12月号
福祉のまちを目指して シリーズ The welfare city “KOBE”
「人が人を育てる」当たり前を子どもたちに
お話/橋本 明さん
〈家庭養護促進協会事務局長〉
―協会の活動はどのようなものでしょうか。
現在、日本国内には、親の病気、行方不明、離婚、虐待などの理由で親と暮らせない子どもたちは3万人ほどいますが、そのほとんどが児童養護施設で、集団で暮らしています。そんな子どもたちを一般の家庭の「里親」のもとで生活できるように、ラジオや新聞で里親を求める運動や里親家庭への支援、広報などを行っているのが家庭養護促進協会です。
メディアを通して、地域の中で里親や養子を探す活動をアメリカで見た故・小笠原平八郎さんが、ぜひ神戸でも里親運動を進めたいとその方式を神戸でも展開したのです。1962年より神戸新聞とラジオ関西の協力で里親を探す『愛の手運動』がスタート、来年で50周年になります。こういったメディアを巻き込んだ里親運動は、全国でも初めてのことでした。
いま、世界的にも、子どもたちは大規模な施設ではなく、地域の家庭で育てる必要性があると考えられており、我が国でも今年になってやっと、施設の規模を縮小したり、里親や小さなファミリーホームで子どもを育てる方向が示されました。
というのも、やはり子どもにとって必要なのは、大きな住居ではなく、人が人を育てるという環境なのだということがわかってきたからです。家庭には、特定の人との愛着、基本的な信頼関係が存在します。数人の職員が多数の子どもたちの面倒をみなくてはならない施設ではその「特定の人との関係」の形成が難しく、「自分だけに与えられる無条件の愛情・信頼」を誰からも与えられなかった子どもは、発達上、将来的にさまざまな問題を抱えることが多くなることがわかってきました。
また将来、自分の家庭を持つようになる子どもたちは、家庭の暮らし、親のイメージを学ぶことが必要であり、親と暮らせない子どもたちが普通の暮らしを学ぶためにも、里親の存在は非常に大切なことです。
―里親にはどんな種類がありますか。
養子縁組をして親子関係を結ぶ「養子里親」、今回の東日本大震災でも多く例が見られた、親族が養育する「親族里親」、一定の期間または18歳~20歳になるまで子どもを養育する「養育里親」、虐待を受けた子どもなどを養育する「専門里親」の4種類があります。こういった里親には、生活費や教育費などが国や県、市から支払われます。
またそれとは別に、児童福祉施設などで生活する子どもを夏・冬休みの一週間前後や、週末のみ家庭に迎える「週末里親」「季節里親」などのボランティア里親があります。
ボランティアの里親になるには特別な資格は必要ありません。ケースワーカーが里親希望者と面接し、家庭訪問を行い、里親やその家族が子どもの養育に理解と熱意を持っているかなどを検討させていただきます。
この里親制度は子どもの幸せのための制度であって、大人のためではありませんので、老後の面倒を見てほしいからといった動機はこの制度にはなじめません。またボランティア里親でも、里親側の都合だけでやめたいといわれた場合、子どもは何か自分に落ち度があって断られたのではないかと悩む場合もありますから、一度出会った子どもは継続して受け入れていただくようお願いしています。
―私たちには何ができるでしょうか。
当協会では、定期的に里親同士の交流会を開いていますが、皆さんがおっしゃることは「子どもに教えられることが多い」ということです。育てるだけでなく「育ち合う」という言葉があてはまるようです。
子どもも、里親に出会うことによって、大きく人生が変わります。自分を捨てた親を憎み続けていた子どもが、里親に出会い、育てられ、実の親が自分を手放した苦しみを知ることができたと話した子どももいます。
人は変わります。変わるためには、人との出会いが不可欠です。
現在は、社会の変化によって、家族のかたちが変わってきています。離婚・再婚家庭が増え、血の繋がらない親子が一緒に住むといったことも増えています。形にはまらず、子どもたちは無条件に自分を受け入れてくれる大人に出会うことで、「人は信じられるものなのだ」ということを学びます。
例えば週末や夏休み、冬休み中だけでも、子どもたちのボランティア里親として、交流してみることを考えてみてはいかがでしょうか。