国人にも絶賛された内海だった。
ライン河にも幾多の歴史的な史跡が残されていることは瀬戸内海と共通するところも多々あるものの、瀬戸内海の自然環境や生活・文化の多様性は、私の目から見れば断然瀬戸内海である。残念なことは、これが海外どころか国内にさえ十分アピールできていないのが現状である。
次回からはライン河で体験したリバー・クルーズを瀬戸内海と比較しながら見てゆきたいと思う。

ロッテルダム港元気の秘密=ライン河を機軸に、ヨーロッパ全土を縦横に水運路を巡らす


ライン河を航くプッシャーバージ型のコンテナ船


中突堤を中心としたデザイン都市神戸のリーディング・エリアを
俯瞰した写真(神戸市提供)


日本の旅行業者が所有し参入しているリバー・クルーズ船

かみかわ しょうじろう

1935年生まれ。
神戸大学卒。神戸市に入り、消防局長を最後に定年退職。その後、関西学院大学、大阪産業大学非常勤講師を経て、現在、フリーライター。

〈2011年10月号〉
フロントアート
特集 ー扉 秋 魅力のコンテンツ
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interview 神戸ブランドで共生を
interview 新しい銀行体験を提供
連載第二回 神戸発ときめきクルーズ
絵のある風景
桂 吉弥の今も青春 【其の十八】
扉 発信!デザイン都市 集うよろこび
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