2026年
6月号
ポスター(デザイン 横尾忠則)

神戸で始まって 神戸で終る 72 『連画の河』展 ~横尾忠則現代美術館~

カテゴリ:文化人, 現代美術

昨年、東京の世田谷美術館で開催したシリーズ『連画の河』を、神戸で公開しています。今月は、初公開の際に本誌に寄せた「『連画の河』について思ったこと、考えたこと」を再びお伝えしたいと思います。
東京でご覧になった方も、東京と神戸の間に流れる時間を改めて体験して、東京展と神戸展がどう変わったかを改めて感じてくだされば、それもまたもうひとつの時間体験になるのではないでしょうか。

先ず、展覧会のタイトル「連画」というのは、実は「連歌」から発想したものです。
「連歌」と書いて「れんが」と読みます。連歌とは、何人かの同席した人によって歌をつなげていく、尻取りのようなゲーム感覚に近い、長句(五七五)と短句(七七)を逐次に読み続けていく形式の、変化を尊ぶ一種の文学です。
この連歌を僕は自分ひとりでやってみようと考えました。先ず最初に1枚の絵を描きます。その絵を素材に次の絵を描きます。
自分で描いた最初の1枚からインスピレーションを触発されて、2枚目を描きます。さらに、その絵が3枚目の絵を、という具合に4枚、5枚とどんどん増やしていきます。
シュルレアリズムにも、これに似た、何人かの画家によって連鎖的に描き加えていく形式があります。
この場合は、最初の人が人間の頭を描きます。最初に描いた部分を隠して、次の画家が胴を描きます。このようにして、何人かの画家が尻取り形式によって描き、最後の画家が足を描いて完結。最後に、隠されていた部分を外して、全体像を見ます。何人かの画家の手によって、1人の人物画が完成します。
これは一種の連歌の変形だと思います。今回の僕の展覧会の一点一点の絵は、このような連歌形式によって描いた絵なので、「連歌」ではなくて「連画」と名付けました。説明が長くなってしまいましたが、もし、これらの作品を観賞していただく時は、一点一点、前の作品を見ながら、目の前にある作品をどのように変化させていったかを楽しみながら見ていただきたいのです。
従って、目の前の作品は現在で、前の作品は過去、次の作品は未来、という風に時間を追いながら観ていくと楽しめるのではないかと思います。勿論、一点づつ観ていただいてもいいのですが、この一連の連画は、一種の時間芸術と呼んでもいいのではないでしょうか。
絵画を単なる「空間」として見るのではなく、「時間」として見ていただくと、全ての作品、つまり最初から最後までが連鎖していることに気づくはずです。
映画やアニメは、1枚の絵が次々と展開していきます。つまりわれわれは、変化していく中で時間体験をしているのです。多くの絵は空間体験を要求しますが、僕の今回の絵は「連歌=連画」ですので、知らず知らずに、絵を時間として眺めているのです。
映画やアニメのような動画ではないですが、見る人の中では動いているのです。これはやはり現物の絵を見て、無意識の間に時間を体験していただきたいのです。
今回展示される最初の一作品目は、横尾忠則現代美術館所蔵の『記憶の鎮魂歌』という作品です。この作品は、僕の郷里の西脇市を流れる加古川と杉原川が合流した地点に架かっている鉄橋を背景に、数人の同級生のグループ写真を素材に絵画化した作品です。
この絵を連歌の最初の1枚として、2枚目以後、約60点の連鎖的作品が描けてしまったのです。最初の数点はなんとなく最初の絵の原形を残していますが、そのうち、インスピレーションがどんどん飛躍してしまって、とんでもない地点へ向かっていきます。
だけど僕の中では、全作品が連鎖しています。具体的に描かれた絵の連鎖は客観的にわかりますが、そのうち、具体的な関係は、次々と形而上的領域へと入っていきますので、客観的には全く何も連鎖していないかのように見えます。
僕自身が始めた連画であるはずなのに、そのうち絵の力によって、僕は絵の支配下に置かれていきます。
従って観賞者は、初めの10数点は「連歌=連画」として認識していますが、そのうち何が何だかわからなくなっていきます。
それが、作家の狙いだとは言いませんが、観賞者の中で「連歌=連画」が解体していきます。われわれの住むこの世界は、いずれ崩壊する運命にあるかもしれません。この僕の「連画」の流れは、その地球と人類の消滅への運命と、どこかで結びついているかもしれません。
まぁ、別の言い方をすれば、「連画の河」展は、僕の終末絵画かもしれません。

ポスター(デザイン 横尾忠則)


《クラインの壺》2023年


《赤い恋》2024年


《タヒチの太陽》2024年


横尾忠則美術館では『連画の河』展を開催中です。

横尾忠則現代美術館

撮影:横浪 修

美術家 横尾 忠則

1936年兵庫県生まれ。ニューヨーク近代美術館、パリのカルティエ財団現代美術館など世界各国で個展を開催。旭日小綬章、朝日賞、高松宮殿下記念世界文化賞、東京都名誉都民顕彰、日本芸術院会員。著書に小説『ぶるうらんど』(泉鏡花文学賞)、『言葉を離れる』(講談社エッセイ賞)、小説『原郷の森』ほか多数。2023年文化功労者に選ばれる。

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