2015年
8月号
8月号
高野山開創1200年特別企画展 「いのちの交響 ~空海の地で会う日・韓現代美術~」開催にあたり
「エノチュウ」との邂逅
添田 隆昭
高野山真言宗 宗務総長
数年前、朝日新聞紙上で不思議な写真を見た。未来都市の様でもあり、遺棄された現在都市の様でもあった。「私を観に来なさい」と写真は訴えかけていた。その訴求力に負けて兵庫県立美術館に足を運んだ。これが榎忠氏との出会いである。
武器庫の静謐を思わせる整然たる銃器の列、実弾の発射された先はどうなったかと心配になりそうな、膨大な量の薬莢群、どの様にして運び込まれたのか不思議な巨大な鉄の輪等の展示が、最後に写真の当体へと導く。それは、写真からは想像できない圧倒的質感、量感をもって、微光の下に佇んでいた。
この度、NP0法人芸術環境計画の代表宮嶋一男氏より、高野山開創千二百年を記念して日韓の現代アートの作品展を高野山で開催してはとの提案を頂戴した。「日本の」と言う限定無しに語りうる唯一の日本人(司馬遼太郎)であり、絵画、彫刻、書道等に新しい可能性を切り開いた弘法大師のお膝元であり、最先端の芸術を受け入れ続けてきた高野山に於いてこそ、日韓関係が悪化している今日、国境を越えた芸術交流が必要ではとの提案である。参加して下さる日本側の作家の一人が榎忠氏であるという。
「とうとう、エノチュウに辿り着いたぞ」氏の名前が出た時の第一印象である。金剛峯寺の貴賓室である奥殿という空間が、どのように氏のインスピレ―ションを刺激し、鳥のさえずりや渉る風がどの様に鉄達を慰めるのか、期待は尽きない。
添田 隆昭
高野山真言宗 宗務総長