11月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第五十五回
介護保険制度の現状について
─介護保険の現状について教えてください。
水谷 介護保険は医療、雇用、労災、公的年金に次ぐ第5番目の社会保険制度として、今から15年前の平成12年に導入された比較的新しい制度です。40歳以上の全国民の加入が義務付けられており、保険者は市町村、被保険者は原則65歳以上の高齢者になります。現在500万人以上の方がサービスを受けており、その総費用は10兆円になろうとしています。
─介護保険はどのような背景で導入されたのでしょうか。
水谷 高齢者介護については、それまでは老人福祉と老人医療の縦割り行政で、すみわけができておらず利用者に分かりにくい制度でした。そこで、高齢者の増加に伴う医療、福祉の負担を広く国民全体で分かち合うという理念のもとに、自立支援を促す制度として、またそれまでの行政主体の画一的なサービスから民間業者、NPOなどの参入により多様なサービスが受けられるようにすることを目的に創設されました。
─介護保険の財政面はどうなっていますか。
水谷 総費用の半分を国と都道府県がそれぞれ半分ずつ負担します。残りの半分を保険料から賄うわけですが、65歳以上の1号被保険者と40歳から64歳までの2号被保険者の人口比率によって保険料が決まります。現在1号、2号被保険者ともに月5千円程度の負担となっています。また利用料も原則1割ですが、今後高所得者は2割になる予定です。
─介護保険にはどのような課題がありますか。
水谷 介護保険ができてから15年が経過し、それまでの措置、救貧制度から自立支援を促す制度に変わり、制度自体は確立して多くの国民がその恩恵を受けられるようになりました。しかしながら多くの問題点もあるのが現実です(表)。まず、介護職員不足や施設不足が挙げられます。介護する人の疲弊も大きく、老老介護や虐待などの問題も起きています。これらは今もなおサービスの質、量が高齢者の増加に追い付いていない現状を示していると言えるでしょう。また、要支援者の訪問介護や適所介護は、家事代行や預かり機能にしかなっていないとの指摘もあり、自立支援を促すサービスへ変えていく必要があります。
─サービスを提供する側には、どのような課題がありますか。
水谷 サービス提供者が民間の営利業者であるために、サービスの過剰提供や高齢者を囲いこんでしまって選択の自由をさせないことなどが起こっています。まじめにサービスを提供して、介護者が良くなれば介護度が下がって報酬が下がるという矛盾を抱えている制度でもありますので、努力に報いる評価をする制度に変える必要があるでしょう。また、介護保険においては各患者さんにケアマネージャーとよばれる介護支援専門員が一人選任されケアプランを作りますが、その問題点も指摘されています。ケアマネージャーは各業種とのコーディネートを担う最も重要なキーパーソンで、かつては看護師、保健師から転職してケアマネージャーになる人が多かったのですが、最近は介護福祉士出身のケアマネージャーが多くなってきています。そのため医療知識に乏しく、医療と介護の連携がうまくできなくなっているケースが増えているようなので、再教育や更新制度の検討が必要と思われます。
─介護保険は今後どうなっていくのでしょうか。
水谷 国は医療費の伸びを抑えるために、今後は特別養護老人ホーム(特養)や介護老人保健施設(老健)などの建設は抑制する方向で、施設介護から在宅介護へという流れは変えられません。その受け皿としてサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などを増やしていますが入居料が高く、低所得者の住宅対策も今後必要になってきます。高齢者が住み慣れた地域で最後まで安心して暮せるように、また介護する人の負担を減らすために、医療、介護、住まい、生活支援、介護予防を地域全体で包括的に支援する体制(地域包括ケアシステム)を早急に整備する必要があるのではないでしょうか。
水谷 肇 先生
兵庫県医師会医政研究委員
水谷クリニック 院長