8月号
戦争するのは、人間だけ
現代美術作家 榎忠
2011年、兵庫県立美術館で展覧会をしたのですけれど、その共催の朝日新聞の記事を見た高野山の添田隆昭宗務総長が見に来てくれたことがきっかけで今回出品することになりました。作品を見て密教の世界や曼荼羅を感じたのではないでしょうか。一度僕に会いたいと思っていたそうで、今まで現代美術の展覧会をやったことがないので、開創1200年の記念にと。でも、国宝級の建物などがある会場ですので、困難を乗り越えての開催ですよね。添田総長も燃えるものがあるのでしょう。
僕は子どもの頃、お大師様の話をよく聞いていた訳ですよ、祖父母から。お大師様は僕の故郷、善通寺(現在は市)の出身ですから。祖父母から道徳というのか、生きることに関しての教訓というか、悪いことをしたら地獄に落ちるとかばちが当たるとか、そういうのを聞いて自分の根幹を形成して今に至っているんですね。自分でも不思議だけど、お金にもならないのに美術を続けているのは、その根幹を信じているところがあるのだろうと。今回の展覧会は運命的なものがあるのではと思うのです。
今回のテーマは「いのちの交響」です。戦争を起こすのは人間しかいません。人間は欲や煩悩の塊で、それは人間の宿命なのかもしれません。そんな人間どうしがやっている世界ですから、得する人、損する人、傷つける人、傷つけられる人、いろいろなんですね。そんな中から美術も音楽も、宗教も、何とかしようと思って生まれてきていると思うんです。でも地球上に戦争はいまだなくなっていません。世の中も人間も、原始の世界からあまり変わっていないのですよ。それはなぜなのか?答えはないかもしれませんが、美術を通じて問いかけたいと思います。
展覧会では「RPM-1200」という作品を、奥殿の畳を上げて台座を組み、総重量5~6トンの規模で展示しようと思っています。搬入が大変なんですよ(笑)。部品を運び込んで、5日くらいかけて積み上げ並べる予定です。
また、床の間に薬莢を展示しようと思います。薬莢は太平洋戦争時代のものです。機関銃や戦闘機、艦砲射撃のものなど、大きさはさまざまです。大きな薬莢を兵隊が戦地で物入れやたばこ入れに加工したものもあるんですよ。故郷の山とか富士山が手彫りで描かれています。
弾頭には射撃の時の角度や距離なども刻まれています。段々の形になっているのは当たった時に炸裂して、殺傷能力や破壊力を高めるためです。真鍮製です。これらを1分間に何千発も撃つんです。
僕らは子ども時分、こういう薬莢を拾って小遣い稼ぎしたんです。善通寺師団の訓練所があって、練習の後に取りに行って遊んでいたんです。みんな貧乏でしたし、小遣いなどなかったので、集めて売りに行くんです。そのお金で絵を描く道具とかマンガの本とかを買ったりして。その頃から大砲とか作っていたんですよ。いつかアメリカに復讐するつもりで。でも竹で作るから割れるんですよ。だから大人になったら鉄で割れない大砲を作りたいというのが夢だったんです(笑)。
また、巨大な廃材の部材を用いた作品も展示する予定です。鋼板をプレスして曲げ、最後に溶接して作るのですが、その溶接の起点に取り付けられるエンドタブという部分を加工して作品にしています。
どのように見てほしいというのはありません。好きなように見て、自由に感じてもらえれば。人によって感じ方は違うので。
榎 忠(えのき ちゅう)
1944年香川県生まれ。1970年「グループZERO」を結成。神戸の街を都市劇場に見立て、集団で繰り広げる数々のハプニングを先導。1977年、「ハンガリー国へハンガリで行く」を決行。鉄の廃材や金属部品から生み出される機械彫刻やオブジェ群では、大砲や銃等、身の回りに潜む危機や不穏因子に着目。近年の金属部品を丹念に磨き積み上げたインスタレーションは、榎の思いとエネルギーが込められた充実作として評価が高い。2008年札幌宮の森美術館、2011年兵庫県立美術館にて個展を開催。2015年「Chu Enoki:Enoki Chu」white rainbowでは大砲作品でロンドン子の度肝を抜く。第32回井植文化賞、2009年度神戸市文化賞、2013年紺綬褒章受賞。